2026/08/11|1,471文字
会社で労働問題(残業代不払、ハラスメント、過重労働、解雇など)が発生した場合、取締役個人が責任を負う可能性は十分にあります。
ただし、その責任は「会社の責任」と「取締役個人の責任」が別々に判断されるため、どのような行為・怠慢があったかによって大きく変わります。
1.労働問題の一次的責任は「会社」にある
労働基準法違反やハラスメントなどが起きた場合、責任主体は基本的には会社(法人)です。
従業員との労働契約の当事者は会社であり、取締役個人ではないためです。
しかし、これで終わりではありません。
2.取締役個人が責任を負う場面は「会社法」と「民法」で発生する
取締役は会社の経営を監督する立場であり、労務管理もその一部です。
そのため、労働問題が発生した際に、取締役個人が責任を問われる可能性があります。
(1)会社法上の責任:善管注意義務違反(会社法第330条)
取締役には「会社のために注意深く職務を行う義務」があります。
これを怠ると、会社に対して損害賠償責任を負います。
例えば次のようなケースです。
・過重労働を放置し、従業員が精神疾患を発症
・ハラスメントを知りながら対策を取らなかった
・違法な長時間労働を黙認し、労基署から是正勧告・送検
・不当解雇を強行し、裁判で会社が多額の損害賠償を負担
これらは「取締役が適切な労務管理体制を構築しなかった」と評価され、
会社から取締役に対して損害賠償請求が可能になります。
(2)民法上の責任:第三者に対する不法行為責任(民法第709条)
取締役の行為が従業員に直接損害を与えた場合、従業員が取締役個人を相手に損害賠償を請求することも可能です。
典型例は次のとおりです。
・取締役自身がパワハラを行った
・不当解雇を取締役が主導した
・過重労働を放置する指示を出した
・労災隠しを指示した
この場合、会社の責任とは別に、取締役個人が「加害者」として責任を負います。
3.実務で特に問題になる「安全配慮義務」と取締役の責任
従業員の健康を守る義務(安全配慮義務)は会社にありますが、その義務を果たすための体制整備は取締役の職務です。
そのため、次のような場合は取締役の責任が強く問われます。
・長時間労働が常態化しているのに放置
・メンタル不調者が出ても対策を取らない
・ハラスメント相談窓口を設置しない
・労働時間管理の仕組みを整備しない
・違法な働かせ方を知りながら改善しない
裁判例でも、取締役の怠慢が「安全配慮義務違反を生じさせた原因」と認定されることがあります。
4.取締役が「刑事責任」を負う可能性もある
労働問題は民事だけでなく刑事事件になることがあります。
(1)労働基準法等違反
・過重労働
・長時間労働
・労働時間の虚偽記録
・労災隠し
・違法な解雇
会社だけでなく行為を指示した取締役個人が処罰される可能性があります。
(2)ハラスメントによる暴行・傷害・名誉毀損
取締役自身がハラスメントを行った場合、刑法犯として個人が処罰されることがあります。
5.実務で最も重要なポイント:取締役は「労務管理体制の構築責任」を負う
取締役が直接ハラスメントをしたり、違法な指示を出したりしなくても、労務管理体制を整備しなかったこと自体が責任追及の対象になります。
具体的には次のような体制整備が求められます。
・労働時間管理の仕組み
・ハラスメント防止規程・教育研修・有効な相談窓口の設置
・過重労働のチェック体制
・メンタルヘルス対策
・就業規則の整備
・労務リスクの定期的な監査
これらを怠ると、「取締役が経営管理を怠ったために労働問題が発生した」と評価され、個人責任が問われます。