2025/10/15|1,244文字
会社が退職者に対して聞き取り調査を実施する際には、目的の明確化と個人の尊重を前提に、法的・倫理的・心理的な観点から慎重な配慮が求められます。
<調査の目的と位置づけの明確化>
職場環境の改善、離職原因の把握、再発防止策の検討など、具体的な目的を退職者に明確に伝えることで、安心感と協力意欲を高めます。
また、調査は強制ではなく任意であることを明示し、回答しないことによる不利益がないことを保証します。
さらに、調査結果が退職手続などに影響しないことを明確にすることで、率直な意見を引き出しやすくなります。
<プライバシーと個人情報保護への配慮>
可能であれば匿名での回答を認める、または個人が特定されない形で集計・分析する工夫が必要です。
また、個人情報保護法に基づき、収集した情報は目的外利用せず、適切に管理・廃棄することが求められます。
さらに、調査結果を他部署や外部に提供する場合は、本人の同意を得るか、個人が特定されない形で行う必要があります。
<退職者の心理的負担への配慮>
退職後すぐではなく、本人の心情が落ち着いた時期に実施することで、冷静かつ建設的な意見を得やすくなります。
また、信頼できる第三者的立場の担当者を聞き手にすることで、安心して話せる環境を整えます。
さらに、退職理由が不満や葛藤に基づく場合、否定せず共感的に受け止める姿勢が重要です。
<調査手法と質問内容の工夫>
定量的な傾向を把握するための選択式質問と、個別の事情を深掘りする自由回答の質問を組み合わせると効果的です。
また、個人の価値観やプライベートに踏み込みすぎる質問は避け、業務や職場環境に関する内容に絞るのが望ましいです。
さらに、単なる不満の聴取にとどまらず、「こうすれば良くなると思う」といった建設的な意見を引き出す設問を設けると、組織改善に役立ちます。
<結果の活用とフィードバック>
集計・分析した結果は、必要に応じて経営層や関係部署に共有し、改善策の立案に活かします。
また、可能であれば、調査結果をもとにどのような改善が行われたかを退職者に報告することで、誠実な姿勢を示せます。
さらに、退職者調査は単発で終わらせず、継続的に実施・改善することで、職場の健全性向上につながります。
<法的・制度的な留意点>
調査の中でパワハラ・セクハラ等の申告があった場合は、企業として適切な対応義務が生じます。放置は法的リスクにつながります。
また、退職後の調査は、労働契約が終了しているため、企業側の立場や言動に注意が必要です。強制的な呼び出しや圧力は避けるべきです。
組合員に対する調査を行う場合は、労働組合との事前協議が望ましいケースもあります。
<実務の視点から>
退職者への聞き取り調査は、企業にとって貴重な改善のヒントを得る機会ですが、退職者の尊厳と権利を尊重しながら実施することが不可欠です。調査の目的を明確にし、任意性・匿名性・心理的安全性を確保したうえで、得られた声を真摯に受け止め、組織の健全な成長につなげる姿勢が求められます。