2025/09/04|1,079文字
<自宅待機命令とは?>
自宅待機命令とは、会社が従業員に対して「一定期間、出社せず自宅で待機するよう命じる業務命令」です。これは懲戒処分ではなく、会社の指揮命令権に基づく措置とされます。
ただし、業務命令としての自宅待機が無制限に許されるわけではなく、正当な理由と相当な期間が必要です。
<許される場合(適法とされるケース)>
以下のような状況では、会社が従業員に自宅待機を命じることが適法と判断される可能性があります。ただし、このような場合でも、待機期間中の賃金支払義務が原則として発生することに注意が必要です(民法第536条第2項、労働基準法第26条)。
- 調査目的での一時的な待機
・セクハラ・パワハラ・横領などの非違行為が疑われる場合
・証拠隠滅や関係者への働きかけを防ぐため
・調査期間が合理的な範囲内であることが条件
- 安全確保のための待機
・火災・地震・感染症などにより職場が危険な状態にある場合
・従業員の安全を守るための一時的措置
- 業務上の必要性がある場合
・経営悪化により業務が一時的に存在しない
・退職予定者による情報持ち出し防止など
<許されない場合(違法とされるケース)>
以下のようなケースでは、自宅待機命令が違法と判断される可能性があります。
- 待機期間が不合理に長期化している
たとえば、東京地裁令和6年4月24日判決では、約4年半に及ぶ自宅待機命令が「社会通念上許容される範囲を逸脱」し、違法と判断されました。
従業員が復職を希望しているにもかかわらず、会社が復職調整を怠った点が重視されました。
- 実質的に退職強要の手段として用いられている
・復職先を提示せず、退職勧奨を繰り返す
・待機命令の目的が業務上の必要ではなく、従業員排除にある場合
- 待機命令に合理的な理由がない
・調査目的と称しながら、実際には調査を行っていない
・従業員の就労によって会社に損害が生じる具体的な根拠がない
<会社側の対応ポイント>
・自宅待機命令の目的・理由・期間を明確に説明する
・復職の可能性や配置転換の検討を継続的に行う
・待機期間中の賃金支払いを原則とし、例外は慎重に判断
・就業規則に自宅待機の根拠規定を設けておく
<従業員側の対応ポイント>
・復職の意思を明確に伝える
・待機命令の目的や期間に疑問がある場合は記録を残す
・労働組合や弁護士への相談も選択肢
<実務の視点から>
長期の自宅待機命令は、企業秩序の維持に必要な場合もありますが、その運用を誤ると違法性を問われ、損害賠償責任を負うリスクがあります。企業としては、待機命令を「一時的措置」と位置づけ、誠実な対応と記録の蓄積を徹底することが求められます。