2025/10/01|1,392文字
労働基準法第32条は、労働時間の基本的な枠組みを定めた重要な規定です。この条文では、「使用者は労働者に、休憩時間を除き、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させてはならない」と定められています。では、この「労働時間」とは具体的にどのような時間を指すのでしょうか。特に、「使用者の指揮命令下にある時間に限られるのか」という点について、具体的に見ていきましょう。
<労働時間の定義(判例と通達)>
労働基準法上の「労働時間」とは、単に労働者が会社にいる時間ではなく、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。これは、最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件、平成12年3月9日判決)などで確立された考え方です。
つまり、労働者が自らの意思で職場にいる時間や、業務と無関係な活動をしている時間は、原則として労働時間には含まれません。逆に、たとえ実際に作業をしていなくても、使用者の指示により待機している時間や、業務開始の準備をしている時間などは、労働時間に該当する可能性があります。
休日に猛暑の中、会社の近所で買物を済ませ、会社に立ち寄ってしばらく涼んでいたところ、使用者から業務を手伝うことを打診され、これに快く応じたという場合、その時点から労働時間となります。
<労働時間に該当する具体例>
以下は、裁判所の判断によれば、使用者の指揮命令下にあると判断されやすい時間の例です。
・始業前の準備作業(制服の着替え、機械の点検など)が業務命令として行われている場合
・業務終了後の報告書作成や片付けが義務づけられている場合
・休憩時間中の電話番や来客対応など、業務に従事している場合
・出張先での移動時間が業務の一環として指示されている場合
・研修や会議への参加が業務命令である場合
これらは、実際に作業しているか否かにかかわらず、使用者の指揮命令下にあると認定されれば労働時間に該当します。
<労働時間に該当しない具体例>
一方で、以下のような時間は、裁判所の判断によれば、原則として労働時間には含まれません。
・労働者が自主的に早く出勤している時間(業務命令がない場合)
・自由参加の社内イベントや懇親会
・自主的な勉強会や資格取得のための学習時間
・休憩時間中に完全に業務から解放されている時間
ただし、これらも実態によっては労働時間と認定される可能性があるため、形式だけで判断するのは危険です。
<形式より実態重視>
労働時間の認定においては、「形式」よりも「実態」が重視されます。たとえば、休憩時間とされていても、実際には業務対応を強いられている場合は労働時間と認定される可能性があります。
また、使用者が「自由参加」としている研修でも、実質的に参加を強制していたり、参加しないことで不利益があったりする場合は、労働時間とみなされることがあります。
<結論:使用者の指揮命令下にある時間が原則>
労働基準法第32条における「労働時間」は、原則として「使用者の指揮命令下にある時間」に限られます。これは、労働者が業務に従事しているか否かではなく、使用者の管理下にあるかどうかで判断されます。
そのため、企業側は労働時間の管理において、単にタイムカードの打刻時間だけでなく、業務の実態を踏まえて判断する必要があります。労働者側も、自身がどのような状況で業務に従事しているかを把握し、必要に応じて記録を残すことが重要です。