JIS規格の履歴書は廃止され厚生労働省が履歴書の様式例を公開しています

2025/01/23|1,065文字

 

<厚生労働省が履歴書の様式例を作成した理由>

履歴書は、主に採用選考で使用されます。

このことからすれば、厚生労働省が履歴書の統一様式を定めても良さそうですが、これまでは独自の様式を定めず、一般財団法人日本規格協会が示していたJIS規格の履歴書の様式例を推奨してきました。

ところが、令和2(2020)年7月に、LGBT当事者を支援する団体から、厚生労働省、日本規格協会等に対して履歴書様式の検討(性別欄の削除等)を求める要請が行われました。

対応しきれなかった日本規格協会は、JIS規格の履歴書の様式例全体を廃止しました。

このため、令和3(2021)年4月16日、厚生労働省労働政策審議会安定分科会が履歴書の様式例を作成しました。

厚生労働省は、公正な採用選考を進めるため、新たに作成された様式を推奨しています。

 

<JIS規格の履歴書からの変更点>

性別欄が「男・女」の一方を◯で囲むことによって選択する方式から、任意記載欄に変更されました。

任意記載ですから、未記載とすることも可能です。

採用選考に当たって、性別そのものや性別に関連して見た目から受ける印象などを排除する意図です。

また、「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の各欄を様式内に設けないこととしました。

これらは、本人の業務遂行能力などとは関係の無い事項であり、公正な採用選考をするにあたっては有害無益だからです。

 

<履歴書の様式例の使用義務>

厚生労働省が作成した履歴書の様式例は、公正な採用選考を確保するために例示しているのであって、法的拘束力はありません。

そのため、企業側が特定の履歴書の様式を指定して応募させる場合に、厚生労働省の様式を使用するか否かは各企業の判断に任されています。

また、企業側が特定の履歴書の様式を指定しない場合には、応募者が任意の様式を用いることができます。

応募者にとって、履歴書は自己アピールのツールですから、特技、資格、学歴、職歴、趣味、健康状態など、企業側に訴えたい特長を十分に記載できる様式を用いるのが有利です。

 

<実務の視点から>

厚生労働省による様式作成の趣旨からすれば、企業側が特定の様式を指定しない場合に、「性別」「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の各欄が無い場合、あるいは未記入の場合、採用決定前にその内容を聞くことは不適切だということになります。

また、今だに「JIS規格の履歴書」という言葉が求人広告に入ってしまっていると、その企業が時代に追いついていないことを示すことになりますから、注意が必要です。

パワハラの被害を受けたという思い込み

2025/01/22|1,017文字

 

<パワハラの勘違い>

職場で自分の意見が通らない、同僚から無視されている、自分だけが叱られている、したがって、「私はいじめられている」と感じる人がいます。

しかし、いつも見当外れの意見を言うので受け入れてもらえない、やがて同僚は相手にしなくなる、そして、上司は同じ注意を何度も繰り返すうちに声が大きくなるというように、本人に原因がありそうな事例もあります。

 

<東京地裁 平成22(2010)年9月14日判決>

訴えを起こした人は、一般事務を担当する正社員でした。

しかし、身体、精神の障害により業務に耐えられないなどとして解雇されてしまいました。

これに対して、解雇権の濫用であり不当解雇なので解雇は無効であること、社長や上司による集団的いじめや嫌がらせを受けて多大な精神的苦痛を被ったので慰謝料などを請求すると主張したのです。

 

裁判で認定されたその人の働きぶりは次の通りです。

 

書類をファイルする場所を間違えることが多かった。

電話対応に問題があり、たびたび助言を受けていた。

仕事に慣れるペースが遅かった。

勤務態度について、上司からかなり厳しい注意を受けていた。

教育指導的観点から少しでも業務遂行能力を身につけさせるために、日報の作成を命じた。

ところが、失敗に対する反省を書かないので、上司が業務の反省点や改善点も記入するように指導した。

それでも書き漏れが多かった。

顧客から電話応対について感じが悪いとクレームを受けたため、ミーティングを開くなどして、本人に改善を求めたが受け入れなかった。

 

この裁判の判決では、社長や上司たちには、いじめや嫌がらせの動機や目的が無いものとされ、訴えを起こした人の請求は退けられました。

 

<実務の視点から>

上記の事例では、訴えを起こした人に対して、上司などが熱心に教育指導していることがわかります。

これはこれで大事なことです。

しかし、そもそもこのような人を採用しないことは、教育以上に大事だと思います。

採用した会社側にとっても負担が大きいですし、採用された側も自分の能力を超える要求をされて苦しいからです。

また、人事考課制度の適正な運用によって、働き手ひとり一人の能力や適性を明らかにしておくことも必要です。

ただ、こうした専門性の高いことについて、社内に専任の担当者を置くことがむずかしいかもしれません。

そのような会社では、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命いただくことをご検討ください。

人事考課制度を新たに導入する場合には、その弊害を防止することも計画化することが必要です

2025/01/21|719文字

 

<人事考課制度の導入>

人事考課制度が無ければ、有能な社員ほど評価してもらえないことに対する不満が大きくなりますから退職に向かいます。

反対に、自己啓発をせず会社に貢献する気も無い社員は、人事考課によって不利益な扱いをされませんから居心地が良いわけです。

こんなことでは会社に将来性がありませんから、人事考課制度は会社にとって必須のものといえるでしょう。

しかし、導入による弊害もあるのです。

 

<パワーハラスメントの恐れ>

「職場の優位者が劣位者に対して仕事上接する際に必要以上に人権を侵害しうる行為」

これがパワハラです。 

考課者は評価対象者よりも優位に立ちます。

そのため、偉くなったような気になり、平気で評価対象者の人格を傷付けるような言動に走るようなこともあります。

このことを考課者自身が自覚して慎む必要があります。

評価対象者は、自分を評価する人が誰であるかを知っていますから、考課者から気に入ってもらおうとして、妙にへりくだった態度を取ることがあります。

考課制度の導入にあたっては、仕事ぶりを評価しているのであって、考課者の好き嫌いで評価するのではないことを説明しておく必要があります。

 

<改善提案や意見が出なくなる恐れ>

人事考課制度に対して極端に臆病な社員もいます。

「何もしなければ悪い評価は付かないのではないか」「下手に動いて墓穴を掘るのは損だ」と考えてしまいます。

すると、仕事についての改善提案や会社を良くするための意見が出て来なくなる恐れがあります。

これを防ぐためには、その内容にかかわらず、改善提案や積極的な意見がプラスに評価される仕組みにすること、提案や意見が無いとマイナス評価になることを評価対象者に説明しておくことが大事です。

業務災害によってあまり働けなくなってしまった人の解雇

2025/01/20|1,376文字

 

<業務災害>

労働者災害補償保険(労災保険)は、業務上の災害(業務災害)と通勤中の災害(通勤災害)による負傷、疾病、障害、死亡について、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行う公的保険制度です。

通勤災害については、その防止に向けた会社の努力が、安全教育や情報提供などに限定されています。

したがって、業務災害ほど会社の責任が重くはないので、解雇について特別な配慮が必要なケースは稀です。

しかし、業務災害をきっかけに解雇を検討する場合には、配慮すべき点が多いといえます。

 

<故意・重過失による業務災害>

会社や上司に対する恨みなどにより、意図して業務災害を発生させた場合には、悪質性が高いですから、被害の程度によっては懲戒解雇を検討することになります。

これは、重過失による業務災害も同様です。

重過失による業務災害とは、結果発生の予測がたやすい場合や、結果発生の回避がたやすい場合に、注意義務に反して結果を発生させた業務災害をいいます。

 

<過失による業務災害>

故意・重過失によらず単なる過失によって業務災害を発生させた場合には、これを懲戒の対象としない会社もあります。

懲戒の対象としないのは、業務災害発生の原因を教育不足・指導不足に求めるからです。

しかし、会社の教育・指導が十分であって、およそ業務災害の発生が想定できない場合にまで、懲戒の対象から外してしまうのでは、他の従業員が安心して勤務できませんし納得できないでしょう。

やはり、業務災害発生の原因を具体的に吟味したうえで、本人に責任がある場合には、懲戒の対象とすべきです。

そして、過失による業務災害であっても、被害が大きければ懲戒解雇が検討される場合があります。

しかし、被害の大きさにとらわれて、悪質性の低さを見失うと、解雇権の濫用となり解雇が無効となることもあります。〔労働契約法第16条〕

懲戒と教育・指導の併用によって対応するのが基本となります。

 

<業務災害による能力低下>

業務災害で被災し、健康状態の減退や障害によって、業務遂行能力が低下する場合もあります。

そして、能力低下が著しい場合には、普通解雇を検討することもあります。

しかし、会社の施設・設備・器具の欠陥や不適切な配置、教育・指導の不足などが業務災害に影響していた場合には、会社に雇用の維持が求められます。

具体的には、異動や業務の転換によって、勤務を継続できるように配慮することになります。

一方で、被災者に故意・重過失が認められる場合には、能力低下による普通解雇一般の基準で判断することとなります。

 

<労働基準法による解雇制限>

以上のどのケースであっても、被災者が業務災害によって療養のために休業した場合には解雇が制限されています。〔労働基準法第19条〕

 

【労働基準法第19条:解雇制限】

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

会社を退職したら国民年金の手続が必要です

2025/01/19|445文字

 

<国民年金の届出>

会社を退職した時点で20歳から59歳までの人は手続が必要です。

同様に、退職者に扶養されている20歳から59歳の配偶者も届出が必要です。

手続の窓口は、お住まいの市区町村の国民年金担当窓口です。

年金手帳など基礎年金番号がわかる書類があれば、手続がスムーズです。

退職によって、会社員・公務員など厚生年金の加入者の扶養に入る配偶者は、加入者の勤務先への届出が必要です。

 

<保険料の納付が困難なら>

保険料の納付が困難であることを理由に、国民年金の手続をしないのは損です。

申請によって、保険料の一部または全額が免除になる制度がありますので、窓口で相談することをお勧めします。

退職(失業)の場合は、前年の所得をゼロとして審査されます。

また、免除の割合に応じて一定の年金額が保障されます。

手続をしなければ、この保障が受けられません。

病気や事故で障害が残った場合の障害年金や、遺族年金についても、免除の手続をしておけば受給の権利が確保されます。

手続は、退職後速やかに行うことをお勧めします。

企業にとってメリットいっぱいのカスタマーハラスメント対策

2025/01/18|916文字

 

<厚生労働省の聞き取り調査>

厚生労働省は、カスタマーハラスメント対策について、多くの聞き取り調査を行い、集計・分析してまとめた資料を公表しています。

こうした資料によると、カスタマーハラスメント対策のメリットとして、企業から次のような声が集まったそうです。

 

  • 業務への影響

・複数名で状況を把握できるようになり、迷惑行為を迅速に確認し、対応できるようになった。

・対応方法を明示することで、従業員が働きやすくなった。

・顧客対応のノウハウが整理でき、経験を培うことができた。

・顧客対応に関連する訓練、研修の受講後は、落ち着いて対応できるようになった。

 

  • 従業員への影響

・職場環境が明るくなった。

・笑顔が出るようになった。

・会社としてカスタマーハラスメントに対する姿勢を示したことで、従業員の安心感が生まれた。

 

  • 職場環境への影響

・会社にとって好ましくない客が、来にくくなった。

・迷惑行為をする人が少なくなり、職場環境が良くなった。

・職場環境が良くなったことで、離職者が減った。

 

<お客様への影響>

厚生労働省の聞き取り調査では、業務、従業員、職場環境への影響について分析が行われています。

しかし、カスタマーハラスメントはお客様が行うものですから、電話やメールなどによるものを除き、他のお客様の目につきやすい場所で行われるのが通常です。

極端な架空の例ではありますが、令和時代の今、あるお店に入ったところ、店員が泣きながら土下座している姿を見てしまったらどうでしょう。その日に限らず、二度とそのお店を利用したくなくなるのではないでしょうか。

こうしたことは、まだカスタマーハラスメント対策が進んでいない平成時代の中頃には、コンビニなどで実際に発生し、その様子が報道されていました。

カスタマーハラスメント対策が行われていないお店には、お客様が入りにくく、対策の進んでいるお店は安心して利用できるのではないでしょうか。

 

<実務の視点から>

カスタマーハラスメント対策に積極的に取り組むことによって、従業員が働きやすくなり生産性が向上するだけでなく、お客様が利用しやすくなり売上も向上するということです。

他の企業に遅れを取ることなく、対策を推進していただきたいと思います。

5等級以上下がる場合の月額変更届の添付資料

2025/01/17|633文字

 

<追加の書類が必要となる場合>

標準報酬月額の等級が2以上上がって、あるいは、24下がって月額変更届を提出する場合とは異なり、等級が5以上下がる場合には、賃金の変動や支払額の確認を厳密にするため、追加の添付書類が必要となります。

これは、手続が遅れて、改定月の初日から60日以上経過してしまった場合にも同様です。

届出の内容が誤っていると、保険者の保険料収入が過小になりますし、保険加入者(被保険者)の保障も不利益となるため、慎重に判断する必要があるからです。

 

<法人の役員以外>

固定的賃金の変動があった月の前月分から変動後3か月分(合計4か月分)の賃金台帳のコピー(給与明細書や所得税源泉徴収簿のコピーも可)が必要です。

また、支払基礎日数の確認のため、固定的賃金の変動があった月から3か月分の出勤簿またはタイムカードのコピーが必要です。

 

<株式会社・有限会社の役員>

固定的賃金の変動があった月の前月分から変動後3か月分(合計4か月分)の所得税源泉徴収簿のコピー(報酬・給与明細書や報酬・賃金台帳のコピーも可)が必要です。

また、次のうちどれが1つのコピーも必要です。

・役員報酬の変更がわかる株主総会・役員会などの議事録

・代表者による報酬決定通知書

・役員間の報酬協議書

・役員報酬等債権放棄を証する書類

 

<その他の法人の役員>

株式会社・有限会社の役員の場合と内容が同一の書類を添付する必要があります。

法人の形式が異なることにより、書類の名称が異なっているのは問題ありません。

懲戒解雇 諭旨解雇 諭旨退職

2025/01/16|1,345文字

 

<懲戒解雇>

民間企業での懲戒は「制裁」を意味します。

労働基準法に「懲戒」という用語はありませんが、「制裁」が「懲戒」の意味で用いられています。〔労働基準法第89条第9号、第91条〕

解雇とは、使用者側から労働契約を解除することをいいます。

ですから懲戒解雇は、制裁としての労働契約解除ということになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒を有効に行うためには、就業規則に具体的な規定があること、弁明の機会を与えること、懲戒権の濫用とならないこと、労働基準法の制限内であることなど、多くの条件をクリアする必要があります。

解雇を有効に行うためには、解雇権の濫用とならないこと、労働基準法等が定める禁止規定に触れないことが必要です。

ですから、懲戒解雇を有効に行うには両方の要件を満たす必要があり、かなりバードルが高いことになります。

 

<懲戒解雇の効果>

懲戒解雇の場合には、雇用保険の失業手当(基本手当)について、7日間の待期期間に加えて2か月間の給付制限が設けられていますので、受給開始が遅れることになります。

また、所轄の労働基準監督署長の除外認定を受ければ、解雇予告手当の支払が不要です。

さらに、就業規則に「懲戒解雇の場合には退職金を不支給または減額する」などの規定があれば、退職金が全額は支払われないことになります。

もっとも裁判になれば、懲戒解雇の理由に鑑み、退職金を全く支給しないことが不合理であると判断されることは多いものです。

 

<諭旨解雇>

諭旨とは、趣旨や理由を諭し告げることをいいます。

ですから諭旨解雇は、使用者が労働者を諭し、趣旨や理由を告げて退職を促すことになります。

しかし諭旨解雇は法令に規定がありませんので、その内容も各企業の就業規則等によって異なっています。

多くの場合には、本来であれば懲戒解雇となるべきところ、本人に言って聞かせて反省を示していれば、自主的に退職願を提出してもらうことで、懲戒解雇扱いにはしないという内容です。

ほとんどの場合、自己都合退職となりますから、雇用保険の失業手当(基本手当)について、7日間の待期期間に加えて2か月間の給付制限が設けられていますので、受給開始が遅れることになります。

この場合、解雇ではありませんから解雇予告手当は支払われない一方で、退職金の減額は行われないのが一般です。

 

<諭旨解雇特有の問題>

「本来は懲戒解雇とすべきところを懲戒解雇扱いにはしない」というのが諭旨解雇ですから、そもそも「本来は懲戒解雇とすべきではなかった」ならば、前提が崩れてしまいます。

このことから、諭旨解雇を承諾して退職した労働者が、弁護士に相談し諭旨解雇を不服として会社を訴えるケースがあります。

会社としては、懲戒解雇の条件と手続をすべてクリアしたうえで、諭旨解雇に踏み切らなければリスクを負うことになります。

 

<諭旨退職>

諭旨退職も法律用語ではありませんので、各企業によってその意味は異なってきます。

諭旨解雇の意味で、諭旨退職という言葉が用いられている場合も多くあります。

また、退職勧奨の意味で用いられている場合もあります。

「会社や他の従業員に迷惑をかけてしまったし、あなたは信用を失ってしまったので、責任をとって退職しませんか」と話を持ちかけることになります。

入社にあたって提出する誓約書の効力

2025/01/15|873文字

 

<誓約書の提出義務>

誓約書とは、労働者が働くにあたって、企業に対して負う義務の内容を確認し、義務に違反しないことを誓約する書面です。

場合によっては、退職にあたって、企業に対して負う義務の内容を確認し、義務に違反しないことを誓約する書面のこともあります。

また、状況の変化に応じて、在職中に作成されることもあります。

万一義務違反があった場合には、一切の損害を賠償するという内容が含まれるのが一般です。

入社にあたって誓約書の提出を求めることは、長年にわたって広く一般化しています。

就業規則や労働条件通知書などに規定を置いて、誓約書の提出を採用条件としたり、採用後に誓約書を提出しないことを理由に採用取消としたりすることは、採用の時点でそのルールが知らされていれば違法ではありません。

ただし、採用の時点で説明が無かったにもかかわらず、採用後に誓約書の提出を求められた場合であれば、提出しないことを理由に解雇を通告するのは不当解雇になると解されます。

 

<誓約書の効力>

就業規則の一部を抜粋して順守を求める内容の誓約書であれば、元々守るべきことを再確認しているだけですから、ほとんど問題になることはないでしょう。

この場合は、誓約書を書かせることによって、労働者に心理的なプレッシャーを与えているだけのことです。

つまり、心理的効果しか期待できません。

 

よく問題となるのは、労働者が退職後に同業他社への就職をしない義務を定めた誓約書です。

大前提として、労働者には職業選択の自由があります。〔憲法第22条第1項〕

しかし、この自由は絶対無制約ではありません。

そして、競業避止義務の誓約は、合理性を欠き公序良俗に反するときだけ、無効とされます。〔民法第90条〕

 

実際の裁判では、次のような厳しい条件を満たす場合に限り、その誓約書は有効だとされています。

・その労働者が営業秘密に関わる業務に就きうること

・正当な目的によるものであること

・「同業他社」の範囲など制限の対象が妥当であること

・地域や期間が妥当に限定されていること

・特別な手当の支給など相当の代償が与えられること

パート、アルバイト、試用期間、外国人の社会保険加入について勘違いがありませんか?

2025/01/14|567文字

 

<契約形態と社会保険>

正社員、限定正社員、パート、アルバイト、嘱託社員、契約社員などの労働契約の形態は、勤務先の会社が独自の基準で区分しているに過ぎません。

一方で、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入基準は法令により定められ、各企業の社内基準によって左右されることはありません。

結論として、アルバイトなどであっても、法令による加入基準を満たせば、各企業の方針や個人の考えとは無関係に社会保険に加入することになり、企業は手続をする義務を負うことになります。

 

<試用期間と社会保険>

入社後、従業員としての適格性をみるため、一定の試用期間を設けることがあります。

この期間であっても、労働基準法はもちろん、健康保険法や厚生年金保険法の適用がありますから、試用期間の初日から社会保険への加入が義務付けられています。

なお、短期間の契約社員として採用し、その後に適性を判断して正社員に切り替えるような場合でも、最初の契約期間が実質的に見て試用期間に当たる場合には、採用日から社会保険に加入しなければなりません。

 

<外国人と社会保険>

在留資格で就労が認められている外国人は、国籍に関係なく社会保険に入ります。

これは、「日本人が日本の社会保険に入る」というのではなく、「日本に住んでいる人が日本の社会保険に入る」という考え方であることを意味します。

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