年次有給休暇の時季指定義務

2025/09/08|1,312文字

 

働く人が心身のリフレッシュを図るために設けられている「年次有給休暇(以下、有休)」。しかし、取得率の低さが長年の課題となっていました。こうした状況を改善するため、2019年4月の法改正により「時季指定義務」が導入され、企業には一定の有休を“計画的に取得させる”責任が課されるようになりました。

 

<制度の概要>

労働基準法第39条の改正により、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、付与日から1年間で、企業は少なくとも5日は、労働者が実際に休暇を取得するようにさせ、労働者に意向を確認しても取得の意思を示さない場合には、日程を指定してでも休ませる必要があります。

 

<対象となる労働者>

年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象です。これは、フルタイムの正社員だけでなく、所定労働日数に応じて有休が10日以上付与されるパートタイム労働者も含まれます。

労働時間の規制が一部除外される法定の管理監督者であっても、有休の取得義務は適用されます。

 

<時季指定の方法と配慮事項>

企業が有休の取得日を指定する際には、以下の点に留意する必要があります。

一方的な指定ではなく、本人の希望や業務の状況を踏まえて、できる限り配慮した日程を設定することが求められます。

ただし、労働者が自ら希望して取得した有休が年間5日以上ある場合、企業は追加で指定する必要はありません。

企業があらかじめ有休取得日を定める「計画的付与制度」を正しく導入している場合、その日数も時季指定義務の5日に含めることができます。

 

<違反時のリスク>

企業がこの義務を怠った場合、以下のような法的リスクが生じます。

時季指定義務に違反した場合、労働基準法第120条に基づき、労働者一人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。

有休取得状況の記録(年次有給休暇管理簿)が不十分だったり、取得が進んでいない場合、労働基準監督署から是正勧告を受けることがあります。

 

<制度運用のポイント>

企業がスムーズに制度を運用するためには、以下のような工夫が有効です。

労働者ごとの有休付与日数、取得状況、時季指定日などを記録する「有休管理簿」を作成・保管することが義務付けられています。書式は法定されていませんので、ネットで入力用・手書用など職場に合ったものを見つけて利用できます。

有休取得の意義や制度内容を社内で周知し、取得しやすい雰囲気づくりを行うことが重要です。

業務に支障が出ないよう、閑散期や交代制の導入などを活用して、計画的に取得日を調整します。年度単位、3か月単位などで計画し、安心して取得できるようにします。

勤怠管理システムや人事ソフトを活用すれば、有休の取得状況をリアルタイムで把握しやすくなります。

 

<実務の視点から>

年次有給休暇の時季指定義務は、単なる法令遵守ではなく、働き方改革の一環として「休む権利」を確実に保障するための制度です。

企業が積極的に取り組むことで、労働者の健康維持やモチベーション向上につながり、結果として生産性や定着率の向上にも寄与します。

「休みやすい職場」は、「働きやすい職場」でもあります。制度の趣旨を正しく理解し、実効性ある運用を目指しましょう。

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