会社での失言

2025/03/24|1,300文字

 

<同じ失言でも>

大臣が失言で罷免されたというニュースは、たびたび報道されています。

場合によっては、大臣をクビになるだけでなく、国会議員としても辞職に追い込まれるケースがあります。

しかし、民間企業での社員の失言はほとんど報道されず、じわじわとその影響が現れてくることが多いものです。

 

<会社での失言>

上司が部下に対して「○○くんって彼女はいるのかな?」という失言をしたとします。

これが失言だとピンとくる人は、正しい知識を持っていて実践できているので、問題となる失言はしないでしょう。

 職場の優位者が劣位者に対して、仕事上接する際に、必要以上に人権を侵害しうる行為をパワハラといいます。

上司が部下を「○○くん」と呼ぶ必要はありません。

このように呼ぶのは、客観的に見れば上から目線の態度ですから、パワハラになりうるのです。

職場の人間関係や職場環境で、性について平穏に過ごす自由を侵害しうる行為をセクハラといいます。

彼女かいるかどうかは、聞かれるだけでドキドキします。

ですからセクハラになるのです。

ましてや、言われた男性が同性愛者であれば、同性愛者であることがバレたのかと、大いに困惑することもあるでしょう。

LGBTQ+への対応は、すべての企業に必須の取組み課題なのです。

 

<失言で表面化する労働問題>

この例で、言われた部下がパワハラやセクハラを問題にすることは少ないでしょう。

ハラスメントについての社員教育が不足していれば尚更です。

しかし、彼女のいない○○くんは「彼女がいないのは出会いが無いからだ。毎日残業続きだし、休日出勤もあるし、有給休暇も取れないからだ」と思ってしまうかも知れません。

また、彼女がいる○○くんは「今の年収では結婚もできないし、子供を設けるなんてとても無理だ。それに、家族と過ごす時間も確保できやしない」と考えるキッカケとなります。

上司の失言により「会社のため、自分のため」と頑張ってきた○○くんは、考えを変えてしまう可能性があるのです。

何気ない一言が、人間関係や職場関係を悪化させ労働問題が表面化します。

この例では、パワハラ、セクハラ、長時間労働、サービス残業、年次有給休暇の取得率、低賃金の問題について、法的に正当な主張を公式の場で展開する可能性が高まります。

 

<実務の視点から>

特に中小企業では、社員教育が最善の対策です。

すべての点で、労働法に従った遵法経営というのは困難です。

有名な大企業であっても、しばしば労働法違反の報道がされています。

あらゆる点で法律上の努力義務まで尽くしているという企業は稀です。

だからといって、法令を無視することはできません。

日本は法治国家です。

会社は、法律によって法人としてその存続が認められでいるのですから、アウトローでは生きていけません。

罰則が適用されるようなことは慎まなければなりません。それは犯罪なのです。

結局、会社として対応すべきは対応して、社員とのコミュニケーションを密にして、適正な社員教育をすることです。

少なくとも、部下を持つ社員には失言させない教育が必要ですし、すべての社員にブラック企業の疑いを発生させないための教育が必要です。

知的障害者や精神障害者の懲戒解雇で後悔しないために

2025/03/23|2,008文字

 

<解雇の意味>

雇い主から「この条件でこの仕事をしてください」という提案があり、労働者がこれに合意すると労働契約が成立します。

労働契約は口頭でも成立します。

ただ労働基準法により、一定の重要な労働条件については、雇い主から労働者に対し、原則として書面による通知が必要となっています。

解雇は、雇い主がこの労働契約の解除を労働者に通告することです。

 

<普通解雇>

狭義の普通解雇は、労働者の労働契約違反を理由とする労働契約の解除です。

労働契約違反としては、能力の不足により労働者が労働契約で予定した業務をこなせない場合、労働者が労働契約で約束した日時に勤務しない場合、労働者が業務上必要な指示に従わない場合、会社側に責任の無い理由で労働者が勤務できない場合などがあります。

 

<解雇の制限>

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16条〕

普通解雇は、この制限を受けることになります。

 

<懲戒処分の制限>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第15条〕

労働契約法の第15条と第16条は、重複している部分があるものの、第15条の方により多くの条件が加わっています。

懲戒処分は、この厳格な制限を受けることになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒解雇というのは懲戒+解雇ですから、懲戒の有効要件と解雇の有効要件の両方を満たす必要があります。

普通解雇は、解雇の有効要件だけ満たせば良いのですから、懲戒解雇よりも条件が緩いことは明らかです。

 

<懲戒解雇と普通解雇の有効要件の違い>

そして、条文上は不明確な両者の有効要件の大きな違いは次の点にあります。

まず懲戒解雇は、社員の行った不都合な言動について、就業規則などにぴったり当てはまる具体的な規定が無ければできません。

しかし普通解雇ならば、そのような規定が無くても、あるいは就業規則が無い会社でも可能です。

また懲戒解雇の場合には、懲戒解雇を通告した後で、他にもいろいろと不都合な言動があったことが発覚した場合にも、後から判明した事実は懲戒解雇の正当性を裏付ける理由にはできません。

しかし普通解雇ならば、すべての事実を根拠に解雇の正当性を主張できるのです。

ですから懲戒解雇と普通解雇とで、会社にとっての影響に違いが無いのであれば、普通解雇を考えていただくことをお勧めします。

特に、両者で退職金の支給額に差が無い会社では、あえて懲戒解雇を選択する理由は乏しいといえます。

 

<障害者雇用促進法に基づく合理的配慮>

障害者を採用した場合や、健常者である社員が障害者となった場合には、会社が障害者雇用促進法に基づく合理的配慮を求められます。

こうした配慮が不十分であれば、解雇を通告しても、労働契約法第16条にいう解雇権の濫用とされ、解雇が無効となる可能性が高くなります。

ましてや、知的障害者や精神障害者の懲戒解雇となれば、そのハードルは更に高くなります。

懲戒処分の対象となる行為の原因が、知的障害や精神障害である可能性もあり、これに対して、戒めて反省を求めるための懲戒処分が無意味なケースもあるからです。

障害者の雇用の促進等に関する法律は、昭和35(1960)年に障害者の職業の安定を図ることを目的として制定されました。

そして、労働者の募集・採用、均等待遇、能力発揮、相談体制などについて定められ(第36条の2~第36条の4)、事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が定められるとしています(第36条の5)。

また、平成28(2016)4月の改正障害者雇用促進法の施行に先がけて、合理的配慮指針が策定されています(平成27(2015)325日)。

この指針を参考にして、会社が十分な取組を行ってきたのでなければ、解雇を有効に行うことはむずかしいのです。

 

<実務の視点から>

結論としては、会社が一方的に普通解雇や懲戒解雇をするのではなく、障害者本人、家族、主治医、産業医などとよく話し合い、会社が対応しきれないことを説明して、合意による退職を目指すのが現実的です。

会社が誠実に説明すれば、家族が本人の説得に回ってくれることもあります。

それでも合意できない場合には、病状により休職を命じることも考えます。

客観的に見て、懲戒解雇の検討対象となるような行動が現れたのなら、医師から病状が重いと判断されることが多いでしょう。

「あの対応で本当に良かったのだろうか」という疑問を残さないよう、慎重に対応しましょう。

海外での「ねんきん定期便」受取

2025/03/22|579文字

 

<「ねんきん定期便」の海外送付>

日本年金機構に申込むことによって、「ねんきん定期便」を海外の住所に送ってもらうことができます。

パソコンまたはスマートフォンから、「ねんきん定期便お申込みページ」にアクセスして、必要事項を入力して送信するだけです。

https://www.nenkin.go.jp/do/reg_service/

 

申込に際しては、基礎年金番号の入力が必要になります。

不明の場合には、転居前にお近くの年金事務所などで基礎年金番号を確認しておく必要があります。

 

<サービスの利用にあたって>

このサービスを使って、日本国内の住所への送付を申し込むことはできません。

1回申し込むことによって、定期的に郵送されるサービスではなく、1回の手続きで1回限りの送付となります。

申し込んでから「ねんきん定期便」が届くまで、約3か月かかります。

また、年金記録の状況や各国の郵便事情などにより、それ以上の期間を要する場合があります。

「ねんきん定期便お申込みページ」には、メールアドレスの入力欄がありますが、メールの返信サービスは行われていません。

「ねんきん定期便お申込みページ」の入力内容に不備があった場合など「ねんきん定期便」を送付できないときは、その旨を記載した「エアメール」が送付されます。

この場合には、再度申し込むことによって、送付を受けられるようになります。

懲戒解雇のための証拠集め

2025/03/21|1,688文字

 

<解雇は無効とされやすい>

解雇については、労働契約法に次の規定があります。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

この条文の中の「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」というのは、それぞれの会社の方針や世間一般の常識ではなく、裁判所の解釈が基準になります。

ですから、安易に懲戒解雇を行うのは危険です。

実際に発生している事実に照らして、関連する判例を数多く調べたうえで、懲戒解雇を検討しなければなりません。

多くの中小企業では、社外の専門家の手助けを必要とするでしょう。

 

<懲戒解雇の手順>

懲戒解雇が無効とされないためには、一般に次の手順を踏むことが必要になります。

 

1.口頭注意

何か不都合な行為を行った社員に対しては、口頭で注意を行います。

そして、注意の内容を文書化し本人に確認させます。

本人に署名してもらい、注意をした社員の上司の確認を得ます。

原本を会社が保管し、コピーを本人に渡します。

 

2.文書による注意

本人が口頭注意に従わない場合、反省していない場合には、文書による注意を行います。

この文書も口頭注意の場合と同じ手順を踏みます。

 

3.懲戒処分

文書による注意を行っても、本人がこれに従わず、あるいは反省していない場合には、懲戒解雇には至らない軽い懲戒処分を行います。

これを行うには、就業規則や労働条件通知書に解雇の具体的な定めがあることや、本人に弁解の機会を与えるなどの適正な手続が必要です。

 

4.懲戒解雇

上記の手順を踏んでも、本人が態度を改めず、会社に籍を置いておくことが会社にとって害悪をもたらす場合には、やむを得ず懲戒解雇に踏み切ることになります。

 

<証拠の品質>

上記の1.から4.までについて、きちんと証拠を残しておくことが、会社を守るためには大事なことです。

しかし、ただ証拠を残せば会社が裁判で勝てるというわけではありません。

証拠の品質が問題となります。

 

懲戒解雇の有効性を争う裁判には、民事訴訟法の次の条文が適用されます。

 

(自由心証主義)

第二百四十七条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

 

このことから、証拠の内容は具体的で、確かにそうした事実があったのだということを裁判官に納得させるものでなければなりません。

 

そして、懲戒解雇の有効性が争われた場合、その証拠からうかがわれる会社の態度も裁判官から見透かされてしまいます。

懲戒解雇の有効性を否定される会社の態度としては、次のようなものがあります。

・口頭注意や文書による注意の段階から、問題社員のレッテルを貼り懲戒解雇を決めていた。

・会社が親身になり本人の改善に協力的な態度を示しているとは認められない。

・本人が迷ったとき、相談したり指導を仰いだりする具体的な担当者を決めていなかった。

 

 

<円満解決>

たしかに、会社が問題社員に対して親身になって指導し、成長させ改善させるというのは現実には厳しい話です。

それでも、本当の問題社員であれば、そこまでされたら退職願を提出することでしょう。

なぜなら問題社員は、きちんと仕事をしようとか、成長して会社に貢献しようなどとは思っていませんから、会社側からこれを求められるのが一番つらいからです。

懲戒解雇の有効性を争われた場合と、退職願が提出された場合とでは、社員全体にもたらす影響に雲泥の差が生じます。

もちろん、クチコミによる社外への影響も無視できません。

経営者や人事担当者は、目の前の問題社員の態度に熱くなってはいけません。

どのような解決が会社にとってベストなのかを、冷静に見極めることが求められているのです。

 

<実務の視点から>

社内で問題行動が発生した時点で、将来の懲戒解雇を見据えた証拠集めが必要となります。

また、注意・指導の内容が不適切な場合には、パワハラや不当解雇の証拠が蓄積されてしまいます。

問題の火種が小さなうちに専門家に相談することをお勧めします。

日本年金機構の運営方針

2025/03/20|1,761文字

 

<運営方針>

日本年金機構のホームページには、次の運営方針が掲げられています。

最終更新は、令和4(2022)年9月9日となっています。

 

1.組織ガバナンスの確立

(1)お客様である国民の信頼を得られる組織の実現を目指し、組織改革・意識改革・業務改革を断行する。
(2)理事長の強いリーダーシップの下、職員一人ひとりが意欲と使命感をもって自ら変わる、自ら機構をつくり上げていくという意識で改革に取り組み、組織改革を断行する。
(3)組織内の対話とコミュニケーションを通じて、目標の共有化を図るとともに、働きやすい職場環境作り、風通しの良い組織作りを進める。
(4)リスクの未然防止に重点を置いた厳格な内部統制の仕組みを構築する。
(5)理事長に直結した内部監査部門による効果的な内部監査を通じて、機構自らがPDCAサイクルの中で不断の改善努力を行うとともに、外部監査の活用を図ることにより、内部統制の有効性を検証するための体制を整備する。
(6)職員に対しコンプライアンス意識を徹底するとともに、コンプライアンス・リスク管理担当部門や外部通報窓口の設置などの体制を整備する。
(7)システム開発・管理・運用に係る権限と責任の明確化、CIO(システム担当理事)やPJMO(本部のシステム部門)の設置、システム人材の確保・育成などにより、ITガバナンスの構築を含むIT体制を確立する。
(8)お客様本位の立場に立った健全な労使関係を確立する。

2.新たな人事方針の確立

組織の一体感を醸成するとともに能力・成果の適正な評価、計画的な人材育成等を実行するための人事方針を確立し、別途定める。

3.お客様の立場に立った親切・迅速・正確で効率的なサービスの提供

(1)職員全員が年金記録管理や個人情報管理の重要性を再認識するとともに、お客様である国民の信任を受けて年金記録を正確に管理し、正しく年金をお支払いするという使命感と責任感をもって業務にあたる。
(2)お客様に対するわかりやすい言葉での十分な説明、信頼される誠実な対応を旨とし、お客様の立場に立った懇切丁寧なサービスの提供を行う。
(3)適用・徴収・給付等の各業務について、法令や業務処理マニュアルに従った迅速・適正な処理を推進する。
(4)現行業務についての徹底した見直しを行い合理化・効率化を図るとともに、できる限りの標準化を進める。
(5)業務効率化やコスト削減、お客様サービスの向上に資するため、積極的に業務の外部委託を進めるとともに、委託業務の品質の維持・向上のために委託者としての管理責任を果たす。
(6)契約の競争性・透明性の確保を図るとともに、公正な契約を担保するための厳格なチェックを実行する。

4.お客様の意見の反映等

(1)広報については、分かりやすく親切な情報提供を効果的に行うとともに、機構の業務目標や成果などについて、年次報告書等により情報公開に向けた取組をより一層充実する。
(2)お客様のニーズを的確に把握し、業務運営に反映する。このための仕組みとして、充実した機能を有する運営評議会を設置するほか、お客様の声を収集するための様々な取組を進め、それらを踏まえたサービス改善に取り組む。
(3)被保険者、事業主、受給者、地方公共団体等の協力の下に、事業を適正に運営するとともに、年金事業に対する国民一般の理解を高めるよう努力する。

 

 <年金事務所の現状>

年金加入者(被保険者)や年金受給者の相談窓口として、年金事務所や街角の年金相談センターなどが設置されています。

かつては社会保険庁の傘下に、社会保険事務所が設置されていましたが、民営化により年金事務所となり、その機能もほぼ年金に特化されています。

上記の運営方針の中で、「コスト削減」は人員削減によって成果が数値にあらわれます。

しかし、「お客様サービスの向上」は数値化が容易ではありません。

人員削減によりサービスが低下したのではないかと不安を感じています。

年金相談は予約制ですし、その予約は1週間以上先になってしまうことも多いのです。

予約なしに相談することも可能ですが、2時間以上待ちが一般的です。

また、どちらかというと街角の年金相談センターの方が空いているようです。

最寄りの年金事務所にこだわらず、空いている所を狙ってはいかがでしょうか。

雇用契約不更新の合意の有効要件

2025/03/19|1,077文字

 

<シンガー・ソーイング・メシーン事件判決>

シンガー・ソーイング・メシーン事件は、退職金放棄の有効性について争われたものです。

この判決は、「賃金に当る退職金債権放棄の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、有効である」と述べています。(最高裁第二小法廷 昭和48年1月19日判決)

そして、この判決の趣旨は、有期雇用契約を更新しないという、使用者と労働者との合意について、その有効性を判断する基準としても参考になるものです。

つまり、「雇用契約の不更新についての労使間の合意は、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、有効である」と考えられます。

 

<「合理的な理由が客観的に存在」とは>

この基準の中の「合理的」というのは、「有期契約労働者を保護するという労働契約法などの趣旨や目的に適合する」という意味だと考えられます。

また、「客観的」というのは、「裁判所の判断」を指していると考えられます。

そして、裁判所が判断するには、有期契約労働者の生活が不安定にならないように、労働契約法などの趣旨を踏まえて、会社がどれだけ誠意ある態度を示しているかが重要な要素となります。

 

<労働者の自由な意思>

合意書に労働者の署名捺印があったとしても、それが「労働者の自由な意思」によるものでなければ、有効ではないのです。

そして、「労働者の自由な意思」によるものだと認められるためには、すべての具体的な事情から、強制の要素が無く、労働者が合意するのも自然だと認定される必要があります。

 

<会社の誠意ある態度>

会社の誠意ある態度は、次のような事実から認定されます。

・入社してから不更新の合意までの期間が短いこと

・説明会や面談での説明回数が多いこと

・退職金や慰労金など金銭の支払があること

いずれも、有期契約労働者が契約打ち切り後の生活について、十分な準備ができるようにするための配慮です。

 

<具体的な判断方法>

こうすれば確実に契約の不更新が許されるというような、明確な基準はありません。

ここでは、シンガー・ソーイング・メシーン事件で示された最高裁の判断を頼りに一応の基準を示しました。

しかし、無期転換と不更新合意について、現時点では、最高裁の判例が存在しません。

ですから、過去の裁判例のうち、具体的なケースに関連したものを抽出して、論理的に結論を推定するしかないのです。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

精皆勤手当は一部の業種を除き廃止されてきました

2025/03/18|944文字

 

<精皆勤手当の趣旨・目的>

精勤手当・皆勤手当は、1か月の給与支給対象期間の出勤予定日に欠勤しないことについて、給与の一部として支給される手当です。

1か月の欠勤が1日か2日の場合にも、減額され支給される場合があります。

なお、年次有給休暇の取得をもって欠勤とする扱いは、不利益な扱いとなり労働基準法に反します。〔労働基準法第136条〕

自動車運輸業では、ドライバーが欠勤した場合に代替要員の補充が困難なため、精皆勤手当を支給して欠勤しないことを奨励することが行われます。

建設業でも、工期の遅れを避けるため、精皆勤手当を支給して欠勤しないことを奨励することが行われます。

他にも、飲食業や製造業などで精皆勤手当を支給する企業は残っています。

 

<精皆勤手当導入拡大の動き>

平成2(1990)年前後に見られるように、新卒採用が困難な時期が周期的に訪れます。

大企業であれば、基本給の増額や休日・休暇の増加によって、学生を集めることができます。

しかし、中小企業では人材不足と採用難で、簡単に休日・休暇を増やすことはできませんし、基本給の増額によって賞与が増額されることなどを嫌いますので、新たな手当を設けることにより対処する傾向が見られました。

こうして新たに導入する手当としては、精皆勤手当も手頃だったため、導入が進んだという経緯があります。

 

<同一労働同一賃金の検討の中で>

令和3(2021)年4月には、中小企業にも同一労働同一賃金が義務付けられることとなりました。

これによって、正社員と非正規社員とで、手当の有無や支給額の差異について、合理的な説明がつくかが問われるようになりました。

そこで、各企業は自社の手当ひとつ一つについて、その趣旨目的を再確認することとなったのです。

このとき、欠勤しないことは労働契約上の義務であり当然のことであって、当然のことに対して手当を支給するのは不合理ではないかという疑問が出てきました。

この流れから、精皆勤手当が廃止され、基本給に組み入れられたり、別の手当に振り替えられたり、あるいは賞与の支給額に反映されたりの動きが盛んとなったのです

しかしこれからも、欠勤しないことが強く要請される職種では、会社の態度を示す意味でも精皆勤手当の支給が続くのではないかと考えられます。

小さな会社が社員を増やさない理由

2025/03/17|1,474文字

 

<人件費を考えると>

たとえば、月給20万円の社員を3人雇って、月45時間の残業をさせるよりは、4人雇って残業ゼロにした方が、同じ人件費でも生産性が上がります。 

月給20万円の社員が、月に45時間残業しているとします。

月間所定労働時間が174時間(8時間勤務で週休2日)だとすると、時間単価は、 

20万円 ÷ 174時間 = 1,150円(円未満切り上げ)

法定外残業の割増賃金は、 

1,150円 × 1.25 1,438円(円未満切り上げ)

毎月45時間残業しているとすると、その残業代は、

1,438円 × 45時間 = 64,710

これが3人だと、

64,710円 × 3人 = 194,130

これは、ほぼ1人分の月給に相当します。

つまり、ある会社に、あるいは、ある部署に3人いて、毎月45時間残業しているのなら、もう一人雇って残業しないことにすれば、同じ人件費で生産性が上がるということです。 

なぜなら、3人が残業した時間は、

45時間 × 3人 = 135時間

これは、月間所定労働時間の174時間を大きく下回るわけですから、4人で今までより多くの仕事をこなせますし、疲労も軽減されるので生産性が上がるということになります。

もちろん、残業代を不当にカットしていれば、この計算は狂ってきます。

しかし、日本は法治国家です。

「残業代をキッチリ支払っていてはやっていけない」などという会社はやがて消えます。

ですから、上の計算は長期的に見れば正しいと思います。

ただ現実には、最低賃金は上回るものの、ある程度の残業代が出ないと生活できない、そもそも一定の残業を前提として基本給や手当が決定されているという中小企業も多いのは事実です。

ですから当面は、長時間労働の解消と生活費の確保のバランスを考える必要が大きいのです。

 

<人間関係を考えると>

社長を含め4人の会社が1人増員して5人にすると、人間関係が66%も複雑になりますから、報連相やコミュニケーションが弱い会社ではギクシャクしてしまいます。

紙の上に4つの点を打って、そのうちの2つの点を結ぶ線を引くと、全部で6本の線を引くことができます。

これは、4人いる場合に人間関係が6通りできることを意味します。

紙の上に5つの点を打って、そのうちの2つの点を結ぶ線を引くと、全部で10本の線を引くことができます。

これは、5人いる場合に人間関係が10通りできることを意味します。

ちなみに、社員がn人の場合の人間関係は、n(n-1)÷2 通りとなります。

こうして、4人から5人に1人増えただけで、人間関係は6通りから10通りに66%も増えてしまうことになります。

退職理由の第1位は人間関係とも言われますので、せっかく1人採用しても、退職者が出やすいことになってしまいます。

 

<増員するにあたっては>

物理的な対応も必要です。

机やロッカー、制服など、什器・備品も増やさなければなりません。

社内のルール作りも急がれます。

従業員が10名になれば、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長に届出を行う必要がありますし、安全衛生推進者の選任なども必要になってきます。

こうしてみると、社員を増やすのも気が重いものです。

しかし、事業拡大のためには、人員の増加はやむを得ません。

ルール作り、労務管理、労働安全衛生といったことについては、ネットで検索できる一般論で済ませるわけにはいきません。

各企業へのカスタマイズを専門に行っている国家資格者の社会保険労務士(社労士)がいるわけですから、悩んでいないで委託することをお勧めします。

きっと社内で専門職を育てるよりは、遥かに短期間で格安に体制を整えることができるでしょう。

会社は労災手続をためらってはいけません

2025/03/16|1,619文字

 

<労災手続をためらうケース>

通勤災害であれば、手間はかかるものの、会社が労災保険関係の手続をためらうことは少ないでしょう。

ところが、業務災害の場合には、次のようなケースで会社が手続をためらうことがあります。

・労働基準監督署が労災だと認めると、これは公式見解となるので、会社の労災発生に対する責任が、本人や家族から追及されることになりそうで不安な場合。

・本人の過失が大きいため、労災保険による補償が妥当ではないと感じる場合。

・ごく当たり前の通常業務を行っていて、筋肉や関節を傷めたと、医師から診断されていて、この調子だと労災認定の範囲が拡大しそうだという場合。

・本人から会社に対して、労災保険の手続をするように要望があったが、会社としては労災に該当しないと判断している場合。

しかし、いずれの場合も、会社独自の判断で、労災手続を進めないというのはいけません。

 

<労災認定と会社の責任>

労働基準監督署によって、労災保険の適用が認められたからといって、事故に対する会社の責任が肯定されるとは限りません。

たとえば、メガネをかけている従業員に対して、「メガネをかけたまま冷凍室に入ると、出てきた時にメガネが曇って危険なので、メガネを外して冷凍室に入るか、冷凍室から出る時にメガネを外すかしてください」という注意を徹底し、冷凍室の入口に「メガネ注意!」などの表示があったとします。

ところが本人が、あえて無視してメガネが曇り、冷凍室の前で転んでケガをした場合、労災保険は適用されますが、会社の責任は問われません。

反対に、従業員が休日に、会社の経営する飲食店で食事をしていたところ、天井から照明器具が落下してケガをした場合には、労災とは無関係ですが、会社は責任を免れません。

このように、労災保険の適用と会社の責任とは連動するものではありません。労災認定があったからといって、必ずしも会社が責任を問われやすくなるとはいえないのです。

同様に、本人の過失が大きいからといって、労災保険の適用がないともいえません。

 

<通常業務によるケガ>

どこの飲食店でも行われているような調理作業で手首を傷めたり、小売店でごく普通の接客業務を行っていて腰を傷めたりということがあります。これは、その人の体質あるいは遺伝的要素によるところが大きいのであって、誰にでも発症するようなことではありません。

会社としては、「こんなことで労災保険が適用されることはないだろう」と考えることもあるでしょう。しかし、労災認定をするのは所轄の労働基準監督署長であって、会社でもなく、医師でもありません。医師は、病状の診断はしますが、業務との因果関係を認定する権限がありません。

会社の判断で労災の手続をしないのは、権限外の判断となってしまいます。

 

<会社の判断で手続をしないリスク>

会社の判断で手続をしない場合、労災保険の適用を主張する従業員は、ネットへの書き込みなどで情報を拡散するかもしれませんし、労働基準監督署に相談に行くかもしれません。

会社が手続に協力しない場合、労働基準監督署が労災を認定すれば、被災者は単独で労災保険の手続を進めることもできますし、会社は労災隠しを指摘されます。

また、労災が認定されない場合でも、従業員が労災の話のついでに、長時間労働や残業代の一部カット、年次有給休暇を思うように取得できないことなど、労働基準監督署に話せば、その内容によっては、労働者からの申告と認識されて立入調査(臨検監督)へと進むこともあります。

 

<実務の視点から>

会社が労災手続をするかしないか迷い、あるいは必要がないと感じた場合には、ケガを負った従業員などに詳しく話を聞いて、念の為、労働基準監督署に労災認定の可否を確認しなければなりません。

これを行って、その従業員に結果を説明し、万一納得がいかないという場合にも、会社に抗議するのではなく、労働基準監督署の労災課に確認してもらうようにすればよいのです。

雇用保険の育児時短就業給付金

2025/03/15|1,062文字

 

<育児時短就業給付金>

令和7(2025)年4月から「育児時短就業給付金」が創設されます。

仕事と育児の両立支援の観点から、育児中の柔軟な働き方として時短勤務制度を選択しやすくすることを目的 に、2歳に満たない子を養育するために時短勤務した場合に、育児時短就業前と比較して賃金が低下するなどの要件を満たすときに支給される給付金です。

次の2つの要件を満たす方が対象です。

 

・2歳未満の子を養育するために、育児時短就業する雇用保険加入者であること

・育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて、育児時短就業を開始したこと、または、育児時短就業開始日前2年間に雇用保険加入期間が12か月あること

 

ただし、支給されるのは次の4つの要件をすべて満たす月に限られます。

 

・初日から末日まで続けて雇用保険加入者である月

・1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月

・初日から末日まで続けて、育児休業給付または介護休業給付を受給していない月

・高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月

 

<支給額>

原則として、育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額が支給されます。ただし、育児時短就業開始時の賃金水準を超えないように調整されます。 また、各月に支払われた賃金額と支給額の合計が支給限度額を超える場合は、超えた部分が減額されます。

なお次の場合、給付金は支給されません。

 

・支給対象月に支払われた賃金額が育児時短就業前の賃金水準と比べて低下していないとき

・支給対象月に支払われた賃金額が支給限度額以上であるとき

・支給額が最低限度額以下であるとき

 

<支給を受けることができる期間(支給対象期間)>

給付金は、原則として育児時短就業を開始した日の属する月から育児時短就業を終了した日の属する月までの各暦月(支給対象月)について支給されます。

ただし、以下の日の属する月までが支給対象期間となります。

 

・育児時短就業に係る子が2歳に達する日の前日

・産前産後休業、育児休業または介護休業を開始した日の前日

・育児時短就業に係る子とは別の子を養育するために、育児時短就業を開始した日の前日

・子の死亡その他の事由により、子を養育しないこととなった日

 

<経過措置(2025年4月以前から時短就業をしている場合)>

2025年4月1日より前から、2歳未満の子を養育するために育児時短就業に相当する時短就業を行っている場合は、2025年4月1日から育児時短就業を開始したものとみなして、要件を満たす場合は、2025年4月1日以降の各月を支給対象月として支給されます。

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