カスハラ対策の義務化(労働施策総合推進法改正)

2025/09/23|1,302文字

 

カスタマーハラスメント(略称:カスハラ)対策の義務化は、2025年の法改正により、すべての企業に対して従業員を顧客等の不当な言動から守る措置を講じることが義務付けられるものです。

 

義務化の背景>

カスハラとは、顧客や取引先などが企業の従業員に対して行う、社会通念上相当な範囲を超えた言動を指します。近年、以下のような深刻な事例が増加しています。

・暴言・脅迫・土下座の強要

・長時間の拘束や執拗なクレーム

・SNS等での誹謗中傷

これらは従業員のメンタルヘルスを損ない、離職や休職を招く要因となっており、企業の人材確保・職場環境維持に深刻な影響を与えています。また、「お客様は神様」という価値観の誤った解釈が、過剰な顧客至上主義を助長してきたことも背景にあります。

 

法的枠組み:改正労働施策総合推進法>

2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、カスハラ対策が企業の法的義務となりました。施行は2026年中に予定されており、すべての事業主(規模・業種を問わず)が対象です。

 

【カスハラの定義(厚生労働省)】

「顧客等からの要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であり、労働者の就業環境を害するもの」

 

つまり、正当なクレームであっても、その伝え方が暴力的・執拗・脅迫的であればカスハラに該当します。

 

企業に求められる義務と対応策>

法改正により、企業は以下のような具体的措置を講じることが求められます。

 

  1. 方針の明確化と周知

・カスハラを許容しない企業姿勢を明示

・社内規程やポスター、研修などで従業員に周知

 

  1. 相談体制の整備

・専用の相談窓口の設置(電話・メールなど)

・担当者の配置と対応手順の明確化

 

  1. 被害者への配慮

・メンタルヘルス支援(産業医・外部相談機関との連携)

・配置転換や業務調整などの柔軟な対応

 

  1. その他の必要な措置

・対応マニュアルの作成

・記録の保存と再発防止策の検討

・顧客対応時の複数人対応や管理者の同席

 

実務上のポイントと注意点>

法改正への対応として、次の点には注意が必要です。

 

○クレーム対応とカスハラの線引き

すべての苦情がカスハラではありません。商品やサービスに不備がある場合、顧客の正当な要求には誠実に対応する必要があります。ただし、暴力的・威圧的な手段による要求は明確に拒否する姿勢が重要です。

 

○小規模事業者も対象

従業員を1人でも雇用していれば義務の対象となります。中小企業でも、実情に合った対応策を講じる必要があります。

 

○対応の記録と証拠保全

カスハラ対応は、記録を残すことで後のトラブル防止や法的対応に役立ちます。日時・内容・対応者などを記録し、必要に応じて上司や法務部門と連携しましょう。

 

企業文化の転換点>

カスハラ対策の義務化は、単なる法令遵守ではなく、従業員の尊厳と安全を守る企業文化への転換を意味します。顧客満足と従業員保護は両立可能であり、健全な職場環境の構築は、結果としてサービス品質の向上にもつながります。

企業が毅然とした姿勢を示すことで、従業員の安心感と信頼を高め、社会全体に「ハラスメントは許されない」というメッセージを発信することができます。

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