2026/08/10|1,228文字
社労士(社会保険労務士)には弁護士のような「企業側」「労働者側」という明確な区分はありません。
しかし、“企業寄り”“労働者寄り”という言い方がされることもあります。
1.弁護士と社労士の「立ち位置の違い」が区分の有無を左右する
弁護士は、企業側代理人、労働者側代理人として、裁判や労働審判などで「代理人」として活動します。
一方、社労士は法律上、裁判での代理権がありません。特定社労士に限り、個別労働紛争のあっせん・調停等の代理権が認められます。
このため、弁護士ほど明確に「企業側」「労働者側」と分かれる構造が生まれにくいのです。
2.社労士の業務構造は“企業支援”が中心
社労士法が定める独占業務は、労働・社会保険の手続、就業規則作成・変更、給与計算、労務管理の相談など、企業の労務管理を支援する業務が中心です。
このため、開業社労士の大多数は自然と「企業側の支援」を行う立場になります。
実際の傾向としては次の通りです。
・顧問契約のほとんどは企業が相手
・年金を除きほとんどの手続業務は企業向け
・労務管理相談も企業向け
・就業規則作成は企業の立場で行う
この構造が、社労士の世界では“企業寄り”という言葉が使われやすい理由です。
3.労働者側社労士は存在する
一方で、近年は次のような社労士が増えています。
・労働者の残業代請求を支援
・解雇・退職トラブルの相談に乗る
・労働者向けの労働法セミナーを実施
・社労士会ADRで労働者側代理人を務める
これらは「労働者側社労士」と呼ばれることがあります。
ただし、弁護士のように訴訟代理人となれるわけではないため、労働者側専門という明確な業務区分は成立しません。
4.実務的には「専門領域」で区分される
社労士の世界では、立場よりもむしろ専門領域で分類されます。
・企業向け労務管理型
就業規則、労務相談、労働社会保険手続、給与計算、ハラスメント対策など
・労働者向け労働相談型
残業代、解雇、労働条件の相談、ADR代理など
・年金専門型
障害年金、老齢年金、遺族年金の請求支援
・助成金専門型
雇用関係助成金の申請代行
・コンサル型
働き方改革、人事制度、評価制度、組織開発など
つまり、弁護士のような「対立軸」ではなく、どの領域を専門にしているかによって、実務の色が決まるのが社労士の特徴です。
5.企業の顧問社労士
企業の顧問として活動する社労士は、企業側に役立つ助言をすることになります。
・社労士は本来、中立的な専門家である
→労働者の権利保護も視野に入れた助言でなければ、企業側の役には立ちません。労働者あっての企業です。
・企業側に偏りすぎると、紛争時に不利な証拠が残る
→就業規則や指導記録は“第三者が見ても合理的”であることが重要
・労働者側の主張の定型パターンを理解しておくと企業支援を強化できる
→残業代、ハラスメント、メンタル不調、労働時間管理など
企業の顧問社労士であっても、労働者側の視点を理解しておかなければ、企業のリスクを事前に防ぐ予防法務ができません。