職場でのアウティング

2025/04/03|1,135文字

 

<アウティング>

本人の了解を得ずに、性的マイノリティ(少数者)であることを暴露することをアウティングと呼んでいます。

性的指向(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)や性自認(トランスジェンダー)をカミングアウトして、自分を偽らずに生きたいと思っている人もいます。

しかし、他人から否定的な態度をとられ、人間関係が崩れてしまう恐れも大きく、なかなかカミングアウトしやすい環境は整っていません。

こうした中で、本人の意思によらず秘密を暴露されてしまうのは、大きな精神的ダメージとなり、精神疾患を発症する原因ともなります。

 

<個人の法的責任>

性的指向や性自認の個人情報は、病歴や健康状態と同じく非常にセンシティブな個人情報です。

アウティングを行った人は、アウティングされた人からプライバシー侵害等を理由として、不法行為による損害賠償を求められる可能性があります。

損害賠償の中身は、基本的には慰謝料です。

しかし、精神疾患を発症した場合には治療費も含まれますし、勤務できなくなれば失われた収入も含まれます。

万一自殺すれば、遺族から多額の賠償金を請求されることにもなります。

 

<企業の法的責任>

企業は、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

この義務の中には、アウティングが行われないようにする義務が含まれます。

つまり、個人情報をその内容に応じて必要な範囲内の社員だけで共有する、性的マイノリティやプライバシーの保護について社員教育を定期的に行うなどの配慮が求められています。

また、アウティングが業務の中で行われたのであれば、企業が使用者責任を負うこともあります。

これらの場合にも、アウティングされた人や遺族からの損害賠償請求が行われうることになります。

 

<就業規則での対応>

モデル就業規則の最新版(令和5(2023)年7月版)は、次のように規定しています。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

この中の「性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメント」には、アウティングが含まれると解釈すべきです。

より明確にするのであれば、次のように規定することも考えられます。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認の暴露やこれらに関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

年金事務所の管轄が異なる地域への会社等の移動や名称変更

2025/04/02|885文字

 

<該当する場合と手続内容>

適用事業所が、次のいずれかに該当した場合には、事業主が「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を提出します。

・適用事業所が、これまでの年金事務所が管轄する地域外へ住所変更する場合

・上記に併せて名称を変更する場合

 

管轄年金事務所の変更

同一都道府県内の場合…届出日の翌月1日より変更されます。

都道府県外の場合………届出日の翌月1日または翌々月1日より変更されます。

(届書受付日によって異なる場合があります)

 

健康保険料率の変更(協会けんぽ管掌の健康保険の場合)

他の都道府県に事業所が移転する場合、健康保険料率が変更になる場合があります。

この場合、届書に記載された「事業開始年月日」から変更後の健康保険料率が適用されることになり、既に徴収済みの健康保険料に過不足があるときは、年金事務所の管轄変更後に初めて納付する保険料で精算されます。

 

提出時期 事実発生から5日以内

提 出 先 変更前の事業所の所在地を管轄する年金事務所

提出方法 電子申請、郵送、窓口持参

 

<添付書類>

次の1.~3.の場合に応じて、添付書類が必要となります。

 

1.法人事業所の場合(所在地変更・名称変更共通)

法人(商業)登記簿謄本のコピー

 

2.個人事業所の場合(所在地変更)

事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)

 

3.個人事業所の場合(名称変更)

公共料金の領収書のコピー等

 

法人(商業)登記簿謄本のコピー、事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)は、発行から90日以内のものが必要です。

電子申請により提出する場合、添付書類は画像ファイル(JPEG形式またはPDF形式)による添付データとして提出することができます。

事業所の所在地が登記上の所在地等と異なる場合は「賃貸借契約書」のコピーなど事業所所在地の確認できるものを添付します。

 

<その他の留意事項>

この届出は、変更前の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ行いますが、変更後の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ引き継がれます。

改めて変更後の事業所の所在地を管轄する年金事務所へ届出する必要はありません。

同じ年金事務所の管轄内で会社等の所在地や名称を変更する場合

2025/04/01|547文字

 

<該当する場合と手続内容>

同一の年金事務所管内で、次のいずれかに該当した場合には、事業主が「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を提出します。

・同一の年金事務所の管轄地域内で所在地を変更する場合

・会社など適用事業所の名称を変更する場合

・同一の年金事務所の管轄地域内で所在地及び名称を変更する場合

 

提出時期 事実発生から5日以内

提 出 先 郵送で事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)

提出方法 電子申請、郵送、窓口持参

 

<添付書類>

次の1.~3.の場合に応じて、添付書類が必要となります。

 

1.法人事業所の場合(所在地変更・名称変更共通)

法人(商業)登記簿謄本のコピー

 

2.個人事業所の場合(所在地変更)

事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)

 

3.個人事業所の場合(名称変更)

公共料金の領収書のコピー等

 

法人(商業)登記簿謄本のコピー、事業主の住民票のコピー(個人番号の記載がないもの)は、発行から90日以内のものが必要です。

電子申請により提出する場合、添付書類は画像ファイル(JPEG形式またはPDF形式)による添付データとして提出することができます。

事業所の所在地が登記上の所在地等と異なる場合は「賃貸借契約書」のコピーなど事業所所在地の確認できるものを添付します。

諭旨解雇の意味

2025/03/31|738文字

 

<諭旨(ゆし)解雇の定義>

従業員が不祥事を起こし、諭旨解雇になったという報道に接することがあります。

しかし、その報道の中で、諭旨解雇の意味について説明されている例は、ほとんど見られません。

「諭旨解雇」というのは法律用語ではなく、公式な定義が無いことによるものと思われます。

諭旨解雇の取扱は各企業により異なるため、報道機関も安易に解説できないのです。

それでも、諭旨解雇の多くは、懲戒解雇の一種または退職勧奨による退職であると考えられます。

 

<懲戒解雇の一種>

就業規則や労働条件通知書などに定められた懲戒処分の一つで、解雇予告手当や退職金の全額または一部を支払ったうえで解雇するものです。

懲戒解雇も諭旨解雇も、就業規則などに具体的な定めが無ければできませんし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければ、解雇権の濫用となり無効です。

また、退職金の減額や不支給が就業規則に規定されている場合であっても、客観的に相当と認められる範囲に限り有効となります。

退職者が会社を訴え、退職金の不足分を請求すると、多くの場合に裁判所が会社に対して不足する退職金の支払を命ずる判決が下されています。

 

<退職勧奨による退職>

従業員の不祥事や非行があった時に、その行為を諭(さと)したうえで、従業員自身の意思により退職願を提出させるものです。

これは、退職を勧められたことにより、従業員自身の意思で退職を決めるので、解雇にはあたりません。

しかし、従業員の自由な意思による決定が前提となっていますので、精神的に追い込まれ、その真意に反して退職願を提出させられたような場合には、退職の申し出が無効となることもあります。

本人に十分反省させたうえで、自主的に退職させることが、その本質となります。

退職間際に付与された年次有給休暇の取得も制限はされません

2025/03/30|2,077文字

 

<退職間際の年次有給休暇取得>

社員から退職と合わせて、年次有給休暇の取得についての申出があると、多くの場合、上司は大いに困惑します。

まだ部下には伝えていないものの、これから着手しよう、進行しようと思っていた業務が、滞ってしまうかもしれません。

ましてや、年次有給休暇が付与されたばかりの時期に、退職にあたってすべての年次有給休暇を消化したいという希望が出されると、感情的になってしまうこともあるでしょう。

しかし、年次有給休暇の権利は労働基準法によって、最低限の日数が定められています。就業規則によって、法定を上回る日数の休暇が定められていることもあります。退職日が近いことを理由に、上司のマイルールで年次有給休暇の日数を削ったり、取得を制限したりはできません。

 

<業務が停滞する恐れ>

突然の退職者が出たことによって、業務が停滞する可能性というのは、その職場での事前準備の状況によって大きく異なります。

交通事故に遭った社員が長期欠勤したり、不幸にして亡くなったりは、考えたくもないですが、ありうることです。

また、感染力の強いウイルスによって、同時に多数の社員が欠勤する可能性もあります。

 

<引き継ぎが終わらない恐れ>

退職者が出れば、その社員が抱えていた業務は、別の誰かが引き継がなければなりません。「別の誰か」がいなければ、必要な人材を採用しなければなりません。

こうした事態は業務の属人化が進み、「この人がいないと分からない」仕事が多いほど、不都合が大きくなってしまいます。それだけではなく、業務の属人化は不正の温床ともなります。

 

<感情的な問題>

部下が退職にあたって「多くの年次有給休暇を取得したい」と言ったとき、上司が不愉快に思うのは、上司自身が思うように年次有給休暇を取得できていないということがあるでしょう。あるいは、他の部下もほとんど取得していないということがあるかもしれません。

しかし上司も部下も、普段から年次有給休暇の取得率が高ければ、このような感情を抱くことはありません。そもそも、退職にあたって、まとめて取得する年次有給休暇の日数も多くはならないはずです。

上司が感情的になるのは、その職場での年次有給休暇の取得状況に問題がありそうです。

 

<業務マニュアルの常備>

一人ひとりの社員が、自分の業務について具体的なマニュアルを作成しておきます。業務の改善をする場合には、改善前・改善後のマニュアルを示して、上司の了解を得ます。これは、人事評価に必要な情報を上司に与えることにもなります。

新人に対しては、このマニュアルを示して、実際に業務を行ってみてもらいます。迷う箇所があれば、そこを明らかにして、マニュアルをより分かりやすく具体的にします。

こうしたマニュアルがあれば、急な欠勤や退職が出ても、かなりの不都合が緩和されます。

 

<就業規則への規定>

退職するにあたっては、担当業務のすべてのマニュアルと引継書について、上司の確認を受けることを義務付け、就業規則に規定してはいかがでしょうか。この義務を怠って退職する場合には、退職金の減額などペナルティを科すことも可能です。

 

<年次有給休暇の計画的付与制度>

年次有給休暇の計画的付与制度とは、就業規則に定め労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいいます。

しかし、年次有給休暇の計画的付与は、年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではありません。従業員が病気その他の個人的事由による取得ができるよう、指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があるためです。

年次有給休暇の日数のうち5日は個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければなりません。このため、労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。

また、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。ただし、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。

この制度を利用することで、年次有給休暇の取得を促進し、退職時の残日数を減らすことができます。

 

<年次有給休暇の分割付与>

年次有給休暇の一部を、入社時に前倒しで付与している企業もあります。たとえば、入社時に5日を付与して、半年経過後に残りの5日を付与するという形です。

こうした場合、翌年以降も、半年前倒しで付与した日数以上の年次有給休暇を付与する必要があります。たとえば、半分は前倒しで付与し、残りは法定の時期に付与する制度を就業規則に定めて運用すれば、退職にあたってまとめて取得することをある程度は防ぐことができます。

もっとも毎年、取得させる義務のある5日しか取得させていない企業では、結局、年次有給休暇が溜まってしまいますから、効果は期待できません。

解雇理由は事実の収集と保管が必要です

2025/3/29|1,158文字

 

<解雇の理由>

労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

解雇を通告された従業員から、「解雇権の濫用であり解雇は無効である」と主張されないためには、使用者側が「客観的に合理的な理由」を示す必要があります。

使用者側が主観的に合理的だと思っても、事実の裏付けがなければ、「客観的に合理的」ではないかもしれません。

結局、使用者側は、解雇対象者に対して、解雇の「客観的に合理的な理由」となる事実を示さなければなりません。

 

<普通解雇の理由>

懲戒解雇であれば、就業規則に具体的な規定があって、明らかに規定が適用されるケースだとして、適正な手続を踏んだうえで行われます。

一方で普通解雇は、労働者の債務不履行による労働契約の解除ですから、雇用契約書や労働条件通知書の規定が根拠となります。

普通解雇の理由としては、能力不足・協調性欠如・職務専念義務違反などがあります。これらは余りにも「あたり前のこと」とされやすく、使用者は「常識的に見て」債務不履行があると安易に考え、また証拠の確保を怠りやすいという危険があります。

 

<証拠の確保>

能力不足であれば、使用者から見て「どう考えても能力不足だから」ということだけでは、労働審判や訴訟で「客観的に合理的な理由」を示すことができません。

 

たとえば、次のような事実の記録を残しておく必要があります。

・◯年◯月◯日◯時頃に、指示通りの入力作業ができなかった。

・その場で上司の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らずに「うん、うん」と返事をしながら聞いていた。質問があるか確認したところ、「分かったから大丈夫」と答えた。

・ところが、翌日の◯日の◯時頃に、やはりその入力作業ができていなかった。

・上司が外出中であったため、先輩社員の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らないので「メモを取りながら聞いてください」と言ったところ、「大丈夫です」と答えてメモは取らなかった。

・さらに翌日以降も、正しく入力作業ができなかった。

 

こうした事実についての記録を少数残しておいても、「たまたま不向きだったのではないか。他の業務を担当させれば良かったのではないか。」という疑いが生じます。

結局、あれこれやらせてみたが、基本的な能力を欠いていて、どの業務もこなせなかったことを示す事実の記録を残さなければなりません。

 

<証拠が残らない理由>

退職してもらう人を観察し、指導し、記録を残すというのは、心理的な抵抗が大きいと思います。

しかし日本では、常識的に見て解雇は当然と思われるケースについて、不当解雇の司法判断が下されやすいという現実があります。

面倒に思わず、会社を守るためと思って、記録を残すようお勧めします。

障害者が気持ちよく働けていない能力が発揮できない場合の職場の対応

2025/03/28|1,441文字

 

<いじめが疑われる場合>

障害者に対する偏見などにより、同僚からいじめられていたり、上司からパワハラを受けていたりすることによって、本来の能力を発揮できないことがあります。

また、求められている能力を発揮して業務をこなしているにもかかわらず、周囲から仕事ぶりについて悪く言われていることもあります。

この場合には、会社のトップや人事担当者が障害者と面談して、いじめの事実が無いか確認する必要があります。

そして、本人がいじめの事実を認めた場合でも、他に被害者がいないか、目撃者はいないかなどの調査を会社が始めると、告げ口したとされて、かえっていじめがエスカレートしてしまう危険があります。

会社が、いじめ、パワハラ、障害者について、きちんとした社内教育をしないうちに、障害者を迎え入れてしまうのは危険だということです。

それでも、法定の障害者雇用率の段階的な上昇により、障害者の雇用が難しくなりつつありますから、急ぐあまり、態勢が整わないうちに採用してしまうこともあります。

こうした場合には、すぐに犯人探しに走るのではなく、研修などの社内教育をする旨の全社告知をしたうえで、計画的に進めるのが得策です。

 

<メンタルヘルス不調が疑われる場合>

身体障害やいじめなどが原因で、精神疾患にかかっている場合もあります。

また、元々あった精神疾患が悪化している場合もあります。

これらの場合には、上司や同僚から不自然な言動についての情報が入ることもあります。

会社のトップや人事担当者が障害者と面談して、受け答えや態度に疑問を抱くようであれば、専門医の受診を促すようにします。

程度によっては、ご家族、支援機関、主治医、産業医との連動も必要になります。

精神疾患により、正常に勤務できないのであれば、会社のルールに従い休職などの手続を取ることになります。

 

<障害者雇用促進法に基づく合理的配慮>

障害者を採用した場合や、健常者である社員が障害者となった場合には、会社が障害者雇用促進法に基づく合理的配慮を求められます。

こうした配慮が無いために、障害者が能力を発揮できないのであれば、会社側に問題があることを素直に認め、合理的な配慮を実施しなければなりません。

障害者の雇用の促進等に関する法律は、昭和35(1960)年に障害者の職業の安定を図ることを目的として制定されました。

そして、労働者の募集・採用、均等待遇、能力発揮、相談体制などについて定められ〔第36条の2~第36条の4〕、事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が定められるとしています。〔第36条の5

また、平成28(2016)4月の改正障害者雇用促進法の施行に先がけて、合理的配慮指針が策定されています。(平成27(2015)325日)

この指針を参考にして、会社としての取り組みを進めましょう。

 

<解雇の検討>

以上の問題をクリアしたうえで、尚、障害者が思うように働いてくれない場合には、普通解雇を検討することになります。

しかし、障害者の場合には、会社側の努力が求められている分だけ、能力不足を理由とする解雇が困難です。

採用にあたっては、何をどこまで期待するのかについて、具体的な人材要件を文書化し、本人に説明して交付しておくことをお勧めします。

できれば3か月程度の試用期間を置き、定期的に必要な人材要件と本人の働きぶりとを対照しつつ面談を行って、本採用に至らない場合でも納得が得られるようにしておくと良いでしょう。

アルコール依存症への対応

2025/03/27|1,144文字

 

<アルコール依存症>

アルコール依存症とは、お酒の飲み方(飲む量、飲む間隔、飲む状況)を自分でコントロールできなくなった状態のことをいいます。

仕事、家庭、人間関係よりも、飲酒が優先となり治療が必要な状態です。

 

<コロナ禍でのアルコール依存症増加>

新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期に、アルコール依存症が増加したと言われています。

生活の制限や働き方の急変によってストレスが増大し、アルコールに頼る気持が強くなってしまいました。

また、在宅時間が長くなったことから、自由にアルコール飲料を手にするチャンスも増えていました。

こうして、長時間にわたり多量に飲酒できる環境下で、アルコール依存症となるリスクが増大していたのです。

 

<飲酒の自由>

しかし、成人であれば、プライベートの時間に飲酒するのは基本的に本人の自由です。

体質にもよりますが、度を越した飲酒は、肝臓、膵臓、心臓、脳、血管、神経などに障害をもたらします。

これによって、生産性の低下や欠勤などが発生すれば、会社は具体的なダメージを受けますから、定期健康診断などの結果を踏まえ、対象者に健康指導を行う必要があります。

場合によっては、節酒や禁酒を求めることもあるわけです。

これは、アルコール依存症への対応ではなく、飲酒による健康障害への対応、あるいは予防策ということにもなります。

 

<アルコール依存症による職場の問題>

アルコール依存症となれば、内臓に大きな障害が発生していなくても、集中力・注意力の低下により、業務効率の低下、ミスの多発、労災やその危険の発生が見られるようになります。

生活習慣の乱れから、遅刻・早退・欠勤や年次有給休暇取得の急増もあるでしょう。

 

<治療に向けて>

飲酒はプライベートなこととはいえ、アルコール依存症の影響により発生した事実の中には、懲戒の対象となるものもあります。

会社は、これを軽視せず、就業規則に従って適正な懲戒を行う必要があります。

無断遅刻・無断欠勤、正当な理由の無い遅刻・早退・欠勤、不注意により会社に損害をもたらす、飲酒し酔った状態で勤務などは、発生しやすいものです。

懲戒を受けることによって、本人がアルコール依存症と正面から向き合うきっかけが生まれます。

またこれに先立ち、懲戒手続の中で本人に弁明の機会を与えることになりますから、ここで出てきた情報を元に、アルコール依存症の可能性を説明し受診を促すこともできます。

本人のことを考えれば、決して対応に遠慮があってはなりません。

 

<実務の視点から>

在宅勤務が長期化している場合には、上司や人事担当者との定期的なオンライン面談も必要です。

話し方やしぐさの変化から、ストレスの蓄積具合や生活習慣の乱れが感じられたなら、適切なフォローが必要となってきます。

懲戒処分での情状酌量とは

2025/03/26|918文字

 

<情状とは>

刑事手続では、訴追を行うかどうかの判断や刑の量定に影響を及ぼすべき一切の事情をいいます。

犯罪の動機や目的、犯人の年齢・経歴や犯行後の態度などがこれにあたります。〔刑事訴訟法第248条、刑法第66条〕

しかし、懲戒処分は会社の行う制裁であって、国が行う刑事処分と全く同じということではありません。

それでも、故意に行った場合には、その動機や目的が情状にあたります。

また、行為者の年齢、社歴、事後の態度などは情状にあたります。

 

<酌量とは>

刑事裁判では、同情すべき犯罪の情状を汲み取って、裁判官の裁量により刑を減軽することをいいます。〔刑法第66条〕

懲戒処分の場合にも、事情を汲み取って処分に手心を加えるという意味で使われます。

 

<就業規則の規定>

最新版(令和5(2023)年7月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第68条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

この規定からも明らかなように、「平素の服務態度」つまり「日頃の勤務態度」は、情状酌量の対象となります。

ただし、これは客観的に認定されなければ、不平等や不公平の問題が発生しますから、勤怠だけでなく人事考課による適正な評価を基準とすべきです。

 

<情状酌量の効果>

モデル就業規則には、他にも「情状に応じ」〔第67条本文、第68条第1項本文〕、「その情状が悪質と認められるとき」〔第68条第2項第9号〕という言葉が出てきます。

つまり、情状酌量が懲戒処分を軽くする方向に向かう場合だけでなく、懲戒処分を重くする方向に向かう場合にも作用するということになります。

 

懲戒処分を行うこと自体、懲戒権の濫用となり無効となることがあります。〔労働契約法第15条〕

この場合には、不本意ながら、懲戒処分を通知した従業員から慰謝料など損害賠償を求められることもあります。

結局、安易な懲戒処分は会社にとって危険ですから、情状酌量をも踏まえて、どの程度の懲戒処分が可能なのかは、刑法に明るい社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

一部の事業の雇用保険料が高い理由

2025/03/25|896文字

 

<特掲事業>

雇用保険では、失業等給付の負担の均衡化を図るために、短期雇用特例被保険者が多く雇用される事業については、雇用保険の保険料の料率を一般の事業と比べて高くしています。

これらの事業を特掲事業といい、次の4つの事業が該当します

(1) 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(園芸サービスの事業は除く。)

(2) 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業(牛馬の育成、養鶏、酪農又は養豚の事業及び内水面養殖の事業は除く。)

(3) 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(通常「建設の事業」といっている。)

(4) 清酒の製造の事業

 

<失業等給付>

雇用保険で、労働者の生活及び雇用の安定、求職活動の促進のために支給される給付金をまとめて失業等給付といいます。

失業等給付には、1.求職者給付、2.就職促進給付、3.教育訓練給付、4.雇用継続給付の4種類があり、50年前まで「失業手当」と呼ばれていたものは、求職者給付の基本手当に相当します。

 

<短期雇用特例被保険者と特例一時金>

季節的に雇用されている者等は、短期雇用特例被保険者として一般の雇用保険加入者(被保険者)と区別されます。

短期雇用特例被保険者は、一定の期間ごとに就職と離職を繰り返すため、一般の被保険者への求職者給付よりも一時金制度とすることのほうが、その生活実態に適合しているといえます。

そのため短期雇用特例被保険者には、一般の被保険者と区別して、特例一時金が給付される仕組がとられています。

 

<不公平の是正>

特掲事業には、短期雇用特例被保険者の割合が高く、特例一時金の給付も多いのです。

そして、給付と保険料とのバランスを考えたときに、特例一時金は失業等給付の中でも、特に保険料に対する給付の比率が高いものとなっています。

そのため、すべての事業で雇用保険率を一律にしてしまうと不公平が発生してしまいます。

特掲事業を定め、これらの事業だけ雇用保険率を高くすることによって、この不公平を是正しているわけです。

PAGE TOP