パートへの退職金支払義務

2024/02/19|1,477文字

 

<同一労働同一賃金>

働き方改革関連法の一環で、令和2(2020)年4月から同一労働同一賃金への対応が求められています。〔パートタイム・有期雇用労働法〕

なお、中小企業では1年遅れの令和3(2021)年4月の施行でした。

同一労働同一賃金は、退職金もその対象となります。

パート社員にも、正社員と同様の退職金を支給しなければならないということではなく、各企業で退職金を支給する趣旨との関連から、パート社員にも正社員と同じ基準で支給しなければならない場合、異なる基準で支給すれば良い場合、支給しなくても良い場合に分かれます。

いずれの場合でも、パート社員から正社員との処遇の違いの理由を問われたなら、会社は明確に説明する義務を負っています。

説得力をもって、きちんと説明できない場合には、訴訟トラブルに発展するリスクがありますから、具体的なQ&Aを作成するなど、十分な準備が必要となります。

 

<退職金を支給する理由>

退職金を支給する企業は、全体の約8割といわれます。

企業が退職金を支給する一般的な理由としては、賃金の後払い、退職後の生活保障、企業責任、企業慣習、手切れ金、独立資金、功労報償、成果配分など様々なことが言われています。

しかし、就業規則や退職金規程に退職金を支給する具体的な理由が明示されているのは、むしろ少数派ではないでしょうか。

企業の説明義務との関連から、退職金を支給する理由については、就業規則や退職金規程に規定しないまでも、明確にしておく必要はあります。

 

<同じ基準で支給すべき場合>

退職金の支給理由を、退職後の生活保障、独立資金、成果配分などとした場合には、正社員も非正規社員も、同じ基準で支給しなければならないように思われます。

正社員だけに退職金を支給している場合や、正社員と非正規社員とで退職金の支給基準を異にする場合には、合理的な納得のいく説明をするのが、難しいかも知れません。

 

<異なる基準で支給しても良い場合>

退職金の支給理由を、賃金の後払い、企業習慣、功労報償などとした場合には、正社員と非正規社員とで、異なる基準で支給しても良いように思われます。

しかしこの場合でも、退職金の支給基準が適正であることの説明は、難しいかも知れません。

 

<支給しなくても良い場合>

たとえば、正社員だけ退職金積立金が給与や賞与から控除されている場合などが想定されるのですが、非正規社員が希望した場合にも、退職金積立金の制度が適用されないことの合理的な説明は難しいでしょう。

訴訟トラブルとなった場合に、制度の合理性を説明するのは、かなり困難だと思われます。

少額でも、退職一時金などを支給するのが無難だと考えられます。

非正規社員だけに退職金が全く支給されないのであれば、裁判所は不合理であると判断しやすくなります。

しかし、少額でも支給されている場合には、裁判所が支給基準や支給額の差を不合理であると判断しにくいものです。

なぜなら、支給額の差がどこまで縮まれば合理的といえるかは、非常に難しい判断となるからです。

 

<過去からの習慣との断絶>

「昔からこれでやっている」では済まされなくなりました。

退職金については、支給の趣旨から問われるようになりましたし、退職金を支給する理由が不明確であれば、他の制度との整合性を保ちつつ明確にする必要があります。

何となくではなく、納得のいく説明が求められるようになりました。

「あなたはパートだから」というあやふやな説明が許されなくなったのです。

正社員と非正規社員の処遇の差について、根本から考え直す必要があるということです。

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