知的障害者の職場定着

2023/04/30|1,232文字

 

<定着率の実態>

新卒の定着率はなかなか上がりませんが、障害者の定着率はさらに低いのが実態です。

障害者の退職率は、新卒者の約3倍というイメージです。

苦労して戦力化しても、短期間で退職してしまうのでは、迎え入れた部門、特に指導にあたっていた社員は、大きな精神的ダメージを受けます。

これが繰り返されたのでは、障害者を受け入れるのが嫌になってしまいます。

 

<退職の理由>

健常者に限らず障害者でも、退職理由のトップは職場の人間関係です。

特に知的障害者は、健常者よりも人間関係や職場の雰囲気に敏感です。

職場環境の改善により、知的障害者が退職しにくい人間関係や雰囲気を醸成できれば、健常者の定着率も上昇するに違いありません。

 

<人間関係の問題>

パワハラやセクハラが行われた場合、直接の被害者の人権侵害が最も深刻なのが一般です。

しかし、ハラスメントの現場を見てしまった人、さらにはハラスメント行為があったことを聞いた人の中にも、大きな精神的ダメージを受けて、出社できなくなる人が発生することもあります。

これはハラスメントの被害者が、加害者の直接の相手方に限られないことを示しています。

そして知的障害者は、ハラスメントにもかなり敏感です。

間接的な被害を受けても、出社できなくなる可能性が高いのです。

結局、知的障害者を受け入れるには、社内のハラスメントを一掃するのが理想的なのですが、これは健常者にとっても、本来は必要なことであったはずです。

 

<失敗させない工夫>

パワハラに至らなくても、知的障害者は叱られることに敏感です。

ですから、ミスを発生させない工夫が必要です。

健常者なら少し注意すれば、少し考えれば、きちんとできるだろうと思われることでも、周囲が次のようなことに配慮しなければ、ミスが多くなってしまいます。

・仕事の指示は、現場で細かく具体的に行い、疑問点が残らないようにする。

・文字よりも図形や色の違いで区別できるように工夫する。

・ホワイトボードなどでチェックリストを作成・運用する。

・物品の定位置や導線を床に表示する。

・仕事の内容を安易に変えない、増やさない。

・作業場所など職場の物理的な環境を変えない。

 

<自己肯定感の補充>

知的障害者が叱られることに敏感なのは、自己肯定感が低いことの現れでもあります。

ですから褒めることは、健常者に対するよりも積極的に行う必要があります。

普通にできたら褒める、半歩でも成長を示したら褒めるという心がけが必要です。

この場合にも、本人が忘れないうちに、具体的な内容を示して褒めると効果的です。

〇〇が間違いなくできましたね、〇〇が昨日より早く終わりましたねという具合です。

 

<実務の視点から>

こうしてみると、知的障害者の職場定着を促すには、かなりの努力が必要となることも事実です。

しかし、会社全体の生産性の向上や、人間関係の改善にも大いに役立つ内容が含まれています。

法定の障害者雇用率も上昇してきていますから、ぜひとも積極的に取り組んでいただきたいです。

 

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