2023/05/12|1,303文字
<資格取得と資格喪失>
社会保険に加入すること、正確には被保険者となることを「資格取得」といいます。
社会保険が適用される会社に入社すると、その日に被保険者となって、当日から健康保険で治療が受けられるのが原則です。
入社日に資格取得するということです。
反対に、社会保険から脱退すること、正確には被保険者ではなくなることを「資格喪失」といいます。
会社を辞めるとき、退職当日まで使っていた保険証が翌日には使えません。
退職日の翌日に資格喪失するということです。
<社会保険の同日得喪>
社会保険の「資格喪失」の日に、同じ社会保険の「資格取得」が行われることを、「同日得喪」といいます。
定年退職とともに同じ会社で再雇用された場合には、賃金が減額されることも多いでしょう。
賃金が減額されたのに、数か月の間、定年前と同じ保険料を支払うのでは、経済的な負担が大きくなってしまいます。
そこで、60歳から64歳までの老齢厚生年金受給権者が再雇用となった場合などには、退職の翌月分から保険料を安くできるよう、特別に「同日得喪」という手続きがあるのです。
実際には、退職して再入社するのではないのですが、定年を迎えると共に社会保険に入ったまま、賃金が大幅に減額される場合には、特例として同日得喪を行うことができます。
この場合、資格喪失のため健康保険証を返却し、資格取得によって改めて新しい健康保険証の交付を受けることになります。
<同日得喪のメリット・デメリット>
同日得喪のメリットは、保険料が収入の減少に応じてすぐに減額されることです。
しかし、社会保険も保険の一種ですから、保険料に見合った給付が行われるという性質があります。
たとえば、健康保険の傷病手当金は、業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。
この1日あたりの金額は、支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30日で割った金額の3分の2と決められています。
ここで「標準報酬月額」とは、保険料の基準となる賃金の月額をいいます。
同日得喪によって、保険料が減額されるというのは、標準報酬月額が減額されることによるものです。
結局、同日得喪を行った以降は、標準報酬月額が減額されますから、傷病手当金を受給する場合の1日あたりの金額も減額されていくことになります。
ただ、このようなデメリットが発生しうるのは、再雇用後一定の期間内に傷病手当金を受けるという、偶発的な場合に限られます。
また、傷病手当金の支給額は平成28(2016)年4月の法改正前には、休んだ日の標準報酬月額を基準に支給されていましたから、同日得喪後の傷病手当金は大幅に減額されるリスクがありました。
しかし現在では、前述のように、支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を基準に支給されますから、同日得喪によって一気に減額されることはなくなりました。
このようなことから、同日得喪の手続きが行われるのが一般です。
会社としては、定年を迎えるご本人に説明し、その意向に従って手続きするのが望ましいといえます。