2025/10/21|1,443文字
<よくある勘違いと正しい理解>
労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務や通勤が原因でガや病気をした場合に、医療や休業補償などを受けられる制度です。しかし、制度の理解不足から、現場では多くの誤解が生じています。ここでは、代表的な勘違いとその正しい理解を紹介します。
✕アルバイトやパートには労災保険が適用されない
これは誤解です。労災保険は、雇用形態に関係なく、原則すべての労働者に適用されます。正社員だけでなく、パート、アルバイト、外国人労働者も対象です。労災保険は「事業所単位」で適用されるため、その事業所で働いている限り、労働者は保護されます。
✕会社が労災保険に加入していないと給付が受けられない
事業主が加入手続を怠っていたとしても、労働者が業務・通勤が原因で被災した場合は給付対象となります。厚生労働省は、未加入事業所でも労働者の保護を優先し、給付を行います。その後、事業主に対して保険料の徴収や指導が行われます。
✕業務が原因の事故でも健康保険を使えばよい
業務や通勤が原因の傷病は、健康保険ではなく労災保険の対象です。健康保険を使ってしまうと、自己負担が発生するうえ、後から労災申請をする際に、一度健康保険の手続を取り消すなど、手続きが複雑になることがあります。事故が起きたら、まず労災であるかを確認し、労災指定医療機関で受診するのが原則です。
✕労災保険を使うと会社に迷惑がかかる
労災保険の利用は、労働者の権利であり、会社にとっても義務の一部です。制度上、労災の発生は報告義務があり、隠すことは「労災隠し」として行政指導や罰則の対象になります。会社に迷惑がかかるという理由で申請をためらう必要はありません。
✕通勤中の事故は労災にならない
通勤災害も労災保険の対象です。自宅から職場までの合理的な経路・方法での移動中に起きた事故は、原則として通勤災害と認定されます。ただし、寄り道や私的な用事による逸脱がある場合は、対象外となることがあります。
✕過失があると労災給付が減額される
労災保険では、労働者に過失があっても給付が減額されることはありません。たとえば、交通事故で労働者側に過失があっても、労災保険はその過失を問わず給付を行います。これは、労働者保護を最優先する制度設計によるものです。
✕慰謝料も労災保険で支払われる
労災保険では、慰謝料の支給はありません。慰謝料を請求する場合は、加害者やその保険会社に対して民事的に請求する必要があります。労災保険は、医療費や休業補償、障害・遺族給付などの「損害補償」に特化した制度です。
✕労災保険の申請は会社が行うしかない
原則として、労災保険の申請は事業主が行いますが、会社が対応しない場合は、労働者自身が労働基準監督署に直接申請することも可能です。申請には診断書や事故状況の説明などが必要ですが、監督署が丁寧に対応してくれます。
✕一人親方や業務委託は労災保険の対象外
一人親方や業務委託契約の人は、原則として労災保険の対象外です。ただし、「特別加入制度」により、一定の条件を満たせば労災保険に加入することができます。建設業などでは特別加入が広く利用されています。
<実務の視点から>
労災保険は、労働者の安全と生活を守るための重要な制度です。誤解や勘違いによって申請が遅れたり、補償を受けられなかったりすることのないよう、正しい知識を持つことが大切です。制度の理解を深め、必要なときに適切に活用することで、安心して働ける環境づくりにつながります。