2025/06/11|1,259文字
<身元保証契約>
身元保証契約とは、企業が従業員を雇用する際に、第三者(通常は親族や知人)に対して「この従業員が不正や重大な過失を犯した場合には、一定の責任を負ってもらう」という内容の契約です。
これは、企業にとってはリスク管理の一環であり、特に現金や機密情報を扱う職種では重視されます。
この契約は、単なる「連絡先の確保」ではなく、金銭的な損害賠償責任を伴う法的契約であるため、保証人にとっては重大な法的義務を負うことになります。
<民法改正と極度額の義務化>
令和2(2020)年の民法改正(第465条の2)により、個人が保証人となる「根保証契約」については、極度額を明示しなければ契約は無効とされるようになりました。
これは、将来発生する可能性のある不特定多数の債務を保証する契約において、保証人が予測不能な巨額の責任を負うことを防ぐための措置です。
この改正は、身元保証契約にも適用されます。
つまり、企業が従業員に対して身元保証人を求める場合、その契約書には必ず「極度額(例:100万円まで)」を明記しなければなりません。
これが記載されていない場合、保証契約としての効力は認められず、企業は保証人に対して損害賠償を請求することができなくなります。
<極度額の設定と実務上の注意点>
極度額の設定にあたっては、以下のような点に留意する必要があります。
・金額の妥当性:極度額は、従業員の業務内容や企業のリスクに応じて合理的に設定されるべきです。過大な金額は、保証人の同意を得にくく、また裁判で無効とされる可能性もあります。
・契約期間の制限:身元保証契約の有効期間は原則3年、最長でも5年とされており、これを超える期間を定めても無効となります。
・通知義務:企業は、従業員に重大な異動や不正行為があった場合、速やかに保証人に通知する義務があります。これを怠ると、保証人の責任が軽減または免除される可能性があります。
<保証人のリスクと保護>
保証人は、従業員の行為によって企業に損害が生じた場合、その損害を極度額の範囲内で負担する義務を負います。ただし、以下のようなケースでは、保証責任が否定されることもあります。
・従業員の行為が故意または重大な過失によるものでない場合
・企業が従業員に対して適切な監督義務を果たしていなかった場合
・保証契約書に極度額の記載がない場合
このように、保証人の責任は無制限ではなく、法律によって一定の保護が図られています。
<実務の視点から>
身元保証契約は、企業にとってはリスク管理の手段であり、従業員にとっては信用の証でもあります。
しかし、保証人にとっては重大な法的責任を伴う契約であるため、極度額の明示をはじめとする法的要件を正しく理解し、慎重に対応することが求められます。
企業は、法改正に対応した適正な契約書を用意し、保証人に対しても十分な説明を行う必要があります。
保証人となる側も、契約内容をよく確認し、安易に署名することのないよう注意が必要です。