転勤を打診されたら不安や不満があるのは当たり前のことです。会社が適切にフォローする必要があります。

2024/07/03|1,607文字

 

<転勤を打診された従業員の不安>

同じ勤務地でも、仕事内容が変われば、新しい仕事を始めることへの不安がありますし、今までの仕事への愛着もあります。

ましてや、勤務地の変わる転勤であれば、人間関係だけでなく広く環境の変化に対する不安があります。

たとえ栄転であったとしても、不安は期待より大きいのが普通です。

 

<物理的な不利益への不満>

少しでも遠方への転勤であれば、通勤時間が長くなることや、交通機関の混雑が不満の原因となります。

起床してから家を出るまでの習慣は容易に変えられませんから、睡眠時間が減少することへの不満もあるでしょう。

ただ、雇用保険の特定受給離職者の判断基準として、事業所の移転により通勤することが困難となったため離職したといえるためには、「通常の方法により通勤するための往復所要時間が4時間以上であるとき等」が条件とされていることを考えれば、片道2時間未満なら、通勤困難とまではいえないでしょう。

 

<転勤に対する事前の同意>

一般的な正社員であれば、就業規則や労働条件通知書にも、転勤がありうるという規定が置かれています。

また、令和6(2024)年4月からは、労働条件の明示事項に、就業場所・業務の変更の範囲が加わっています。

これらによって、転勤がありうることは事前に示されていますし、これにも同意のうえ入社したと考えることができます。

ところが、採用にあたって面接担当者が、「あなたの場合には、転勤はほとんど考えられない」「前任者も転勤がなかった」など、説明してしまうことがあります。

さらに入社後に、部長や役員から、「今の仕事をなるべく長く続けてほしい」など話をすることもあります。

労働契約は口頭でも成立しますし、労働条件の変更も労使の合意で可能ですから、こうした話が出てくると、本人は転勤がないことへの期待が大きくなってしまいます。

せっかく、就業規則や労働条件通知書で、転勤についての規定があるのですから、立場をわきまえず、こうした話をしてしまうのは、トラブルの元となりうるので避けたいものです。

 

<転勤理由の説明>

本人から上司や人事部門に、転勤の理由を尋ねることがあります。

このときに、上司と人事部門とで説明に食い違いがあれば、どちらかが嘘をついているのだろうと疑われます。

転勤の理由については、上司と人事部門とで確認し、本人に具体的に正直に説明しておく必要があります。

気分を害さないようにとのことで、嘘の理由を説明すれば、嘘が明らかとなったときに、会社への不信感が生まれてしまいます。

 

<転勤命令が無効となる場合>

転勤命令は、会社の人事権の一部ですから、原則として有効です。

しかし、次のような事情がある場合には、権利の濫用となり転勤命令が無効となります。ほとんど嫌がらせと思われる場合です。

・業務上の必要がない場合

・転勤命令が不当な動機や目的によるものである場合

・社員の不利益が通常の程度を著しく超える場合

社員からこのような事情の存在を主張されたのに対し、「会社には転勤命令権があり社員には従う義務がある」という態度を取り続けたのでは、まさに権利の濫用になってしまいます。

会社の取るべき態度については、育児・介護休業法第26条が参考になります。

「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」という規定です。

これは、育児・介護休業についてのものですが、その趣旨は、すべての転勤命令に共通する原理です。

つまり転勤について、社員が難色を示した場合には、会社側が具体的な事情を聴き、抱えている問題の解消法を共に考え、どのように対応すべきかを真剣に協議しなければならないということです。

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