2026/09/12|1,191文字
懲戒解雇を理由に、退職金を減額・不支給とすることは不可能とはいえませんが、極めて限定的に認められます。
厳格な要件を満たさない限り違法・無効と判断されるリスクが高いというのは明確です。
1懲戒解雇=退職金ゼロという運用はできない
裁判所は退職金について、賃金の後払い的性格、永年の勤続への報償という性質を重視しており、従業員は退職金を生活設計に組み込んでいるため、不支給にするには極めて高度な合理性が必要としています。
2退職金の不支給・減額が認められるための要件(2段階審査)
①懲戒解雇自体が有効であること
まず前提として、懲戒解雇が有効でなければ退職金の不支給・減額は成立しません。
要件は以下のとおりです。
・就業規則に懲戒事由・懲戒処分の定めがある
・弁明の機会付与など適正手続を踏んでいる
・解雇権濫用に当たらない
懲戒解雇が無効となれば、退職金不支給も当然に無効になります。
②退職金不支給・減額の固有要件
懲戒解雇が有効でも、退職金不支給・減額にはさらに厳しい基準があります。
・就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を減額・不支給とする」旨の明文規定がある
・永年の勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がある(裁判上確立した基準)
この「永年の勤続の功を抹消するほど」という基準は非常に厳しく、多くの裁判例で全額不支給は否定され、減額にとどまる傾向があります。
3裁判例に見る判断傾向(どこまで不支給が認められるか)
- 全額不支給が認められた例
・数千万円規模の横領(東京地裁:4000万円超の横領)
→企業秩序への重大な影響を理由に全額不支給が有効
・機密情報漏洩で企業の信用を著しく毀損した事案
→永年の功績を跡形もなく消し去る背信行為として不支給が認められた
- 減額にとどまった例
・痴漢行為(私生活上の犯罪)
→懲戒解雇は有効だが、退職金は7割減額にとどまる
・飲酒運転(業務外)
→社会的信用失墜を理由に5割減額
- 不支給が否定された例
・競業避止義務違反
→背信性はあるが「功を抹消するほど」ではないとして全額支給
4実務で特に注意すべきポイント
①「就業規則に書いてあるだけ」では有効とは限らない
退職金不支給条項があっても、行為の悪質性・企業への損害・勤続年数などの総合衡量が必須です。
②過去の適用実績が重要
初めて適用する場合、「場当たり的な判断ではない」ことを示す資料が必要とされます。
③懲戒解雇が無効でも減額が認められる場合がある
懲戒解雇が手続違反で無効でも、非違行為自体が認定されれば退職金の減額が認められる余地があります。
(懲戒解雇の有効性と退職金不支給の有効性は別)
④全額不支給は「極めてリスクが高い」
裁判所は退職金の生活保障性を重視するため、企業が全額不支給を主張して争うと、逆に多額の支給命令が出るリスクがあります。
そのため実務では、重大な非違行為でもあえて一部支給(減額)にとどめるという選択がとられます。