社会保険の同月得喪と保険料

2023/05/13|1,675文字

 

<入社してすぐに辞める従業員>

コロナ禍によって、飲食業、小売業、宿泊業のようにマイナスの影響を受けた業界が多い一方で、不動産業や情報・通信業のようにプラスの影響を受けた業界もありました。

自分が働いている業界に不安を感じ、全く別の業界に転職するのも不自然なことではなくなりました。

また、医療業や介護業では、大変な人材不足に陥っていました。これは、業務の急増によって過重労働が発生し、退職者が多く出たことで、ひとり一人の負担がさらに増えるという悪循環の結果でもあります。

通常、在職中の転職活動は、時間的な制約もあり、なかなか思うようには進まないものです。

しかし、在宅勤務の増加によって、出勤時間が減少した分だけ、転職活動をするための時間を確保できるようになったこと、Web面接やオンライン採用試験も行われ、在宅での転職活動が盛んになりました。

以前から、入社してすぐに辞める従業員はいましたが、コロナ禍の影響によって、さらに転職が盛んになったと考えられます。

 

<社会保険料徴収の原則>

従業員が社会保険の資格を取得するのは、原則として入社日です。これを資格取得日といいます。そして社会保険料は、資格取得日の属する月の分から徴収が始まります。その月の1日に入社しても、月末に入社しても、1か月分の保険料が徴収されます。日割計算はないのです。

一方で、従業員が社会保険の資格を喪失するのは、原則として退職日の翌日です。これを資格喪失日といいます。退職日には、まだ健康保険証が使えますから、翌日から使えなくなると考えれば分かりやすいでしょう。

そして社会保険料は、資格喪失日の属する月の前月の分までが徴収されます。つまり、月末に退職するとその月の分の保険料は徴収されますが、月末以外の退職であればその月の分の保険料は徴収されません。

資格取得と資格喪失の両方を合わせると、月末時点で社会保険の資格があれば徴収し、なければ徴収しないということになります。

 

<同月得喪の特例>

社会保険の同月得喪とは、読んで字のごとく、同じ月の中に社会保険の資格取得日と資格喪失日の両方があることをいいます。例えば、7月1日に入社して7月20日に退職してしまったような場合をいいます。

この同月得喪は、あくまでカレンダー上の同じ月の中での資格取得と資格喪失を指しますので、給与の締日や支給日とは無関係です。したがって同月得喪では、給与支給が1回だけのことも、2回のこともあります。

さて、上に述べた社会保険料徴収の原則からは、社会保険料を徴収するのかしないのかが問題となります。結論として、その月の1か月分の社会保険料が徴収されます。同月得喪では、月末以外の退職ならその月の保険料が徴収されないというルールが排除されるのです。

 

<健康保険の場合>

健康保険については、退職者が退職月のうちに国民健康保険や、転職先の健康保険に入った場合には、新たに入った保険の方でも重ねて保険料を徴収されます。つまり、1か月のうちに2か月分の保険料を徴収されることになります。理論的には、同じ月の中で2回転職すれば、3か所で合計3か月分の保険料が徴収されます。

 

<厚生年金保険の場合>

厚生年金保険については、二重払い・三重払いの防止が図られています。

会社は、同月得喪のルールに従い退職者から1か月分の保険料を徴収します。そして、退職月に転職先の厚生年金に加入したことが年金事務所で確認できた場合には、徴収された厚生年金保険料が会社に還付されます。この還付を受けたら、会社は退職者から徴収した保険料を返金しなければなりません。

ただ、年金事務所で確認が取れるまでに数か月かかりますから、同月得喪の退職者には事前に説明文書を交付して、給与振込口座に振り込んで返金するなどの説明をしておく必要があります。

また、20歳以上60歳未満の退職者がすぐに再就職しない場合にも、国民年金に強制加入となりますので、国民年金保険料との二重払いとならないように還付となることが多いのです。

同じ社会保険でも、健康保険とは扱いが異なりますので注意しましょう。

 

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