2024/01/31|1,540文字
<申請の意味>
会社の中で「申請」というのは、労働者が自分の希望を申し出て、会社の許可を得ようとする行為です。
会社からの命令に応じて行う業務や、労働者としての権利の行使は、会社の許可を必要とするものではありませんから、申請の対象とはならない筈です。
<出張申請書>
自ら出張を希望して、出張申請書を起案し上司に提出するということもあるでしょう。
役職者であれば、出張の必要性を判断する権限を与えられていることもあるからです。
しかし、担当者であれば上司から出張命令を受けるのが一般です。
この場合でも、その担当者は出張申請書を起案します。
出張申請書を起案するのは、出張したいからではなく、出張の目的や業務内容、交通手段、経費などを明らかにして、会社の決裁を得るためです。
出張そのものは上司からの命令であっても、出張の具体的な内容については、上司を通じて会社の決裁を得る必要があるので出張申請書を起案するのです。
出張を終えて帰社すれば、出張申請書の内容との差異や、出張の効果を明らかにするために、出張報告書を提出するのが一般的です。
<残業申請書>
残業というのは、本来、労働者が会社側からの命令に応じて行うものです。
だからこそ、時間外労働は労働基準法により規制され、違反に対しては使用者に罰則が適用されることもあるわけです。
労働者が、時間外労働の制限をオーバーしたからといって、罰則が適用されるようなことはありません。
それなのに、労働者側から残業を希望する「申請」というのは不合理です。
しかし管理職が、部下の業務内容や進行状況を、すべて具体的に把握できているわけではありません。
残業の必要性について、いつも上司が把握しているとは限らないのです。
このことから、部下は上司に対して、「これこれの業務で2時間の残業が必要と思われます」といった打診をして、上司からの残業命令を促す必要が生じます。
これを文書で行っているのが、残業申請書という名の「残業命令お伺い書」です。
万一、所轄の労働基準監督署の臨検監督が入り、残業申請書の運用が明らかになれば「残業申請書というのはおかしい。申請が却下されたら、サービス残業になるのですか」などという指摘を受けるかもしれません。
この場合には、「残業申請書という名称ですが、実態は残業命令を打診するための書類であって、決して申請書ではありません」という説明をすることになるでしょう。
ですから、申請書のタイトルを「残業申請書 兼 残業命令書」として、申請とこれに対する命令の形式を整えておくのが無難でしょう。
むしろ、出張の場合と同様に、事後の報告をする「残業報告書」を運用し、不必要と思われる残業を減らすよう指導していくのが得策ではないでしょうか。
<年休申請書>
出張や残業が、会社から労働者に対する命令であるのとは異なり、年次有給休暇の取得は労働者の権利です。
年次有給休暇は特殊な権利で、会社から与えられるものではなく、労働基準法によって国から与えられるものです。この性質から、会社が自由に制限できるものでないことは明らかです。
そして、年次有給休暇の取得は、労働者から会社に対して一方的に時季を指定することによって行います。
ですから、会社に許可を求める「申請」というのは、あり得ないことになります。
会社としては、年次有給休暇の取得日を指定する届が提出されれば、理由を問わずこれを受けなければなりません。
例外的に、会社の事前準備や努力によっても、その日に年次有給休暇を取得させることが、事業の正常な運営を妨げることになってしまう場合には、取得日を変更させることができるに過ぎません。〔労働基準法第39条第5項〕
「人手不足」「忙しい」というだけの理由で、取得日を変更できるわけではないのです。
こうして、年次有給休暇については、「年休申請書」ではなく「年休取得届」を運用するのが正しく、また、「理由欄」も設けてはならないということになります。