三六協定の勘違いポイント

2024/01/25|1,753文字

 

<残業制限と三六協定>

会社は従業員に、1日実働8時間を超えて働かせてはなりません。また、日曜日から土曜日までの1週間で、実働40時間を超えて働かせてはなりません。〔労働基準法第32条〕

この制限に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。〔労働基準法第119条〕

ですから、基本的にこの制限を超える残業は「違法残業」ということになります。

しかし会社は、労働組合や労働者の過半数を代表する者と書面による協定を交わし、これを労働基準監督署長に届け出た場合には、協定の定めに従って1日8時間を超え、また週40時間を超えて従業員に働かせても罰せられないのです。

このことが、労働基準法第36条に規定されているため、ここで必要とされる協定のことを三六協定と呼んでいます。

この三六協定は、社内で人事の仕事に関わらない人にも知られている有名な労使協定です。

ところが、人事部門の担当者でも思わぬ勘違いをしていることがあります。

 

<時間外労働の意味>

時間外労働については、一般に考えられている「残業」と、法律上の「時間外労働」が異なっている場合があるので注意が必要です。

一般に「残業」というと、会社で定めた「所定労働時間」を超えて労働した時間のことを指しています。

一方、法律上の「時間外労働」とは、上記の労働基準法第32条で定められた「法定労働時間」を超えて労働した時間のことをいいます。

三六協定にいう「時間外労働」も、法律上の「時間外労働」を指しています。

ですから、「所定労働時間」が「法定労働時間」よりも短い場合には、「所定労働時間」を超えて労働した「残業」の合計が、三六協定の上限を超えるように見えても、「法定労働時間」で計算すれば制限の範囲内ということがあります。

こうした勘違いが多いからでしょう、三六協定の新しい書式には「所定労働時間を超える時間数(任意)」という欄が設けられていて、注意を喚起しています。

 

<特別条項の適用対象>

臨時的な特別の事情の発生に備えて、三六協定に特別条項を設けることができます。

この場合、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を踏めば、限度時間を超えて労働させることができます。

しかし、これには年6回(6月)という回数制限があります。

この特別条項の適用や回数制限は、全社的にあるいは部署単位で行われることもありますが、本来的には個人ごとに行われるべきものです。

個人ごとの管理にすると、やや煩雑にはなりますが、時間外労働の幅が広がりますから、個人単位での管理をお勧めします。

 

<協定書と協定届の兼用>

就業規則であれば、これを所轄の労働基準監督署長に届け出る場合、就業規則とは別に「就業規則届」「意見書」が必要です。

しかし、三六協定の場合には「三六協定書」と「三六協定届」の両方を作成して手続を行うのではなく、「三六協定届」が「三六協定書」を兼ねています。

このことから、「三六協定届」では、協定の当事者である労働組合や労働者の過半数を代表する者の署名または記名・押印が必要とされるわけです。

 

<三六協定を守っていても>

かつては、三六協定の適正な届出をして、その内容を遵守していれば、労働基準監督署から行政指導を受けることはあっても、違法になることはありませんでした。

これは、残業時間について、法律による上限が定められていなかったためです。

ところが、働き方改革の一環で労働基準法が改正され、平成31(2019)年4月1日からは残業時間の上限が設けられました。

 

【労働基準法による残業の上限】

原則 = 月45時間かつ年360時間(1日あたり約2時間) 

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合であっても、

・年720時間以内

・休日労働の時間と合わせて複数月平均80時間以内

・休日労働の時間と合わせて月100時間未満

ただし、月45時間を超えられるのは年6回までという制限があります。

複数月平均80時間以内というのは、過去2か月、3か月、4か月、5か月、6か月のどの平均も80時間以内ということです。

 

三六協定の遵守とは別に、この労働基準法の基準も超えないように注意しなければ違法となってしまいます。

労働時間の管理を失敗しないよう、細心の注意を払わなければなりません。

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