退職時に年次有給休暇をまとめて取得

2023/12/27|1,368文字

 

<年次有給休暇は労働者の権利>

年次有給休暇は、労働基準法に定められた労働者の権利です。〔労働基準法第39条第1項〕

週1日の勤務でも、法定の年次有給休暇を取得する権利があります。〔労働基準法第39条第3項〕

会社が法定以上の年次有給休暇を与えるのは構いませんが、一時的にせよ法定の基準を下回ることはできません。〔労働基準法第1条第2項〕

こうして与えられた年次有給休暇を、退職時にまとめて取得するのも労働者の権利です。〔労働基準法第39条第5項本文〕

会社は、一定の条件のもとで、年次有給休暇の取得日を変更できるのですが、退職日よりも後の日に変更することはできません。〔労働基準法第39条第5項但書〕

 

<権利の濫用か>

会社は、労働者から退職の申出があるとともに、何日もの年次有給休暇取得を言われると、業務の引継について懸念が生じます。

そもそも、引継の相手となる人材がいなければ、新たに採用する必要も出てきます。

退職希望者から、何日もの年次有給休暇取得を言われた場合、会社はそれを権利の濫用として拒否できるのでしょうか。

客観的に見て、会社が対応不可能なのに、労働者が権利を主張してくるのは、権利濫用と言わざるを得ません。

しかし、会社は日常の業務についても、労働者にマニュアルの作成と改善を指示することができます。

これを元に、複数の労働者が業務を共有したり、計画的な人事異動を行ったりということも、会社の指揮命令によって行うことができます。

つまり、客観的に見て、会社が対応不可能とは言えません。

少し厳しい話ですが、労働基準法が労働者に年次有給休暇取得の権利を認めている以上、会社は様々な事態を想定して、予め対応しておく必要があります。

法律が、それを会社に求めているのです。

 

<就業規則による対処>

就業規則によって、会社に発生する不都合を減少させることもできます。

たとえば、次のような規定を設けてはどうでしょうか。

・退職にあたっては、後任者に対し、従来の任務を遂行するのに必要なマニュアルの引継を完了し、上長の確認を受けなければなりません。

・自己都合により退職する人は、退職予定日が決定次第、その理由を申し出て、少なくとも14日前に「退職願」を提出しなければなりません。

・最終出勤日は、退職の理由や引継の内容を考慮して、退職する人と会社とで協議のうえ決定します。

また、懲戒処分の対象に、「正当な理由なく、退職にあたって引継を放棄し、あるいは、引継に必要な出勤を拒んだとき」を加えておくことも考えたいです。

退職金減額の理由とすることも可能です。

 

<礼儀として>

十分な引継もできないほどの突発的な退職というのは、労働者が急死するなどの例外的な場合にしか発生しません。

退職する人は、きちんと引継を済ませたうえで、円満退社すべきです。

世間は狭いもので、知り合いの知り合いを通じて、悪いうわさが流れたりするものです。

ネット上に、あることないこと書かれることもありえます。

会社も、きちんと引継が済むように、年次有給休暇の一部を買上げて引継に必要な日数は出勤してもらえるように、丁寧に頼むなど礼儀を尽くすことが必要です。

 

<実務の視点から>

急に誰かが退職を申し出ても困らない体制づくりは必要です。

具体的に何をどうすべきか、迷ったら信頼できる社労士にご相談ください。

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