労働条件通知書の交付が遅れた場合のリスク

2023/05/09|1,408文字

 

<労働条件通知書の役割>

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕

そして、厚生労働省令で定める事項について、使用者が漏れなく明示できるよう、厚生労働省は労働条件通知書の様式をWordとPDFで公表しています。

常に最新の様式をダウンロードして利用していれば、法令の改正にも対応できます。

「労働条件通知書」という文書名からも、「明示」が目的であることからも、使用者から労働者への一方的な通知であることは明らかです。

労働者の氏名は、宛名として表示されていますが、労働者の署名は必須ではありません。

使用者は、これを1部だけ作成して労働者に交付すれば良さそうですが、労働条件通知書は雇入れに関する重要な書類ですから、控えを3年間保管する義務があります。〔労働基準法第109条〕

この通知書に記載された内容について、労働者が疑問を抱けば、使用者に説明を求めることになります。

 

<正常な労働条件の確定>

労働者の労働条件は、就業規則や労働条件通知書の内容によって明らかとなります。

内容に法令違反があれば、法令の内容に沿って修正されたうえで確定されます。

労働者は、求人票や求人広告の労働条件を確認して応募し、採用面接などの手続きを経て採用されます。

実際の労働条件が、求人票や求人広告の内容と一致していれば、労使双方が納得のうえ採用されたことになります。

しかし求人広告は、あくまでも広告に過ぎません。

採用面接の段階で、使用者側の判断により、求人票や求人広告と異なる条件を労働者に提示し、労働者が承諾すれば、変更された労働条件で労働契約が成立します。

この場合、使用者は変更後の労働条件の内容で、労働条件通知書を作成し労働者に交付します。

この内容について、労働者が疑問を抱けば、使用者に説明を求めたり、異議を唱えたりすることになります。

 

<労働条件通知書の交付が遅れた場合のリスク>

先程の労働基準法第15条第1項の規定によれば、「労働契約の締結に際し」労働条件を明示しなければなりませんから、実際に働き始める前に労働条件通知書を交付するのが正常な状態となります。

たとえば勤務開始後、1か月経っても交付されなければ、明らかに労働基準法違反となってしまいます。

それでも、求人票や求人広告と同じ労働条件で労働契約が成立していれば、トラブルの原因とはなりにくいでしょう。

ところが、採用面接の段階で労働条件が変更されているような場合には、確定した労働条件の明示がないことになります。

たとえば、使用者が労働者の労働時間を適正に把握して記録を残しておくことは、労働安全衛生法によって義務付けられているのですが、これを怠っていて労働者から未払い残業代の請求訴訟があった場合には、労働者の手帳の記録などを手がかりに裁判所が判決を下すこともあります。

これと同様に、使用者が労働条件通知書の交付を怠っている間に、労働者が求人票や求人広告よりも安い時給で賃金を計算されたことを理由に、差額の支払を求めて使用者を訴えたとします。

この場合には、本来あるはずの労働条件通知書がないのですから、裁判所は求人票などを手がかりとして判決を下すことがあるのです。

お金を巡っての口約束が危険なのは、誰もが分かっているはずです。

労働条件通知書の交付を怠ることで、使用者が余計なリスクを負うのは避けなければなりません。

 

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