現在の事業場外みなし労働時間制

2023/05/11|1,151文字

 

<時代に合わないみなし労働時間制>

就業規則に、事業場外労働みなし労働時間制に関する規定がまだ残っている企業は多いと思われます。

しかし令和時代の今、この規定は残業代カットの意図を疑われることにもなりかねません。

 

<労働基準法の規定>

労働基準法第38条の2本文は、事業場外みなし労働時間制について、次のように規定しています。

 

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。

 

非常に分かりやすい規定です。

従業員が会社の外で働いた場合に、労働時間を算定し難いときは、就業規則や労働契約で定められた所定労働時間だけ働いたものとみなされます。

 

<規定が置かれた時代>

この規定が置かれたのは、昭和63(1988)年1月1日です。

昭和62(1987)年には、ポケベルに数字を打ち込んで送信できるサービスが開始されました。

ガラケーでメールを送れるようになったのは、平成5(1993)年です。

つまり、事業場外労働みなし労働時間制の規定が置かれたのは、メールどころかポケベルの利用も予定されていない時代でした。

従業員が会社の外で働いていて、途中で会社に連絡を入れたいときには、歩き回って公衆電話を探したものです。

反対に会社から、外出中の従業員に直接連絡する手段はありませんでした。

こうした状態では、まさに「労働時間を算定し難いとき」が発生します。

 

<現在でも労働時間を算定し難い場合>

今はインターネットの利用が当たり前になっていますので、外出中の従業員と会社との間で、スマホ、タブレット、パソコンによる交信が簡単になっています。

裁判所は「労働時間を算定し難い」の解釈として、現に労働時間の把握を怠っていてもこれを認めず、労働時間の把握をしようと努力してもどうしてもできない場合にのみ認めるものとしています。

ですから、裁判所が「労働時間を算定し難い」と認定することは、まずありえないのです。

ただし、厚生労働省公表の「モデル就業規則」には、事業場外みなし労働時間制の規定がないものの、時代を反映して「テレワークモデル就業規則」の方には、規定が置かれていて限定的に適用が認められています。

在宅勤務で、ネットの接続が従業員に任せられていて、上司から常時指示命令を受けていなくてもできる業務であれば、事業場外みなし労働時間制が適用できるというものです。

 

<適正な制度運用>

かつては、労働時間を算定し難い場合ではないにもかかわらず、制度を濫用してサービス残業を強いるケースが数多く見られました。

このため、定額残業代と同様に、事業場外みなし労働時間制が従業員から不信感を持たれています。

企業としては、在宅勤務などで必要があれば適正に運用し、必要がなければ就業規則から規定を削除してはいかがでしょうか。

 

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