2025/09/30|1,446文字
<介護休業中の配置転換>
介護休業とは、家族の介護を理由に一定期間、労働者が業務を離れる制度です。休業中は原則として業務に従事しないため、会社がこの期間に人事異動(特に配置転換)を行うことには慎重な判断が求められます。
「配置転換」とは、同じ事業所内で職務内容を変更することを指しますが、場合によっては勤務地変更(転勤)を伴うこともあります。
<法的背景と企業の義務>
育児・介護休業法第26条は「事業主は、労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴う場合において、その変更により介護の継続が困難となる労働者がいるときは、その状況に配慮しなければならない」と規定しています。
この条文は、介護を担う労働者の生活への影響を考慮し、企業に「配慮義務」を課しています。つまり、業務上の必要性があっても、介護との両立が困難になるような配置転換は、原則として避けるべきです。
これによって、次のような点が問題となります。
- 介護との両立困難
配置転換によって勤務時間や勤務地が変わると、介護のスケジュールが崩れ、家族のケアが継続できなくなる可能性があります。特に、通院・訪問介護・デイサービスなどの時間調整が困難になるケースが多いです。
- 本人の意思確認不足
休業中に本人と十分なコミュニケーションを取らずに配置転換を決定すると、「不意打ち」や「不利益変更」と受け取られ、トラブルの原因になります。
- 権利濫用のリスク
業務上の必要性が乏しい配置転換や、介護を理由に不利益な部署へ異動させるような対応は、「人事権の濫用」として違法と判断される可能性があります。
- 復職後の不利益感
休業明けに、従前の業務と異なる職務に就かされると、本人が「介護を理由にキャリアを損なった」と感じることがあります。これは職場の信頼関係を損ね、離職につながることにもなります。
<実務上の対応ポイント>
企業が介護休業中の配置転換を検討する際は、次の点に留意する必要があります。
- 業務上の必要性の明確化
配置転換が避けられない場合は、その業務上の必要性を文書で明確にしておくことが重要です。
- 本人の意向確認
休業中でも、電話・メール・書面などで本人の意向を確認し、可能な限り希望を尊重する姿勢が求められます。
- 介護状況の把握
介護の内容(要介護度、支援体制、通院頻度など)を把握し、配置転換が介護に与える影響を評価する必要があります。
- 配慮の記録化
配慮した内容(面談記録、意向確認、代替案の提示など)を記録に残すことで、後のトラブル防止につながります。
<裁判所の視点:東亜ペイント事件(最高裁 昭和61年)>
この判例では、育児・介護を抱える社員に対する転勤命令が争点となりました。最高裁は次のように判断しています。
・業務上の必要性がない転勤命令は無効
・不当な動機・目的による命令は無効
・労働者に著しい不利益を与える場合も無効
この判断は、配置転換にも準用されると考えられており、介護休業中の異動命令が「通常甘受すべき程度を超える不利益」である場合、違法とされる可能性があります。
<実務の視点から>
介護休業中の配置転換は、業務運営上の必要性と、労働者の生活事情とのバランスを慎重に取る必要があります。次のような対応が望まれます。
・配置転換の必要性を客観的に説明できるようにする
・介護状況を把握し、本人の意向を尊重する
・配慮義務を果たしたことを記録に残す
・復職後の業務内容やキャリアへの影響を最小限にする
企業の対応次第で、介護と仕事の両立支援が実現でき、職場の信頼関係も維持されます。