2026/09/17|1,550文字
1.退職金は法律で義務付けられていない
労働基準法には「退職金を支払え」という条文はありません。
そのため、退職金制度を設けるかどうかは会社の自由です。
実際、厚生労働省の調査でも退職給付制度がある企業は約75%で、必ずしも全企業が導入しているわけではありません。
2.退職金制度を設けたら就業規則への記載が必須
退職金制度を設けた場合、労働基準法第89条は次の事項を就業規則に記載するよう義務付けています。
・退職金の対象となる労働者の範囲
・退職金の決定方法
・計算方法
・支払方法
・支払時期
これらは「相対的必要記載事項」と呼ばれ、制度を作った以上は必ず書かなければならない項目です。
3.就業規則に書かれた退職金は労働条件になる
就業規則に退職金制度を記載すると、その内容は労働契約の一部になります。
そのため、会社は原則として規定どおり支払う義務を負い、勝手に減額・廃止することはできません。
- 不利益変更の問題
退職金制度の廃止や減額は、従業員にとって重大な不利益です。
従業員の同意、変更の合理性(経営悪化など)がなければ、裁判で無効と判断されることがあります。
4.就業規則が退職金の「支給条件」を決める
退職金の支給条件は会社ごとに異なりますが、典型的には次のような内容が就業規則に書かれています。
①最低勤続年数
「勤続3年以上で支給」など。
多くの企業が自己都合退職の場合は勤続3年以上を条件にしています。
しかし、このような制限は年功序列の色合いが強いということで、厚生労働省は否定的な態度を示しています。
②退職理由による支給額の差
・定年退職→満額
・会社都合退職→満額
・自己都合退職→60〜80%程度に減額
など、退職理由によって係数を変えるのが一般的です。
③懲戒解雇時の減額・不支給
重大な背信行為がある場合は退職金を減額・不支給とする規定を設けることができます。
ただし、過去の功労をすべて否定するような「全額不支給」は裁判で無効となる例も多く、合理的な範囲での減額規定が必要です。
④勤続年数の数え方
・産休・育休期間を含めるか
・休職期間を含めるか
・非正社員から正社員になった場合の扱い
なども就業規則で明確にします。
5.退職金の計算方法も就業規則で決まる
退職金の計算方式は会社によって異なり、就業規則に明記されます。
代表的な方式は次の3つです。
・基本給連動型
退職時の基本給×支給率×退職事由係数
・ポイント制
勤続年数・役職・評価などをポイント化し、累計ポイント×単価
・定額制
勤続年数ごとに一定額を支給
どの方式を採用するかは会社の判断ですが、従業員にとっては就業規則が唯一の根拠になります。
6.支払時期も就業規則で決まる
退職金は通常の賃金とは異なるため、労働基準法第23条第1項の「退職後7日以内の支払」などの規定は対象外です。
就業規則で「退職後○か月以内に支払う」と定めていれば、その時期で問題ありません。
7.就業規則と退職金の“実務上の重要ポイント”
- 会社は原資の確保が必要
退職金は大きな支出となるため、社内積立や中退共など外部制度の利用が推奨されます。
また一度規定を置くと、不利益変更は制限されることから、将来にわたる十分なシミュレーションを経て定める必要があります。
- 就業規則の書き方がトラブル防止の鍵
退職金は従業員の期待が大きく、曖昧な規定は紛争の原因になります。
「誰に」「いくら」「いつ」「どのように」支払うかを明確に記載することが重要です。
8.就業規則に規定のない退職金の支払
就業規則上は退職金の支給対象とならないものの、特別な功労のあった退職者に対し退職金を支払うのは、違法なことではありません。
ただし、他の従業員との公平の観点から、支給対象とすることの客観的な理由や基準は、文書化して保存しておく必要があるでしょう。