残業の上限規制

2024/01/18|1,545文字

 

<三六協定による上限規制>

労働基準法は労働時間を原則として、1日8時間、1週40時間以内としています。これが「法定労働時間」です。また、休日は原則として、毎週少なくとも1回または4週で4回与えることとしています。これが「法定休日」です。

法定労働時間を超えて、労働者に時間外労働をさせる場合や、法定休日に労働させる場合には、労働基準法第36条の三六協定の締結と、所轄労働基準監督署長への届出が必要です。この届出の前に、法定時間外労働や法定休日労働があれば、労働基準法の罰則が適用されうるのです。

この三六協定では、法定時間外労働を行う具体的な業務の種類や、法定時間外労働の上限を決める必要があります。

令和2(2020)年3月末までは、三六協定で定める時間外労働について、厚生労働大臣の告示による上限の基準が定められていたものの、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が発生することが予想される場合には、特別条項付きの三六協定を締結すれば、限度時間を超えて時間外労働を行わせることが可能とされていました。

 

<労働基準法による上限規制>

これまでの厚生労働大臣の告示による上限には、罰則による強制力がありませんでした。そして、特別条項によって、実質的に、青天井の時間外労働を行わせることが可能となっていました。

しかし、労働基準法の改正により、小さな企業であっても令和2(2020)年4月からは、罰則付きの上限が設定されることになったのです。しかも、この上限は臨時的な特別な事情がある場合にも超えることができません。

まず、臨時的な特別の事情がない場合には、法定時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間となりました。

そして、臨時的な特別な事情があって、労使が三六協定の特別条項で合意する場合であっても、次のすべてを守る必要があります。

 

・法定時間外労働が年720時間以内

・法定時間外労働と法定休日労働の合計がどの月についても100時間未満

・法定時間外労働と法定休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」のすべてが、80時間以内

・法定時間外労働が月45時間を超えられるのは年6回(6か月)が限度

 

ただし、こうした時間外労働の上限規制は、建設事業、自動車運転の業務、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業については、令和6(2024)年3月末まで猶予されています。

 

<訴訟での過労死判定>

三六協定と労働基準法を遵守すれば、罰則の適用はありません。しかし、従業員の過労死が疑われて、遺族が会社を訴えた最近の裁判では、裁判所が業務内容の過重性やストレスの度合いなどに配慮するケースが見られます。

労働基準法による時間外労働の上限規制のうち、次の2つの条件は、裁判所が医学的見地を踏まえ確立してきたものなのです。

 

・法定時間外労働と法定休日労働の合計がどの月についても100時間未満

・法定時間外労働と法定休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」のすべてが、80時間以内

 

今後の判例・裁判例の動向によっては、労働基準法の基準もさらに厳しいものとなるかもしれません。

 

<厚生労働省の指針>

厚生労働省は「三六協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」を公表しています。この中の第3条は「使用者は、三六協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負います。また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要があります」と述べています。

裁判所だけでなく、行政もまた、法令の範囲を超える安全配慮義務を、企業に認めていることが分かります。

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