2025/10/16|1,312文字
企業における健康診断の実施義務は、労働安全衛生法に基づき、労働者の健康を守るために定められた重要な制度です。その概要、対象者、種類、実施頻度、企業の責任、違反時の対応などを解説します。
<健康診断の法定>
企業は、労働者の健康状態を把握し、疾病の予防や早期発見を目的として、一定の健康診断を定期的に実施する義務があります。これは、労働安全衛生法第66条に規定されており、企業が労働者の健康管理に責任を持つことを法的に求めています。
<対象となる労働者>
健康診断の対象は、原則としてすべての「常時使用する労働者」です。具体的には次のような人が含まれます。
・正社員
・契約社員・パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上の場合)
・派遣労働者(派遣元が実施義務を負う)
※アルバイトや短時間勤務者でも、勤務状況によっては対象になることがあります。
<健康診断の種類と内容>
企業が実施すべき健康診断には、主に以下の種類があります。
これらを怠ると、業務の健康状態への影響の有無・程度が立証できません。
- 雇入時健康診断(労働安全衛生規則第43条)
対象:新たに雇用する労働者
実施時期:雇用時
内容:身長・体重・視力・聴力・血圧・尿検査・胸部X線・医師の診察など
- 定期健康診断(規則第44条)
対象:常時使用する労働者
実施頻度:1年以内ごとに1回
内容:雇入時とほぼ同様。35歳以上は血液検査など項目が追加される。
- 特殊健康診断(規則第45条)
対象:有害業務に従事する労働者(例:有機溶剤、鉛、騒音など)
実施頻度:業務内容に応じて6か月ごとなど
内容:対象物質に応じた専門的検査
- 深夜業従事者の健康診断(規則第48条)
対象:深夜業(午後10時〜午前5時)に従事する労働者
実施頻度:6か月ごと
内容:定期健康診断に準じた項目
<実施方法と費用負担>
健康診断は、企業が手配し、費用も企業が負担するのが原則です。
実施は社内の産業医や外部の医療機関に委託するのが一般的です。
労働者は診断を拒否することはできませんが、個人の事情に配慮する必要があります。
<結果の通知と事後措置>
企業は、健康診断の結果を労働者本人に通知する義務があります。
異常所見がある場合は、医師の意見を聴取し、必要に応じて配置転換や労働時間の短縮などの措置を講じる必要があります(法第66条の4)。
健康診断結果は5年間保管する義務があります。しかし、障害年金の請求に必要な初診日の確定に役立つこともありますから、5年間を超えての保管も無意味ではありません。
<実施しない場合の罰則>
企業が健康診断を実施しない場合、以下のような行政指導や罰則が科される可能性があります。
労働基準監督署による是正勧告、改善命令
罰則:50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条)
※生命や健康に関わるため、労働基準法の罰金より重いのです。
<実務の視点から>
企業の健康診断実施義務は、単なる形式的な検査ではなく、労働者の健康を守り、安心して働ける職場づくりの基盤です。法令に基づいた適切な実施と、結果に応じた柔軟な対応が求められます。企業にとっては、労働者の健康維持が生産性や職場の活力にも直結する重要な取り組みです。