2023/05/29|970文字
<過労死認定のむずかしさ>
過労死の可能性が疑われる場合でも、次のような疑問が湧いてきます。
・本当に過労が原因で亡くなったのだろうか
・仕事ではなくプライベートに疲労の原因があったのではないか
・平均的な人ならば耐えられる労働なのに弱かったのではないか
ですから、過労死が疑われる労働時間の基準が全くないのでは、企業は対策に悩んでしまいます。
また、亡くなった人の遺族も過労死を主張できるか迷ってしまいます。
<残業時間の基準>
「1か月の残業時間が100時間を超えた場合、または、直近2~6か月の平均残業時間が80時間を超えた場合」という基準が、次のように多く用いられてきました。
・「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)
・「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付基発1226第1号厚生労働省労働基準局長通達)
・ハローワークで雇用保険給付手続きをした場合に自己都合退職ではなく会社都合退職として特定受給資格者となる基準
<労働時間の基準>
ここで「残業時間」というのは、法定労働時間である1日8時間、1週40時間を基準としています。
ですから、1か月30日で計算すると、
30日 ÷ 7日 = 4.28週
40時間 × 4.28週 = 171時間
これを超える時間が「残業時間」となります。
ということは、1か月271時間の労働時間(171時間+100時間)が過労死ラインとなります。
また、直近2~6か月で平均251時間の労働時間(171時間+80時間)も過労死ラインとなります。
<現在の時間外労働の上限規制>
上記の過労死ラインが基準として定着していたところ、母子家庭の母親が休日の出勤を繰り返すことにより過労死するという、痛ましい事件が発生したことをきっかけに、「1か月の残業時間が100時間を超えた場合、または、直近2~6か月の平均残業時間が80時間を超えた場合」という基準の「残業時間」に「休日出勤」が加えられて、現在では労働基準法での時間外労働の上限規制の基準となっています。
一見して分かりにくい時間外労働の上限規制基準は、医学的な見地からの基準に、裁判での基準が加味されたことによって、定められたものなのです。