2024/12/08|1,483文字
<再雇用時の賃金>
正社員が定年に達すると同時に再雇用された場合、年収は何割までダウンしても違法にならないか、世間相場や業界での一般的な水準はどの程度かといった、それ自体あまり意味を持たない質問を受けることがあります。
これは、働き方改革以前から問題とされてきましたが、同一労働同一賃金との関連でクローズアップされました。
<長澤運輸事件最高裁判決>
平成30(2018)年6月1日の長澤運輸事件最高裁判決は、まさに定年後再雇用時の賃金引下げが争われた事件に対する司法判断です。
運輸業の会社でトラックの運転手として定年を迎えた労働者が、定年退職とともに有期労働契約の嘱託社員として再雇用されました。
このとき、仕事内容に変更が無いのに、賃金が約2割引き下げられたことによって、正社員との間に不合理な待遇差が発生し、旧労働契約法第20条に違反するとして会社を訴えたのです。
この判決で、最高裁は次のような判断を示しました。
賃金項目が複数ある場合には、項目ごとに支給の趣旨・目的が異なるので、賃金の差異が不合理か否かについては、賃金の総額を比較するだけでなく、その賃金項目の趣旨・目的を個別に考慮すべきである。
精勤手当は欠かさぬ出勤を奨励する趣旨を持つものであり、嘱託社員は正社員と職務内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はなく、定年の前後で差異を設けることは不合理である。 精勤手当が計算の基礎に含まれる超過手当(時間外労働手当)についても同様である。 これ以外の賃金項目については、それぞれの趣旨・目的から、差異を設けることが不合理ではない。 |
<最高裁判決の趣旨>
令和2(2020)年は、同一労働同一賃金の最高裁判決が5つ出ました。
大阪医科大学事件、メトロコマース事件、それと日本郵便事件が3つです。
これらの裁判でも、改正前の労働契約法20条を巡って争われました。
退職金、賞与、手当、休暇などについて、それぞれの裁判で差異が不合理か否か争われました。
そして、どの判決でも、各項目の支給の趣旨・目的から、その差異が不合理か否か検討され判決が下されたのです。
賞与一つをとっても、企業によって支給の趣旨・目的が異なります。
その趣旨・目的によって、正社員と非正規社員とで支給の差異について、次のように判断が分かれうることになります。
1.非正規社員にも正社員と同額が支給されるべきである。
2.非正規社員にも正社員と同じ基準で支給されるべきである。
3.非正規社員には正社員の支給額の一定割合を支給すべきである。
4.非正規社員には支給しなくても不合理ではない。
大阪医科薬科大学で、非正規社員に賞与を支給しないのは不合理ではないからといって、別の企業でも同じことがいえるとは限らないのです。
<実務の視点から>
定年後再雇用時の年収水準そのものについては、最高裁判所が明確な基準を示していません。
各業界で平均的な下げ幅であれば容認されるのだとすると、平均を下回る約半数の企業は不合理だとされかねません。
むしろ、個別の手当等について、定年の前後でその支給に差を設ける場合に、それぞれの趣旨・目的から、不合理ではないかが厳しく審査されることになりました。
ですから、個別の手当等について、不合理といえない範囲で差異を設けた結果、年収が3割減少した、4割減少したというのは容認されることになります。
肝心の基本給についても、下級審では多くの裁判例が出ていますが、同一労働同一賃金の趣旨を踏まえたものとなっています。さらに今後の司法判断の積み重ねによって、基準が明らかになっていくものと思われます。