2025/03/30|2,077文字
<退職間際の年次有給休暇取得>
社員から退職と合わせて、年次有給休暇の取得についての申出があると、多くの場合、上司は大いに困惑します。
まだ部下には伝えていないものの、これから着手しよう、進行しようと思っていた業務が、滞ってしまうかもしれません。
ましてや、年次有給休暇が付与されたばかりの時期に、退職にあたってすべての年次有給休暇を消化したいという希望が出されると、感情的になってしまうこともあるでしょう。
しかし、年次有給休暇の権利は労働基準法によって、最低限の日数が定められています。就業規則によって、法定を上回る日数の休暇が定められていることもあります。退職日が近いことを理由に、上司のマイルールで年次有給休暇の日数を削ったり、取得を制限したりはできません。
<業務が停滞する恐れ>
突然の退職者が出たことによって、業務が停滞する可能性というのは、その職場での事前準備の状況によって大きく異なります。
交通事故に遭った社員が長期欠勤したり、不幸にして亡くなったりは、考えたくもないですが、ありうることです。
また、感染力の強いウイルスによって、同時に多数の社員が欠勤する可能性もあります。
<引き継ぎが終わらない恐れ>
退職者が出れば、その社員が抱えていた業務は、別の誰かが引き継がなければなりません。「別の誰か」がいなければ、必要な人材を採用しなければなりません。
こうした事態は業務の属人化が進み、「この人がいないと分からない」仕事が多いほど、不都合が大きくなってしまいます。それだけではなく、業務の属人化は不正の温床ともなります。
<感情的な問題>
部下が退職にあたって「多くの年次有給休暇を取得したい」と言ったとき、上司が不愉快に思うのは、上司自身が思うように年次有給休暇を取得できていないということがあるでしょう。あるいは、他の部下もほとんど取得していないということがあるかもしれません。
しかし上司も部下も、普段から年次有給休暇の取得率が高ければ、このような感情を抱くことはありません。そもそも、退職にあたって、まとめて取得する年次有給休暇の日数も多くはならないはずです。
上司が感情的になるのは、その職場での年次有給休暇の取得状況に問題がありそうです。
<業務マニュアルの常備>
一人ひとりの社員が、自分の業務について具体的なマニュアルを作成しておきます。業務の改善をする場合には、改善前・改善後のマニュアルを示して、上司の了解を得ます。これは、人事評価に必要な情報を上司に与えることにもなります。
新人に対しては、このマニュアルを示して、実際に業務を行ってみてもらいます。迷う箇所があれば、そこを明らかにして、マニュアルをより分かりやすく具体的にします。
こうしたマニュアルがあれば、急な欠勤や退職が出ても、かなりの不都合が緩和されます。
<就業規則への規定>
退職するにあたっては、担当業務のすべてのマニュアルと引継書について、上司の確認を受けることを義務付け、就業規則に規定してはいかがでしょうか。この義務を怠って退職する場合には、退職金の減額などペナルティを科すことも可能です。
<年次有給休暇の計画的付与制度>
年次有給休暇の計画的付与制度とは、就業規則に定め労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいいます。
しかし、年次有給休暇の計画的付与は、年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではありません。従業員が病気その他の個人的事由による取得ができるよう、指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があるためです。
年次有給休暇の日数のうち5日は個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければなりません。このため、労使協定による計画的付与の対象となるのは年次有給休暇の日数のうち、5日を超えた部分となります。たとえば、年次有給休暇の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。
また、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。ただし、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。
この制度を利用することで、年次有給休暇の取得を促進し、退職時の残日数を減らすことができます。
<年次有給休暇の分割付与>
年次有給休暇の一部を、入社時に前倒しで付与している企業もあります。たとえば、入社時に5日を付与して、半年経過後に残りの5日を付与するという形です。
こうした場合、翌年以降も、半年前倒しで付与した日数以上の年次有給休暇を付与する必要があります。たとえば、半分は前倒しで付与し、残りは法定の時期に付与する制度を就業規則に定めて運用すれば、退職にあたってまとめて取得することをある程度は防ぐことができます。
もっとも毎年、取得させる義務のある5日しか取得させていない企業では、結局、年次有給休暇が溜まってしまいますから、効果は期待できません。