仕事ができる考課者による評価は厳しくなってしまう傾向があります

2025/02/02|741文字

 

<酷評化傾向(厳格化傾向)>

酷評化傾向というのは、評価がついつい厳しくなる傾向です。

仕事をこなす能力の高い人が、自分を基準にして評価する場合に起こります。

また、実際に能力が高いわけではないのに、自分にかなり自信を持っている人も同じ傾向を示します。

完璧主義者に多く見られ、対象者を追い詰め重箱の隅を突くようなあら探しをしてしまう傾向があります。

評価に差が出ないため人事考課の目的を果たせないこと、評価対象者が絶望してしまい転職を考えることが問題となります。

 

<役職者としての能力不足>

役職者には、部下の一人ひとりを育てる役目もあります。

育てるためには、部下の具体的な業務内容だけでなく、個性もしっかり把握する必要があります。

部下の全員が自分と同じ個性を持っているかのように振る舞っていては、部下を育てることができません。

そもそも、自分自身の成長や昇進ばかりを考えている役職者では、部下をどう育てるかの指針や目標を立てることも困難です。

 

<酷評化傾向を示す役職者への対応>

人事考課制度を適正に運用するためには、考課者に対する定期的な教育研修の実施が大事です。

そして、酷評化傾向を示す役職者には、人事考課の目的の再確認、部下を育てる能力の開発や役割認識について、重点的な教育研修が必要でしょう。

それでもなお、きちんとした人事評価ができないのであれば、適性を欠くものとして考課者から外すことも考えなければなりません。

そもそも、こうした人物が役職者になってしまうのは、個人的な能力の高さだけで抜擢され、人を育てる能力が評価されていない可能性が高いでしょう。

 

人事考課制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

業務災害でケガをした人や亡くなった人の家族からの会社に対する請求

2025/02/01|1,142文字

 

<労災保険の給付>

労災事故が発生し、被災者が治療を受ければ、その治療費は労災保険によってまかなわれます。また、3日を超えて労務不能となれば、その期間は労災保険等により、賃金の8割が補償されます。

通勤災害であれば、原則として会社側の過失は問題とされません。しかし、業務災害であれば、会社側に過失があった場合、労災保険でまかなわれない部分の補償が問題となります。

 

<被災者からの請求>

業務災害の原因が、設備・機械・道具などの不良であったり、マニュアル・表示の誤りであったりすれば、会社側にも過失があったとして、被災者から会社に対して損害賠償請求をすることがあります。

労災保険等ではまかなわれない、賃金の8割を超える部分や慰謝料の請求が中心となります。

しかし被災者は、自分自身に少しでも過失があれば、それを反省しますし、退職する気がなければ、復帰後のことを考えて遠慮することが多いでしょう。

 

<被災者家族からの請求>

被災者が苦しむ様子を見て、あるいは被災者が意識を失っているような場合には、ご家族から労災保険でまかなわれない損害について、会社に賠償を求めることがあります。

被災者家族が、会社の被災者に対する安全教育の不足を疑うこともありますし、遠慮のない主張がされることもあります。

ましてや、被災者が亡くなった場合には、相続人でもある親族から、遠慮のない追及・請求が行われやすいものです。

 

<被災者家族からの請求に備えて>

被災者の家族や遺族から、会社の責任を追及する場合には、会社側に過失があったことが前提となります。

会社としては、労災が発生した場合でも、会社側に過失が全くない、あるいは、ほとんど過失がないことを、被災者の家族や遺族に資料を示して説明できれば、損害賠償の請求を受けることもないでしょう。

会社の備えとしては、安全委員会、衛生委員会、産業医、顧問社労士などと協力して、次のような事前対策が必要です。

 

・設備の定期点検を怠らないようにする。法定の点検項目ではなくても、階段やドアの周辺など、職場の危険箇所の確認と改善を進める。

・機械類の定期点検を怠らないようにする。従業員から不具合の申し出があれば、すぐに確認し対応する。マニュアル類は、機械の近くに配置し従業員に周知する。

・道具類の不具合や老朽化を放置しない。従業員から情報を吸い上げる仕組みの構築も必要。

・危険箇所への「あぶない」「あつい」「さわるな」「指はさみ注意」などの表示を徹底する。

・安全教育や研修について、実施内容と参加者の記録を残す。できる限り、参加時の参加者の署名を保管する。

 

以上を実施すれば、被災者家族との労災紛争を避けることができるだけでなく、従業員の労働安全意識の向上や、労災発生の防止に役立つことは明らかです。

夫婦共同扶養の扶養家族(健康保険)

2025/01/31|1,641文字

 

<「通知」の改定>

令和3(2021)年4月30日、厚生労働省保険局保険課長と厚生労働省保険局国民健康保険課長の連名で、夫婦共同扶養の場合の扶養家族(被扶養者)の認定についての通知が発出されました。

かつては、夫婦共同扶養の場合の被扶養者の認定については、昭和60年通知(昭和60年6月13日付保険発第66号・庁保険発第22号通知)が基準となっていました。

ところが、令和元(2019)年に成立した医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律(令和元年法律第9号)に対する附帯決議として、「年収がほぼ同じ夫婦の子について、保険者間でいずれの被扶養者とするかを調整する間、その子が無保険状態となって償還払を強いられることのないよう、被扶養認定の具体的かつ明確な基準を策定すること」が付されました。

今回の通知変更は、上記の附帯決議を踏まえ、夫婦共同扶養の場合の被扶養者の認定について、基準を改めることとなり、通知が改定されたものです。

新たな認定基準は、夫婦とも被用者保険の被保険者の場合と、夫婦の一方が国民健康保険の被保険者の場合とを分け、次のように示されています。

 

<夫婦とも被用者保険の被保険者の場合

被扶養者の人数にかかわらず、被保険者の年間収入(過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだもの)が多いほうの被扶養者とします。

ただし、夫婦の年間収入の差額が年間収入の多いほうの1割以内である場合は、届出により、主たる生計維持者の被扶養者とすることができます。

また、いずれか一方が共済組合の組合員であって、その者に被扶養者とすべき者についての扶養手当またはこれに相当する手当(扶養手当等)が支給されている場合には、支給を受けている者の被扶養者として差し支えありません。

被扶養者として認定しない保険者等は、その決定についての通知を出します。

被保険者は、その通知を届出に添えて次に届出を行う保険者等に提出します。

不認定通知とともに届出を受けた保険者等は、通知に基づいて届出を審査し、他保険者等の決定につき疑義がある場合には、届出を受理した日より5日以内(書類不備の是正を求める期間および土日祝日を除く)に、他保険者等と、いずれの者の被扶養者とすべきか年間収入の算出根拠を明らかにしたうえで協議し、協議が整わない場合には、初めに届出を受理した保険者等に届出が提出された日の属する月の標準報酬月額が高いほうの被扶養者とします。

夫婦の年間収入比較のための添付書類は、保険者判断として差し支えないものとされます。

 

<夫婦の一方が国民健康保険の被保険者の場合

被用者保険の被保険者については年間収入を、国民健康保険の被保険者については直近の年間所得で見込んだ年間収入を比較し、いずれか多いほうを主たる生計維持者とします。

被扶養者として認定しない保険者等は、その決定についての通知を出します。

被保険者はその通知を届出に添えて国民健康保険の保険者に提出します。

被扶養者として認定されないことについて、国民健康保険の保険者に疑義がある場合には、届出を受理した日より5日以内(書類不備の是正を求める期間と土日祝日を除く)に、不認定通知を出した被用者保険の保険者等と協議し、協議が整わない場合には、直近の課税(非課税)証明書の所得金額が多いほうを主たる生計維持者とします。

 

<その他の留意事項>

主たる生計維持者が健康保険法第43条の2に定める育児休業等を取得した場合、その休業期間中は特例的に被扶養者を異動しません。

年間収入の逆転に伴って、被扶養者認定を削除する場合は、年間収入が多くなった被保険者の保険者等が認定することを確認してから削除します。

被扶養者の認定後、結果に異議がある場合には、被保険者または関係保険者の申立てにより、被保険者の勤務する事業所所在地の地方厚生(支)局保険主管課長が関係保険者の意見を聞き、あっせんを行うことになっています。

人事考課の評価基準を公開していいのか、した方がいいのか

2025/01/30|1,112文字

 

<望ましい社員像>

企画力、実行力、改善力といった能力が高い人は、これらの能力が低い人よりも、良い評価を与えられます。

これらの能力は、業務遂行に必要であり、高いレベルで身に着けていることが望ましいからです。

同様に、責任性、積極性、協調性が優れている人は、これらの態度が見られない人よりも、良い評価を与えられます。

これらの態度は、職場の一員として必要であり、組織全体に良い影響を与えますから望ましいと考えられるのです。

このように、人事考課の評価基準というのは、職場にとって望ましいものを高く評価し、望ましくないものを低く評価するようにできています。

極論すれば、すべての項目で最高の評価を与えられる社員は、理想的な社員ということになります。

 

<評価基準公開のメリット>

良い評価には、昇給や賞与の増額など、処遇のアップが伴います。

ですから、向上心も欲も無い一部の社員を除けば、良い評価を得たいと望んでいます。

しかし、評価基準を秘密事項に設定し、一部の考課権者だけが知る情報としていたら、一般の社員は、どうしたら良い評価を得られるのか、努力の方向が見えないことになります。

やはり、具体的な評価基準を社内に公開することによって、理想的な社員像に近づく努力を促した方が、会社にとっても社員にとってもメリットが大きいということになります。

 

<違法な評価基準>

次のような評価基準の例は、すべて違法なものです。

たとえ文書化されていないとしても、人事考課の運用基準として、加味してはならない項目ばかりです。

・年次有給休暇を多く取得するほど評価が下がる。

・サービス残業や持ち帰り仕事が多いほど評価が上がる。

・労働組合に入っていると評価が下がる。

・結婚や出産の予定があると評価が下がる。

・パワハラやセクハラの被害にあったと主張すると評価が下がる。

・会社の労働基準法違反の事実を労働基準監督署にチクると評価が下がる。

・法定の権利を主張して育児や介護のために休むと評価が下がる。

このような違法な評価基準があれば、直ちに改善すべきです。

こうした項目を含む評価基準を公開すれば大問題になるでしょう。

 

<実務の視点から>

人手不足の業種・職種と人員過剰の業種・職種との差が大きくなり、社員の出入りが激しくなっているので、ますます人事考課制度が重要になっています。

今運用している評価基準が理想の社員像を示しているのか、基準の中に違法なものは含まれていないかなどの再確認は専門性の高い業務ですから、社内に適任者がいないかもしれません。

人事考課制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

従業員が会社に対して最低賃金法違反を主張できないブラックな理由

2025/01/29|1,789文字

 

<なんか変なのに>

自分の賃金と勤務時間からすると、最低賃金法違反だと思われるのに、何だか良く分からないので雇い主に何も主張できないという労働者がいます。

きちんと根拠を示して法令違反を主張したいのに、上手く計算できないというわけです。

 

<最低賃金額以上かどうかを確認する方法>

厚生労働省は、ホームページに次のような説明を公開しています。

支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。

 

(1) 時間給制の場合

時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

(2) 日給制の場合

日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、

 

日給 ≧ 最低賃金額(日額)

 

(3) 月給制の場合

月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

 

(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で割って1時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。

 

(5) 上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合

例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

 

<実は別の違法行為が>

自分の給与が最低賃金法違反のような気がするが、良く分からない、上手く計算できないという人の中に、時間給で働いている人はいません。

時間給であれば、それが最低賃金を下回っているかどうかが明らかだからです。

計算できないのは、日給や月給の人で、1日の所定労働時間や1か月の所定労働時間が明らかにされていない人たちです。

これではそもそも1時間当たりの賃金が計算できません。

労働条件のうちの基本的な事項は、労働者に対して書面で通知するのが基本です。

新人なら、1回目は雇い入れ通知書で、2回目からは契約更新の時や、時給変更、出勤日変更の時から労働条件通知書というパターンもあります。

「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」〔労働基準法第15条〕

これが労働基準法の定めです。そして、罰則もあります。

「三十万円以下の罰金に処する。」〔労働基準法第120条第1号〕

所定労働時間がわからないので、最低賃金法違反かどうかわからない人は、その前提となる労働条件通知書などの交付を求める必要があるでしょう。

雇い主に「賃金や労働時間などの条件を通知する書類をください」と言えばわかるはずです。

単に忘れているだけであることを期待しますが、「うちはそんなの出してないよ」ということならブラック確定です。

所定労働時間がわからないということは、残業手当の計算もできないですから、サービス残業もあると思われます。

 

<最低賃金法違反の罰則と企業名の公表>

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。

仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。

したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。

また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています。

この罰則は実際に適用されていますし、厚生労働省のホームページで企業名が公表されています。

長時間労働削減に向けた取組 ― 長時間労働削減推進本部 というページです。PDFファイルで表示されていますから保存も印刷も簡単です。

こうなると対象企業は、金融機関や取引先そしてお客様からの信頼を失いますし、求人広告を出しても応募者が集まらないのではないでしょうか。

パワハラとイジメはどう違うのか?会社はイジメを防止しなくてもいいのか?

2025/01/28|973文字

 

<パワハラ事件なのか?>

職場の同僚4人から監禁された挙げ句、電車に飛び込むよう強要されたという犯罪がニュースとなりました。これは、ひどいパワハラだと感じた方も多かったようです。

しかし、当初は行き過ぎた指導や叱責であり、パワハラに該当していたものが、途中から単なるいじめに変化していったと思われます。

 

<パワハラの成立要件>

パワハラは、職場において行われる次の1.~3.の要素すべてを満たす行為とされます。

1.優越的な関係を背景とした言動であって、

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

3.労働者の就業環境が害されるもの

そして、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しないとされます。

 

<事件のパワハラ該当性>

上記の事件では、監禁したり電車に飛び込むことを強要したりが、業務指示や指導とは無関係に行われています。

「2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、」というのは、そのベースに業務指示や指導があって、必要かつ相当な範囲を超えていることを意味します。しかし、この事件の場合、犯人の4人は、業務指示や指導を言い訳に犯行に及んだのかもしれませんが、業務指示や指導の意図など、まったくなかったと考えるのが自然です。たまたま同じ職場の同僚が加害者となり、被害者となっていたに過ぎないのです。

さらに、パワハラという略称は「職場におけるパワーハラスメント」のことをいいます。ここで「職場」は、広く業務が行われる場所を指していますから、業務で移動中の交通機関の中なども含まれますが、この事件は、職場の外での犯行です。これらは、そもそもパワハラに該当しません。

 

<企業の責任>

職場におけるパワーハラスメントであれば、企業は防止対策に努める義務を負っています。しかし、従業員が職場外で犯罪行為を行わないように指導・監視する義務までは負っていません。むしろ、犯罪行為を行った従業員に対しては、懲戒処分を検討することでしょう。

それでも、職場でのパワハラがエスカレートして、犯罪行為につながったとみられる場合には、パワハラを防止できなかった点で、企業は道義的な責任を問われることがあります。

こうしたことまで想定すれば、企業はパワハラに限らず、すべてのハラスメントを排除するよう努力を重ねるべきであるといえます。

デジタル庁設置の根拠となっているデジタル改革関連法

2025/01/27|1,769文字

 

<デジタル改革関連法について>

令和3(2021)年3月、内閣官房IT総合戦略室、デジタル改革関連法案準備室、総務省自治行政局は、「デジタル改革関連法案について」の中で、デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の骨子を次のように示していました。

・デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会 ~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~

・デジタル社会形成の基本原則(1オープン・透明、2公平・倫理、3安全・安心、4継続・安定・強靱、5社会課題の解決、6迅速・柔軟、7包摂・多様性、8浸透、9新たな価値の創造、10飛躍・国際貢献)

 

<デジタル改革関連法の成立>

政府が提出したデジタル改革関連の6法案が令和3(2021)年5月12日に開かれた参議院本会議で採決され、自民・公明の与党のほか日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。

成立したのは次の6法です。

 

1.デジタル社会形成基本法(令和3(2021)年9月1日施行)

 デジタル社会の形成に関し、基本理念および施策の基本方針、国、地方公共団体および事業者の責務、デジタル庁の設置並びに重点計画の策定について規定(IT基本法は廃止)

 

2.デジタル庁設置法(令和3(2021)年9月1日施行)

 デジタル社会の形成に関する司令塔として、国の情報システム、地方共通のデジタル基盤、マイナンバー、データ利活用等の業務を強力に推進するデジタル庁を設置

 

3.デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3(2021)年9月1日より順次施行)

 個人情報関係の3法を統合、国家資格に関する事務へのマイナンバーの利用の範囲を拡大、押印・書面手続の見直し、転入地への転出届に関する情報の事前通知

 

4.公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3(2021)年5月19日施行)

 緊急時の給付金や児童手当などの公金給付に、登録した口座の利用を可能とする

 

5.預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律(令和3(2021)年5月19日施行)

 相続時や災害時に、預貯金口座の所在を国民が確認できる仕組を創設

 

6.地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和3(2021)年9月1日施行)

 地方公共団体の基幹系情報システムについて、国が基準を策定し、基準に適合したシステムの利用を求める法的枠組みを構築

 

<デジタル・ガバメント実行計画の実現>

これらの法律は、デジタル・ガバメント実行計画(令和2(2020)年12月改定)を実現するためのもので、次の内容が示されていました。

 

1.サービスデザイン・業務改革(BPR)の徹底

 行政のあらゆるサービスをデジタルで完結できるようにする

 

2.一元的なプロジェクト管理の強化等

 デジタル庁の設置も見据え、すべての政府情報システムについて、予算要求前から執行までの各段階における一元的なプロジェクト管理を強化

 

3.国・地方デジタル化指針

 ワンス・オンリー実現のため、社会保障・税・災害の3分野以外での情報連携やプッシュ通知、情報連携アーキテクチャの抜本的見直し、マイナンバーカード機能のスマートフォン搭載、電子証明書の暗証番号再設定等を郵便局でも可能に、個人情報保護法制の見直し、戸籍の読み仮名の法制化など

 

4.行政手続のデジタル化、ワンストップサービス推進等

 書面・押印・対面の見直しに伴う行政手続のオンライン化推進、企業が行う従業員の社会保険・税や法人設立の手続のワンストップサービス推進、法人デジタルプラットフォームの機能拡充による法人等の手続の利便性向上など

 

5.デジタルデバイド対策・広報等の実施

 SNS・動画等によるわかりやすい広報・国民参加型イベントの実施など

 

6.デジタル・ガバメント実現のための基盤の整備

 クラウドサービスの利用検討の徹底、セキュリティ評価制度(ISMAP)の推進、情報セキュリティ対策の徹底・個人情報の保護、業務継続性の確保など

 

7.地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進

 自治体の業務システムの標準化・共通化の加速、マイナポータルの活用等により地方公共団体の行政手続のオンライン化推進など

業務委託契約というタイトルの契約書には注意が必要です

2025/01/26|1,260文字

 

<業務委託契約の特殊性>

契約について基本的なことを定めている法律は民法です。

ところが民法はおろか、その他の法律にも業務委託契約についての規定はありません。

何か契約を交わす場合には、法律に具体的な規定があった方が、トラブルを避けることができて便利なはずです。

それなのに、あえて法律に規定の無い契約を交わそうとするのは、法律の適用を避け、自分に一方的に有利な取り決めをしようという意図があるのでしょうか。

契約相手から、業務委託契約書の案を示されたら、内容をよく吟味しなければなりません。

不安があれば、専門家の確認を受けることをお勧めします。

 

<業務委託契約の内容>

業務委託契約という言葉からは、「業務を他人に委託する契約」ということしか分かりません。

学者たちは業務委託契約を、請負契約〔民法第632条〕、委任契約〔民法第643条〕、準委任契約〔民法第656条〕などの性質をもつ契約だと考えています。

そして、実際の業務委託契約には様々なものがあって、「これは請負契約」「これは委任契約」というように明確に分類することが困難だとしています。

結局、業務委託契約書の条文ひとつ一つを具体的に解き明かさなければ、その内容を把握できないということになります。

わざわざこのような契約を交わそうとするからには、やはり何らかの意図があるものと思われます。

 

<一方の当事者に有利な契約書>

請負では欠陥の無い完全な成果物を提供しなければならないのに対して、委任ではベストを尽くした結果なら不完全でも責任を問われません。

また、請負では材料や費用を負担するのは業務を引き受けた側ですが、委任なら業務を委託する側の負担となります。

さらに、請負なら簡単には契約の解除ができません。

しかし、委任ならいつでも契約を解除できます。

これらを踏まえて業務を委託する側が、「業務の結果は完全でなければならない。費用はあなたが負担しなさい。私はいつでも契約を解除できるが、あなたから解除を申し出ることはできない」という内容の業務委託契約書を作ることもできてしまいます。

 

<実務の視点から>

業務を委託する企業と、業務を行う人との契約関係が、実質的には雇用契約〔民法第623条〕なのに、契約書のタイトルが業務委託契約書となっていることもあります。

雇用契約(労働契約)であれば、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働法による労働者の保護があります。

これを企業側から見れば、労働者の保護に対応した負担が発生することになります。

ブラックな企業がこの負担を避けるため、実質は雇用契約なのに「業務委託契約書」を交わして「あなたは労働者ではないので、社会保険や雇用保険には入りません。労災保険も対象外です。年次有給休暇も残業手当もありません」と説明することもできてしまいます。

それでも、雇われている人はクビになることを恐れて「おかしい」とは言えないものです。

このような場合には、あきらめずに行政の相談窓口や契約に詳しい社会保険労務士に相談していただけたらと思います。

防止対策が急がれる就活ハラスメント

2025/01/25|870文字

 

<就活ハラスメントとは>

就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシャルハラスメントやパワーハラスメントのことをいい、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける人権侵害行為です。

面接で恋人がいるのかを尋ねるなど、採否の判断に関係のない事項を聞き出そうとする、採用の見返りに不適切な関係を迫る、食事やデートにしつこく誘うなどのセクハラ行為が該当します。

また、インターンシップ中の学生に対して、人格を否定するような暴言を吐くなど、誰に対しても行ってはならない人権侵害行為も含まれます。

 

<就活ハラスメントのリスク>

就活ハラスメントは、被害を受けた学生等にとって大きな精神的ダメージが生じますが、企業にとっても重大なリスクが発生します。

・就活ハラスメントのあった会社として、社会的信用を失い、企業イメージが低下します。

・ハラスメントが横行している会社だと学生たちに認識され、応募が減少する可能性があります。

・従業員の働く意欲やモラルが低下し、生産性が低下しますし、定着率も低下するリスクがあります。

 

<就活ハラスメントの防止>

労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法に基づく指針には、就活ハラスメントの防止が明記されています。

・雇用管理上の措置として、職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、就職活動中の学生等に対するハラスメントについても、同様の方針を示すことが望ましい

・就職活動中の学生等から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合に、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい

 

<実務の視点から>

万一、採用担当者等が就活ハラスメントを行ったことが発覚した場合でも、就業規則に、これに対する懲戒規定が設けられていなければ、会社が懲戒を行うことはできません。

就活ハラスメントの他、お取引先の従業員へのハラスメントなどを想定し、自社の従業員に対するものだけではなく、社外の人に対するハラスメントの禁止と、これに対応する懲戒規定が必要です。

入社にあたって提出する身元保証書の効力は弱く無効になりやすいのです

2025/01/24|1,248文字

 

<身元保証>

身元保証というのは、労働者が企業に損害を与えた場合に、企業が確実に損害の賠償を得られるよう、労働者本人以外の第三者にも責任を負わせる契約です。

企業に大きな損害を与えやすい労働者といえば、正社員が思い浮かびますから、正社員限定で身元保証を求める企業が一般です。

しかし、契約社員、パート、アルバイトなどにも身元保証を求める企業もあります。

これは企業の方針によって決めても良いことであって、不当なことではありません。

身元保証は、企業が確実に損害の賠償を得られるようにするための契約ですから、責任を負わされる身元保証人が、本人と全く同じ責任を負う連帯保証契約とするのが一般的です。

企業としては、安易に同居の親族を身元保証人にするのではなく、賠償責任を果たせるだけの資力・財産を備えた人物を選ばなければなりません。

一方で、身元保証人になることを依頼された場合には、親類だから、知り合いだからと安易に引き受けるのではなく、慎重に判断する必要があります。

 

<身元保証書の提出義務>

入社にあたって身元保証書の提出を求めることは、長年にわたって広く行われてきた企業一般の習慣です。

就業規則や労働条件通知書などに規定を置いて、身元保証書の提出を採用条件としたり、採用後に身元保証書を提出しないことを理由に採用取消としたりすることは、採用の時点でそのルールが知らされていれば違法ではありません。

ただし、採用の時点で説明が無かったにもかかわらず、採用後に身元保証書の提出を求められた場合であれば、提出しないことを理由に解雇を通告するのは不当解雇になると解されます。

 

<身元保証の法規制>

身元保証契約は連帯保証となっていることが多いため、身元保証人が多額の賠償金支払い義務を負ってしまうことがあります。

そこで、これを法的に規制するため「身元保証ニ関スル法律」によって、身元保証人の責任が軽減されています。

まず、身元保証契約は、期間を定めなければ3年間、期間を定めても最長5年間で終了します。

また、労働者に不審な行動や仕事内容の変化があったときは、企業から身元保証人に対して直ちにその事実を通知しなければなりません。

これを受けて、身元保証人は契約を解除できます。

身元保証をしたからといって、実際に身元保証人が企業の全損害を負担することにはなりません。

企業は、損害の内容と損害額が明らかな限度でしか、身元保証人に責任を負わせることができません。

そして裁判になれば、企業側にも過失が無かったか、身元保証人が保証を引き受けた理由、労働者の仕事の変化など一切の事情を踏まえて、賠償額が決定されることになります。

 

<実務の視点から>

さらに、令和2(2020)年4月1日の民法改正により、保証契約には責任の限度額(極度額)を設定しなければ無効とされることになりました。

身元保証契約にもこの規定が適用されるのか判然としませんが、身元保証人が安心して引き受けられるようにするためにも、極度額を定めておくことが無難でしょう。

PAGE TOP