会社は労災手続をためらってはいけません

2025/03/16|1,619文字

 

<労災手続をためらうケース>

通勤災害であれば、手間はかかるものの、会社が労災保険関係の手続をためらうことは少ないでしょう。

ところが、業務災害の場合には、次のようなケースで会社が手続をためらうことがあります。

・労働基準監督署が労災だと認めると、これは公式見解となるので、会社の労災発生に対する責任が、本人や家族から追及されることになりそうで不安な場合。

・本人の過失が大きいため、労災保険による補償が妥当ではないと感じる場合。

・ごく当たり前の通常業務を行っていて、筋肉や関節を傷めたと、医師から診断されていて、この調子だと労災認定の範囲が拡大しそうだという場合。

・本人から会社に対して、労災保険の手続をするように要望があったが、会社としては労災に該当しないと判断している場合。

しかし、いずれの場合も、会社独自の判断で、労災手続を進めないというのはいけません。

 

<労災認定と会社の責任>

労働基準監督署によって、労災保険の適用が認められたからといって、事故に対する会社の責任が肯定されるとは限りません。

たとえば、メガネをかけている従業員に対して、「メガネをかけたまま冷凍室に入ると、出てきた時にメガネが曇って危険なので、メガネを外して冷凍室に入るか、冷凍室から出る時にメガネを外すかしてください」という注意を徹底し、冷凍室の入口に「メガネ注意!」などの表示があったとします。

ところが本人が、あえて無視してメガネが曇り、冷凍室の前で転んでケガをした場合、労災保険は適用されますが、会社の責任は問われません。

反対に、従業員が休日に、会社の経営する飲食店で食事をしていたところ、天井から照明器具が落下してケガをした場合には、労災とは無関係ですが、会社は責任を免れません。

このように、労災保険の適用と会社の責任とは連動するものではありません。労災認定があったからといって、必ずしも会社が責任を問われやすくなるとはいえないのです。

同様に、本人の過失が大きいからといって、労災保険の適用がないともいえません。

 

<通常業務によるケガ>

どこの飲食店でも行われているような調理作業で手首を傷めたり、小売店でごく普通の接客業務を行っていて腰を傷めたりということがあります。これは、その人の体質あるいは遺伝的要素によるところが大きいのであって、誰にでも発症するようなことではありません。

会社としては、「こんなことで労災保険が適用されることはないだろう」と考えることもあるでしょう。しかし、労災認定をするのは所轄の労働基準監督署長であって、会社でもなく、医師でもありません。医師は、病状の診断はしますが、業務との因果関係を認定する権限がありません。

会社の判断で労災の手続をしないのは、権限外の判断となってしまいます。

 

<会社の判断で手続をしないリスク>

会社の判断で手続をしない場合、労災保険の適用を主張する従業員は、ネットへの書き込みなどで情報を拡散するかもしれませんし、労働基準監督署に相談に行くかもしれません。

会社が手続に協力しない場合、労働基準監督署が労災を認定すれば、被災者は単独で労災保険の手続を進めることもできますし、会社は労災隠しを指摘されます。

また、労災が認定されない場合でも、従業員が労災の話のついでに、長時間労働や残業代の一部カット、年次有給休暇を思うように取得できないことなど、労働基準監督署に話せば、その内容によっては、労働者からの申告と認識されて立入調査(臨検監督)へと進むこともあります。

 

<実務の視点から>

会社が労災手続をするかしないか迷い、あるいは必要がないと感じた場合には、ケガを負った従業員などに詳しく話を聞いて、念の為、労働基準監督署に労災認定の可否を確認しなければなりません。

これを行って、その従業員に結果を説明し、万一納得がいかないという場合にも、会社に抗議するのではなく、労働基準監督署の労災課に確認してもらうようにすればよいのです。

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