2025/09/06|1,271文字
<療養専念義務とは?>
療養専念義務とは、休職中の従業員が、職場復帰を目指して病気やけがの治療に専念する義務を指します。これは就業規則や労使慣行に基づく企業秩序の一環として位置づけられ、法令上の明文規定はありませんが、企業の安全配慮義務や信頼関係の維持と密接に関係しています。
<法的背景と位置づけ>
労働契約法第3条では、労働者と使用者は信義誠実の原則に基づいて行動すべきとされており、療養専念義務はこの原則の具体化と解されます。
多くの企業の就業規則では「休職中は療養に専念すること」と明記されており、これが義務の根拠となります。
安全配慮義務との関係で、企業が従業員の健康を守る義務を果たすためには、従業員自身も療養に協力する必要があります。
<療養専念義務の内容>
療養専念義務の具体的な内容としては、医師の指示に従って治療を受ける、病状の悪化を招く行為を避ける、復職に向けたリハビリや生活習慣の改善に努めるなどがあります。
問題となる行動としては、長期旅行や過度な飲酒など、病状を悪化させる可能性のある行為、SNSでの頻繁な投稿や職場への不満の発信、職場の秩序を乱すような言動、同僚への過度な連絡などが考えられます。
ただし、趣味活動や外出が直ちに療養専念義務違反になるわけではありません。精神疾患などの場合、適度な活動が回復に資することもあるため、医学的な妥当性が重視されます。
<マガジンハウス事件(東京地裁 平成20年3月10日)>
うつ病で休職中の従業員が、オートバイで外出、ゲームセンター通い、飲酒、旅行などをしていた事案です。
会社は、療養専念義務違反として、懲戒解雇を主張しました。
しかし、裁判所は「精神疾患の性質上、日常生活の活動が療養に資する場合もある」として、解雇は無効と判断しました。
裁判所は、行動の医学的妥当性、つまり医師の診断や治療方針との整合性を重視します。
ただし、SNSでの不適切な発信など、職場秩序への影響がある場合には、懲戒処分が認められる可能性もあります。この場合には、就業規則の明確さと周知状況も判断材料となります。
<企業側の対応策>
トラブルを回避するため、企業側は次のような対応をしておく必要があります。
- 就業規則の整備
「休職中は療養に専念すること」「会社が必要と認める場合は医師の意見聴取を行う」などの規定を置き、趣味活動や外出の可否について、医学的判断を尊重する旨を記載しておきます。
- 休職者への適切なフォロー
定期的な連絡(過度な干渉は避ける)、主治医との連携(本人の同意がある場合)、復職支援プログラムの整備(リハビリ勤務など)のフォローを行います。
- 職場秩序の維持
SNS投稿などに関しては、職場秩序を乱す場合に限り注意喚起や指導を行います。
休職者だけでなく、他の従業員への配慮も忘れず、透明性のある対応を心がけます。
<実務の視点から>
療養専念義務は、企業と従業員の信頼関係を前提とした制度運用が求められます。過度な監視や一律の判断ではなく、個別事情に応じた柔軟かつ誠実な対応が、職場全体の健全性を保つ鍵となります。