2024/07/13|1,276文字
<試用期間>
試用期間については、最高裁判所が解約権留保付労働契約だと言ったために、何か特別な契約期間であるかのように思われがちです。〔昭和44年12月12日三菱樹脂事件判決〕
しかし、最高裁判所が試用期間について述べたのは、判決を下すのに必要があって述べたわけではなく、ついでに語っただけです。
試用期間であれば、本採用後よりも解雇のハードルが低くなる趣旨のことを述べていますが、具体的に、どの項目についてどの程度低くなるのかは語っていません。
結局、試用期間も本採用後も労働契約の期間であることに変わりはなく、両者の違いを明確に説明することはできません。
それでも、試用期間であれば、本採用後とは違った扱いができるという勘違いは、多くの企業に存在しています。
<社会保険の加入基準>
週所定労働時間が正社員(フルタイムで働く正規職員)の4分の3以上で、月間所定労働日数も4分の3以上であれば、社会保険の加入基準を満たします。(特定適用事業所を除きます)
会社によって、正社員の所定労働時間・日数は違いますから、この基準は会社ごとに違うわけです。
加入の手続を怠っていても、条件を満たすとともに加入したことになります。
そして、試用期間と本採用後とで加入基準の違いはありません。
基準を満たしている限り、試用期間の初日から社会保険に加入していることになります。
※特定適用事業所とは、同一事業主(法人の場合はマイナンバー制度の法人番号が同一)の社会保険適用事業所の被保険者数(社会保険加入者数)が、1年で6か月以上100人を超えることが見込まれる法人・個人の事業所のことをいいます。 令和6(2024)年10月からは、この基準が50人に引き下げられますし、将来的には、すべての事業所が現在の特定適用事業所となる予定です。
<年金事務所の指導>
算定基礎届提出時の調査の際には、試用期間中に社会保険の加入手続をせず、本採用時に手続をしている事業所に対して、試用期間の初日に遡って加入手続をするよう、年金事務所の職員の方から指導があります。
そして、判明している社員については、遡って手続をするための書類も作成して、代表印の捺印もさせています。
こうして不足する期間の保険料については、他の社員の保険料とまとめて支払うことになります。
「でも、試用期間は社会保険に入れたくないのですが」というお話に対して、年金事務所の職員の方は、「それでは、試用期間中は1日の勤務時間や1か月の勤務日数を少なくして、社会保険の加入基準を満たさないようにしてください。それしかありません」という明快な説明をしています。
<実務の視点から>
社会保険のルールは、基本的に全国統一でなければ不公平が発生してしまいます。
ですから、会社オリジナルのルールで運用というわけにはいきません。
そして、会社オリジナルのルールで運用したことによって、不利益が発生したことに気付いた退職者から申し出があれば、その損失を補てんすることになりかねません。
自社で行っていることに不安を感じたら、信頼できる社労士にご相談ください。