企業に健康診断の実施が義務づけられているのって不思議ではないですか?義務がないとどうなるのでしょう?

2024/03/27|1,319文字

 

<健康診断実施義務の不満>

企業には、従業員の健康診断実施義務が課されています。

基本は、雇入れ時と年1回の定期健康診断ですが、1人1回につき50万円以下の罰金という罰則もありますし、個人情報である個人別結果票の保管期間も5年間ということになっていますから、大きな負担となっています。

企業の義務を受けて、従業員も健康診断の受診義務を負わされています。身体的・精神的な負担がありますし、会社にセンシティブな個人情報を提供することにも不安があります。

そもそも健康管理は、個人の責任ではないかという不満があります。

 

<法的な根拠>

健康診断の実施義務は、労働安全衛生法に規定されています。

この法律の目的については、「労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする」とされています。〔労働安全衛生法第1条〕

健康診断に関連する部分だけを抜き出せば、「労働基準法と相まって労働者の健康を確保する」ということになります。

一方で労働基準法は、労働条件の原則として「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」としています。〔労働基準法第1条第1項〕

ここでいう「人たるに値する生活を営むための必要」というのは、憲法の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権の保障を受けてのことです。〔日本国憲法第25条第1項〕

結局、健康診断の実施義務は、生存権の保障に基づくと一応はいえるでしょう。

 

<企業に負担させる理由>

企業で働いていない人の健康診断については、市町村が無料で実施していたりします。

このことを考えると、なぜ企業で働いている人の健康診断について、勤務先の負担が生じるのかという疑問が湧いてきます。

そこで、企業に健康診断の実施義務がないものと仮定してみます。

この前提で、ある人が入社の3年後、勤務中に心臓発作で倒れ、救急車で病院に運ばれ、検査の結果、ひどい高血圧であったことが判明したとします。

こうしたとき会社が、その家族から「倒れるまで働かせるとはひどい!責任をとれ!」と言われたらどのように反論するのでしょうか。

健康障害を生ずるような業務ではなかったと証明するのは困難です。

もし、入社のときに健康診断を実施していて、高血圧が確認され、医師から生活指導と治療の開始が指示されていて、その記録が残っていたとしたらどうでしょう。

定期健康診断でも、本人が生活指導に従わず、治療もしていなかった場合には、会社の責任は大幅に軽減されます。

こうしたケースを考えてみると、たとえ健康診断が会社の義務ではなかったとしても、雇入れ時の健康診断や定期健康診断は、会社を守るのに有効だといえます。

もちろん、従業員の生命を守ることにもなります。

つまり、労働安全衛生法は企業に健康診断の実施義務を課すことで、従業員だけではなく、企業のことも守っているという側面があることが分かるでしょう。

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