解雇理由は事実の収集と保管が必要です

2025/3/29|1,158文字

 

<解雇の理由>

労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

解雇を通告された従業員から、「解雇権の濫用であり解雇は無効である」と主張されないためには、使用者側が「客観的に合理的な理由」を示す必要があります。

使用者側が主観的に合理的だと思っても、事実の裏付けがなければ、「客観的に合理的」ではないかもしれません。

結局、使用者側は、解雇対象者に対して、解雇の「客観的に合理的な理由」となる事実を示さなければなりません。

 

<普通解雇の理由>

懲戒解雇であれば、就業規則に具体的な規定があって、明らかに規定が適用されるケースだとして、適正な手続を踏んだうえで行われます。

一方で普通解雇は、労働者の債務不履行による労働契約の解除ですから、雇用契約書や労働条件通知書の規定が根拠となります。

普通解雇の理由としては、能力不足・協調性欠如・職務専念義務違反などがあります。これらは余りにも「あたり前のこと」とされやすく、使用者は「常識的に見て」債務不履行があると安易に考え、また証拠の確保を怠りやすいという危険があります。

 

<証拠の確保>

能力不足であれば、使用者から見て「どう考えても能力不足だから」ということだけでは、労働審判や訴訟で「客観的に合理的な理由」を示すことができません。

 

たとえば、次のような事実の記録を残しておく必要があります。

・◯年◯月◯日◯時頃に、指示通りの入力作業ができなかった。

・その場で上司の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らずに「うん、うん」と返事をしながら聞いていた。質問があるか確認したところ、「分かったから大丈夫」と答えた。

・ところが、翌日の◯日の◯時頃に、やはりその入力作業ができていなかった。

・上司が外出中であったため、先輩社員の◯◯が丁寧に指導したが、メモを取らないので「メモを取りながら聞いてください」と言ったところ、「大丈夫です」と答えてメモは取らなかった。

・さらに翌日以降も、正しく入力作業ができなかった。

 

こうした事実についての記録を少数残しておいても、「たまたま不向きだったのではないか。他の業務を担当させれば良かったのではないか。」という疑いが生じます。

結局、あれこれやらせてみたが、基本的な能力を欠いていて、どの業務もこなせなかったことを示す事実の記録を残さなければなりません。

 

<証拠が残らない理由>

退職してもらう人を観察し、指導し、記録を残すというのは、心理的な抵抗が大きいと思います。

しかし日本では、常識的に見て解雇は当然と思われるケースについて、不当解雇の司法判断が下されやすいという現実があります。

面倒に思わず、会社を守るためと思って、記録を残すようお勧めします。

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