2025/02/10|979文字
<集団いじめの危険性>
パワハラやセクハラは、加害者も直接の被害者も個人であることが多いものです。
しかし、職場環境や企業風土によっては、特定の個人が先輩や同僚から集団でいじめられることもありえます。
いじめによる自殺などの被害は、決して学校に限られたものではないのです。
加害者側は「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」という感覚、つまり、共同責任は無責任という感覚に陥っています。
「私だけが悪いわけではないから」という感覚でいじめに加わった場合、法律上はむしろ重い責任を負わされることになります。
刑法では共同正犯とされ、一部を実行したに過ぎなくても全部の責任を負わされます。〔刑法第60条〕
民法では共同不法行為とされ、実際に行為に及んだ人も、手助けした人も、そそのかした人も、ひとり一人が全ての損害に対する賠償責任を負わされます。〔民法第719条〕
<大阪地裁 平成22(2010)年6月23日判決>
被害者の女性は、同僚の複数の女性社員たちから集団で、しかも、かなりの長期間継続していじめを受けました。
その内容も、陰湿で常軌を逸した悪質なひどいいじめでしたから、被害者の女性が受けた心理的負荷は強度なものでした。
上司たちは気づかなかったり、気づいた部分についても何ら対応を採らなかったりという無責任な態度でした。
ついに、被害者の女性は上司に相談するのですが、上司が何も防止策を採らなかったために、かえって失望感を深めてしまいました。
こうして、被害者の女性は不安障害と抑うつ状態を発症し、労災と認定されたのです。
この被害者女性は、特に弱い人ではなく、同僚の女性社員たちからの集団いじめと、会社の不対応が発症の原因であると裁判所により認定されました。
この事件では、労働基準監督署に対する労災保険の給付請求があったのに対して、労働基準監督署長が不支給の処分をしたため、被害者の女性が裁判所に訴えを起こしたのでした。
行政の判断が最終結論ではなく、それに不服があれば、訴訟により決着をつけるという道が残されています。
会社から見れば、こうした事件を予防するためにも、多くの労働裁判例を検討して対策をとる必要があるということです。
「とてもそこまで行う人材を社内で確保できない」ということであれば、労働法に明るい弁護士や社会保険労務士に依頼することも考えなければなりません。