副業・兼業禁止規定の意味

2026/08/09|1,784文字

 

会社が就業規則に「副業・兼業禁止規定」を置くことには、法的・労務管理上の複数の意味があります。

単に「副業をさせたくない」という感情的な理由ではなく、企業としてのリスク管理、労働時間管理、秘密保持、競業防止など、実務的な目的を果たすための土台として機能します。

 

1.副業・兼業禁止規定は「企業のリスク管理の起点」

副業・兼業は、働き方改革の流れで推奨される場面もありますが、企業にとっては次のようなリスクが常に存在します。

 

・情報漏洩・秘密保持違反のリスク

他社で働くことで、意図せず自社のノウハウや顧客情報が流出する可能性がある。

 

・競業行為のリスク

同業他社で働く、あるいは自ら同種事業を行うことで、会社の利益を害する可能性がある。

 

・労働時間管理の複雑化

副業先の労働時間も通算されるため、時間外労働の上限規制(年960時間など)を守れなくなる。

 

・健康管理・安全配慮義務の問題

過重労働による健康障害が発生した場合、主たる雇用主として責任追及される可能性がある。

 

・企業イメージの毀損

副業先の業務内容に社会的な問題がある場合、企業の信用に影響する。

 

副業禁止規定は、これらのリスクに対して「会社として一定のコントロールを行う意思がある」ことを明確にする役割を果たします。

 

2.副業禁止規定は「競業避止義務」を補強する

民法上、従業員には在職中の競業避止義務があると解されています。

しかし、これは裁判例上の一般原則であり、具体的な範囲や内容は就業規則で明確化しておくことが極めて重要です。

 

禁止規定があることで、次のようなことを明確にでき、後の紛争予防につながります。

・どのような副業が競業に該当するか

・どの程度の行為が会社の利益を害するか

・許可制にする場合の判断基準

ただし、ただ単に「禁止する」というだけの規定では、これらの効果がありません。

 

3.労働時間管理の観点から「会社の義務を果たすための防御線」

働き方改革関連法により、副業先の労働時間も通算して管理する義務が生じています。

しかし、実務上は次の問題があります。

・副業先の労働時間を正確に把握できない(実際は自己申告)

・従業員が申告しない場合、会社は違法状態に陥る可能性がある

・過重労働による健康障害が発生した場合、会社の安全配慮義務違反を問われる可能性がある

 

副業禁止規定を置くことで、会社は次のような主張が可能になります。

・「会社は副業を禁止しており、労働時間通算が困難な状況を避けるための措置を講じていた」

・「従業員が無断で副業を行ったため、会社は把握できなかった」

つまり、会社の法的責任を軽減するための防御線として機能するわけです。

 

4.「許可制」を採用するための前提としての禁止規定

近年は完全禁止ではなく、原則禁止・例外的に許可制という形が増えています。

この場合、禁止規定があることで、次のような効果があります。

・許可の判断基準を明確化できる

・競業や情報漏洩のリスクがある副業を排除できる

・労働時間管理が可能な副業のみ許可できる

・許可を取り消す根拠が明確になる

つまり、禁止規定は「許可制運用のための法的な土台」として不可欠です。

 

5.無断副業に対する懲戒の根拠になる

副業禁止規定がない場合、従業員が副業をしても「就業規則違反」とは言えません。

しかし、禁止規定があることで、次のような効果が生まれます。

・無断副業=就業規則違反

・情報漏洩や競業行為があれば懲戒処分の根拠が明確

・過重労働による業務パフォーマンス低下に対して指導しやすい

懲戒処分は厳格な要件が求められますが、禁止規定があることで「企業として合理的なルールを定めていた」と説明しやすくなります。

 

6.副業禁止規定を置くこと自体は違法ではない

厚生労働省は副業・兼業を推進していますが、企業が副業を禁止すること自体は違法ではありません。

裁判例でも、次のような場合には禁止が合理的とされています。

・競業行為の防止

・情報漏洩の防止

・過重労働による健康障害の防止

・労働時間管理が困難となることの防止

・公務員や特定業種のように法令で副業が制限されている場合

つまり、禁止規定は「企業が合理的な理由に基づきリスク管理を行っている」ことを示すものです。

 

働き方改革の流れの中で副業容認が広がっていますが、企業としては「禁止規定を置いたうえで、必要に応じて許可制で運用する」という形が最も合理的です。

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