2023/10/27|1,153文字
<解雇の有効性についての判断基準>
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16 条〕
この規定は、裁判所が判断を下すのに使った理論が条文となったものですから、その趣旨は様々な形で解雇の有効性の判断基準にあらわれます。
しかも、「こうすれば大丈夫」という絶対的な基準ではありません。
<就業規則に解雇の理由が無ければ>
まず、解雇の理由(事由)は、就業規則に必ず記載する事項とされています。〔労働基準法第89条第3号〕
つまり、就業規則に規定の無い理由で解雇することはできません。
また労働者が、解雇の予告をされた日から退職する日までの間に、解雇の理由について証明書を請求した場合には、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。〔労働基準法第22 条第2 項〕
ですから、使用者が就業規則に規定の無い理由で労働者を解雇した場合には、労働者に有利な証拠書類を交付することになってしまいます。
<就業規則に解雇の理由があっても>
つぎに、裁判所はあいまいさの残る規定について、使用者に対して厳密な立証を求めます。
たとえば、営業成績が「著しく不良」という規定であれば、使用者はその程度が客観的かつ具体的に重大であることを証明しなければなりません。
また、将来の改善・回復の見込みが無いなどの「将来の予測」については、客観的な立証が必要とされます。
今日の判例は、使用者に困難な立証を求めることによって、「解雇は最後の手段であるべき」との態度を示しているのです。
<能力不足を理由とする解雇>
そして裁判では、労働者の能力が職場全体の中で相対的に低いというだけでは、能力不足による解雇が認められていません。
使用者は、解雇を検討する前に、配置転換や再教育による能力向上、あるいは降格処分など、解雇を回避するための措置を求められます。
<目標未達成を理由とする解雇>
結局、市場動向の変化や会社の業績に左右されない、客観的で合理的な目標が就業規則に規定されていて、その目標を達成できないことを理由に解雇する場合であって、教育研修を十分に行い、配置転換や降格処分も行ったのになお効果が無く、やむを得ず解雇を通告するのでなければ、その有効性は疑わしいということになってしまいます。
そもそも、条件付きの解雇通告というのは、それだけで労働者の立場を不安定にしますから、どんなに工夫を重ねても、有効性に疑いが残るものなのです。
こんなむずかしいことにチャレンジするよりは、信頼できる社労士(社会保険労務士)と相談して、充実した教育研修システムや、納得のいく人事考課制度を構築したほうが、会社も社員も成長するのではないでしょうか。