労基署の書類送検が急増

2023/05/10|1,569文字

 

<労基署の書類送検>

労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などには罰則があって、この罰則が適用されうる違反行為は犯罪ですから、刑法犯と同様に書類送検されることもあります。

しかし、これまで書類送検された事例といえば、労働基準監督署長が企業に報告書の提出を求めても提出しなかったり、虚偽の報告書を提出したりの悪質な事案に限られていました。

ところが、令和5年2月以降、あまり悪質性の感じられない事案についても、書類送検されたという報道が増えています。

 

<労働条件の明示>

労働者と労働契約をする際に、労働条件を書面で明示していなかったとして、廃棄物収集運搬業の会社と取締役が書類送検されました(労働基準法第15条違反)。

労働者から賃金不払いの相談を受けた労基署が、会社を調査していて発覚しました。

(栃木県真岡労基署・令和5年2月20日送検)

 

<死傷病報告書の提出>

労災で1~3日の休業があった際に、3月、6月、9月、12月に集計して労基署に提出することが義務付けられている「労働者死傷病報告書」が、期限を過ぎても提出されなかったため、建設業の会社代表者が書類送検されました(労働安全衛生法第100条違反)。

同社の工事現場で、労働者が熱中症を発症し、3日間休業したにもかかわらず、報告書の提出がなかったものです。

(福岡県北九州東労基署・令和5年3月2日送検)

 

<労働者名簿の作成・保管>

請負工事で雇った外国人労働者3人について、労働者名簿を作成・保管しなかったため、建設業の会社と代表取締役が書類送検されました(労働基準法第107条違反)。

この外国人労働者3人は、身元不明だったそうです。

(三重県四日市労基署・令和5年3月8日送検)

 

<週40時間超の割増賃金>

ベトナム人技能実習生など12人に対し、1日8時間を超えた部分の割増賃金を支払っていたものの、1週40時間を超えた部分の割増賃金を支払っていなかったため、繊維製品製造業の会社と代表取締役が書類送検されました(労働基準法第37条違反)。

週6日勤務させた場合の割増賃金の計算が不適切でした。

(広島県福山労基署・令和5年3月9日送検)

 

<労働基準監督官への陳述>

労働基準監督官の立入調査(臨検監督)の際に、虚偽陳述があったため、物流倉庫業の会社と部長・課長が書類送検されました(労働安全衛生法第91条違反)。

労働者がコンテナの荷物を引き出す作業中に、労災が発生したため、労働基準監督官が企業の立入調査に入った際、危険な作業をさせていたことを隠したことによるものです。

(沖縄県那覇労基署・令和5年3月10日送検)

 

<時間外労働の制限>

労働者2人について、法定時間外労働と法定休日労働の合計が2か月平均で80時間を超えていたため、警備業の会社と支店長が書類送検されました(労働基準法第36条違反)。

2人の法定時間外労働と法定休日出勤は、三六協定の範囲内でしたが、労働基準法の制限を超えるものでした。

(愛知県名古屋南労基署・令和5年3月17日送検)

 

<自己申告制の割増賃金>

人事部の3人と営業部の1人について、会社に申告していなかった時間外労働時間の割増賃金を支払っていなかったため、鉄道業の会社と課長2人が書類送検されました(労働基準法第37条違反)。

4人は正しく申告すると、法定時間外労働時間が100時間を超え労働基準法違反となること、会社から残業時間を一定の範囲に抑えるように指示されていたことから、少なめに申告していたものとみられています。

(大阪府中央労基署・令和5年3月30日送検)

 

<実務の視点から>

多くの府県にまたがり、労働基準監督署による書類送検が行われていますので、特定の都道府県労働局の方針転換ではなく、国ないし厚生労働省の方針転換が考えられます。

労働法違反で書類送検されることなどないよう、コンプライアンスを強化する必要があるでしょう。

 

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