2024/07/02|1,383文字
<不足している3つの力>
経営者が労務管理のプロであるか、人事部門に専門家がいるような会社ではない限り、社内で労働トラブルが発生すると必然的にこじれます。
それは、解決に必要な情報収集力、専門的判断力、情報伝達力の3つが不足しているからです。
<情報収集力>
われわれ人間を含め、生物が何か判断するためには情報が必要です。
どんなに優れた経営者でも、社員から正確な情報が得られなければ、経営についての重要な判断を誤ってしまいます。
そして、具体的な労働トラブルの解決に必要な情報が何であるかは、それぞれの内容に応じた専門性の高い判断力が備わっていなければ分からないことです。
やみくもに関係者から事情を聞いても、時間、労力、人件費、経費、精神力が消耗されるだけです。
なるべく早く信頼できる社会保険労務士(社労士)に相談して、社内で集める情報だけでなく、法令やその解釈、通達、裁判例など、必要な情報を確定し速やかに手分けして収集することが必要です。
その集め方も大きなポイントです。
社員に対して下手な聞き取り調査をしてしまうと、重要な証拠が消滅したり、人権侵害の問題が発生したりします。
これについても、社労士にノウハウを確認しておくべきですし、法令やその解釈、通達、裁判例などは、情報収集を社労士に任せておくべきです。
<専門的判断力>
社内で判明した事実を就業規則や法令に当てはめて、経営者や人事部門の責任者が、自分の中の常識に従い独自の解釈に基づく判断を示すことがあります。
多くの場合には、参照すべき条文が的外れですし、会社に都合の良い解釈をしているものです。
「こうも取れるからOKじゃないか」というのが最も危険です。
会社目線の素人判断では、労働トラブルがこじれて当然です。
判断基準は、あくまでも裁判官目線であることが必要ですから、専門知識のある弁護士や社労士に相談する必要があります。
<情報伝達力>
適切な情報収集と、適正な専門的判断によって、解決の指針が見えたとします。
しかし、これを会社側から労働者側に上手く伝えることができず、逆にこじれてしまうことがあります。
「会社で改めて事実を確認したところ、あなたを解雇したことに落ち度はありませんでした」ということを上手に伝えることができず、あっせん、労働審判、訴訟へと発展してしまうのです。
最終的には、会社側の正当性が認定されるにしても、やはり時間、労力、人件費、経費、精神力の消耗は大変なものです。
これには、会社側の情報伝達力不足よりも、労働者側の情報伝達力不足が大きく関わっています。
労働者から会社に何を伝えたいのか、そもそもどうして欲しいのか、何が不満なのか、どうだったら納得できたのか、この辺りが労働者自身で上手く表現できないのです。
自分自身の強い意志で会社に物申したのではなく、家族や友人の勧めで、思い切って会社に申し出をした場合には、特にこの傾向が強くなります。
こうした場合に、労働者側から何をどのように伝えてもらうべきか、会社をサポートすることによって、労働者側の情報伝達力不足を補うのも社労士の役割です。
<予防に優る解決なし>
ひとたび労働トラブルが発生すると、こじれずに解決を見るのは大変です。
保険の意味で顧問社労士を置いておき、トラブルを未然に防止するのが、結局は安上がりですし、会社成長の礎ともなるでしょう。