解雇の安易な撤回

2023/05/08|1,759文字

 

<解雇の種類>

解雇=クビという認識で、全く性質の異なる解雇を同列に扱うことは適切ではありません。

解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。

普通解雇は、労働者が労働者としての債務を履行しないこと、つまり債務不履行を理由に労働契約を解除することです。

契約を交わしたものの、一方が債務を履行しなければ、相手方が解除できるというのは、契約に共通することです。

整理解雇は、会社の経営状態が悪く、会社存続のためにやむを得ず、会社が労働者の一部と労働契約を解消することです。

労働者側に落ち度があるのではなく、会社側の事情による解雇です。

懲戒解雇は、労働者に極めて重大な規律違反行為があり、企業に多大な損害を発生させたり、企業秩序をひどく害したりの場合に限り認められます。

もちろん、就業規則や労働条件通知書などで、懲戒解雇となる場合についてのルールが明示されていて、十分な証拠があり、労働者に弁明の機会を与え、説明と弁解をさせるようにするなど、いくつもの有効要件があります。

 

<解雇の意味>

「解雇」と言った場合、労働契約の解除を通告することと、労働契約解除の効果が発生したことの2つの意味があります。

即日解雇であれば、解雇の通告とともに労働契約が解除されますから、解雇の2つの意味が重なることになります。

しかし一般的には、30日以上の解雇予告期間を置いて、たとえば7月1日に7月末をもって解雇すると通告するようなことが行われます。

この場合には、7月1日に解雇の通告が行われ、7月末をもって解雇の効力が発生することになります。

実際には当事者が、7月1日に解雇した/解雇されたと表現することも多いと思われます。

労働者側から「では自主的に退職します。明日から出勤しません」という申し出が行われることもあります。

解雇の効力が生じる前の自己都合退職ですから、離職票に記載される離職理由は自己都合なのですが、労働者にしてみれば「解雇されたのにおかしい」という感覚に陥ることが多いのです。

こうしたことが起こらないように、解雇する側がしっかりとした説明をする必要があるでしょう。

 

<不当解雇の意味>

不当解雇は、解雇の通告をしたものの、解雇権の濫用があって、解雇の効力が発生しないことをいいます。

これは、労働契約法第16条にあるとおり、次のどちらか片方でも当てはまれば不当解雇となります。

・客観的に合理的な解雇の理由がない

・解雇が社会通念上相当であると認められない

ところが使用者は、主観的に合理的な理由があると思い、自分の常識では解雇が相当であると思って、不当解雇をしてしまいがちです。

 

<不当解雇の撤回>

感情的にもなり、うっかり不当解雇してしまった使用者が、弁護士や社会保険労務士に相談すると、不当解雇であることを指摘されます。

弁護士がアドバイスすることの多い対応に、解雇の撤回があります。

解雇を撤回して、労働者に出勤するよう促しても、労働者としては自分を不当解雇するような職場に戻りたくはありません。

こうして出勤しなければ、会社は改めて無断欠勤を理由とする解雇ができることになります。

これに対して、社会保険労務士は会社と労働者とで話し合うことを促します。

社会保険労務士が労働者から相談された場合には、会社から一方的に解雇の撤回があって、出勤を促された場合に、今のままでは安心して出勤できないので、次の3つを要求するようにアドバイスすることでしょう。

・不当解雇について謝罪すること

・不当解雇の再発防止策を提示し実施を確約すること

・精神的苦痛があったので慰謝料を支払うこと

具体的な事情にもよりますが、労働者が安心して復職できる状態にしないまま、会社が出勤を求めこれに応じなくても、無断欠勤や正当な理由のない欠勤ということにはならないでしょう。

 

<実務の視点から>

不当解雇されても、多くの労働者は泣き寝入りします。

正確には、不当解雇するような企業と交渉するよりは、まともな企業に転職することを考える労働者が多いのです。

こうした事情を理解できない企業は、何も問題がないと勘違いしているところに、労働者から不当解雇の主張をされるのですから、まさに寝耳に水です。

経営者としては、こうした実情を踏まえ、解雇ではなく話し合いを踏まえた退職勧奨を考えるべきだと思います。

 

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