所定労働時間と実労働時間との正しい使い分け

2024/12/24|1,062文字

 

<所定労働時間>

所定労働時間は、労働基準法に定められた法定労働時間の範囲内で、使用者と労働者とが労働条件について合意して、労働契約を交わすことによって決まります。

所定労働時間は、使用者から労働者に対して、労働条件通知書や雇用契約書などによって明示されます。

 

<実労働時間>

実労働時間は、実際に働いた時間であり、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を差し引いた時間です。この実労働時間が、賃金支払の対象となります。

求人情報などでは、「拘束9時間、実働8時間」などの表示が見られます。「拘束」は始業時刻から終業時刻までの時間、「実働」は拘束時間から休憩時間を除いたもので、所定労働時間のことを指しています。

 

<社会保険や雇用保険の加入基準>

社会保険の加入基準には、原則として所定労働時間が用いられます。ただし、実労働時間が2か月連続で加入基準を超えた場合には、3か月目の初日から社会保険に加入することとなっています。

雇用保険の加入基準も、所定労働時間なのですが、実労働時間が加入基準を超えている場合についての加入については規定がありません。雇用契約の内容と勤務の実態が長期に渡りかけ離れていると、労働者が雇用保険に入れないという不合理が生じてしまいます。

人事部門で給与計算を担当している場合、実労働時間が所定労働時間を超えていることが続いている労働者がいれば、実態に合わせて労働契約の内容を見直し、労働条件通知書や雇用契約書の交付をやり直すでしょう。

この点、給与計算を外注に出している場合には、こうしたチェックも業務委託契約の内容に含めておく必要があります。

 

<給与計算の基準>

賃金の支払対象は、あくまでも実労働時間です。

かつては店舗などで、開店時刻を始業時刻としながらも、開店時刻前の準備をさせておきながら、所定労働時間だけの賃金しか支払わないということが行われていました。

これは、閉店時刻後に残っているお客様の接客や閉店作業についても行われていたことで、いずれも明らかな不払残業であり、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に反します。

こうしたことについて、労働者側から使用者側に抗議をしても、雇用契約の所定労働時間通りに正しく賃金を支払っているという説明をして逃げていました。もっとも、こうした使用者は、労働条件通知書の交付義務を怠っていることもあり、労働者が不払賃金を正しく計算することもできないまま、職場を離れていく実態がありました。

このような所定労働時間と実労働時間との混同による違法行為は、防がなければなりません。

法令や裁判で「合理的」と認められるための条件

2024/12/23|975文字

 

<法令に出てくる「合理的」>

労働契約法には「合理的な」という言葉が7回出てきます。〔1条、7条、10条、15条、16条、19条本文、192号〕

しかし、ここでいう「合理的な」という言葉がどういう意味なのかは、労働契約法の中に説明がありません。

障害者基本法第4条には、「合理的な配慮」という言葉が使われていて、その具体例については議論が活発です。

しかし、そもそも「合理的な配慮」という言葉の意味については、統一されていないように思われます。

法令や裁判に出てくる基本的な用語の意味が確定していないと、私たちが具体的な事実に当てはめて考えることがむずかしくなってしまいます。

 

<辞書の説明>

「合理的」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。

 

大辞林 第三版

論理にかなっているさま。因習や迷信にとらわれないさま。

目的に合っていて無駄のないさま。

 

デジタル大辞泉

道理や論理にかなっているさま。

むだなく能率的であるさま。

 

辞書ですから、様々な場所で使われている「合理的」に共通する意味を表示しているのでしょう。

法令や裁判に出てくる「合理的」の意味にぴったり当てはまるようには思えません。

 

<たとえば解雇について>

労働契約法は、解雇について次のように定めています。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

とても抽象的な表現です。

ですから、具体的に使用者が労働者を解雇しようとしたときに、それがこの規定に触れて無効になってしまうのか、それとも有効になるのかを判断するのは困難です。

使用者自身の判断で解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎますから、専門家である社会保険労務士などに具体的な事情を話して判断を求めるのが安全です。

 

そして、この労働契約法第16条の「合理的な理由」というのは、一般的には「労働契約法の趣旨や目的に適合する理由」ということになります。

労働契約法の目的は他の多くの法令と同じように、第1条に書かれています。

これと他の条文全体の趣旨から、「合理的な理由」の意味が確定されるわけです。

もっとも、関連条文に判断の手がかりがある場合には、こちらの根拠が有力となりますので、具体的な事情に応じた判断が必要であれば、専門家に相談することをお勧めします。

労働者の過半数を代表する者の選出を巡る勘違いで労働基準監督署に申告

2024/12/22|1,314文字

 

<過半数代表者>

就業規則の新規作成・変更の所轄労働基準監督署長への届出や、「時間外労働・休日労働に関する協定(三六協定)」など労使協定を締結する際に、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出し、労働者側の当事者とする必要があります。

 

<民主的方法による選出>

過半数代表者の選出手続は、投票、挙手の他に、労働者の話し合いや持ち回り決議などでも構いませんが、労働者の過半数がその人の選任を支持していることが明確になる民主的な手続がとられていることが必要です。

また、選出に当たっては、パートやアルバイトなどを含めたすべての労働者が手続に参加できるようにします。

会社の代表者が特定の労働者を指名したり、候補者を数名指定してその中から選出したりするなど、使用者の意向によって過半数代表者が選出されたと疑われる場合、その過半数代表者選出は無効です。

社員親睦会の幹事などを自動的に過半数代表者にした場合や、社内で特定の立場にある人が自動的に過半数代表者になるというのでは、その人は「選出」されたわけではありませんので、過半数代表者の選出にはなりません。

過半数代表者の選出手続は、それ自体を独立させて行う必要があります。

これらの点に配慮した選出が行われたことの証拠となる資料は、意識的に作成して保管しておくことを強くお勧めします。

 

<過半数代表者となることができる労働者>

過半数代表者は、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないことが必要です。

管理監督者とは、一般的には部長、工場長など、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人を指します。

しかし、この基準を誤って解釈している会社が多いのが実態です。

過半数代表者の選出に当たっては、役職者は避けた方がよいでしょう。

 

<過半数代表者の任期>

過半数代表者の任期は法定されていませんので、就業規則の届出や三六協定の締結をする時点で、すでに選出されていれば、その人が引き続き過半数代表者となります。

しかし、異動によってその事業場を離れたり、退職したり、あるいは管理監督者となっていれば、改めて過半数代表者を選出する必要があります。

 

<社員の抱く疑問>

就業規則変更届や三六協定などの労使協定の控えは、就業規則とともに周知されていることでしょう。

これらに署名している過半数代表者がベテラン社員であって、数年前に選出されていた場合には、社歴の浅い社員から見て、選出が行われた記憶がなくても当然です。

しかしこのことから、過半数代表者が民主的に選出されたのではなく、会社から指名されたのではないかと疑うこともあります。実際に、労働基準監督署に相談するケースもあります。

 

<トラブル防止のために>

このようなことで、トラブルになってしまうのは避けなければなりません。

これは、就業規則変更届や三六協定などの労使協定の控えの過半数代表者署名欄に「〇年〇月〇日挙手による投票で選出」などと付記しておくことで、簡単に対応できます。

また手間はかかりますが、届出などの都度、過半数代表者を選出することによっても、トラブルを防ぐことができます。

私的年金は公的年金の上乗せの給付を保障するものとされます

2024/12/21|1,404文字

 

<公的年金制度>

日本の公的年金制度は、国民年金(基礎年金)と厚生年金保険の2階建て構造です。

国民年金は、原則として20歳以上60歳未満の国内居住のすべての方に加入義務があります。年金加入者(被保険者)は1号・2号・3号の3つに区分されています。1号は自営業・学生の方など、2号は会社員・公務員の方、3号は2号被保険者に扶養されている配偶者です。

国民年金の上乗せとして、会社員・公務員の方が加入する厚生年金保険があります。なお、公的年金には老後の生活保障だけでなく、「障害年金」や「遺族年金」といった保障もあります。

公的年金の年金額は、賃金・物価の変動率に応じて年度ごとに改定されることになっています。平成16年の法改正により、現在は現役世代の人口の減少などを考慮して、物価等の上昇率から公的年金加入者数の減少率などを差し引いた率で、年金額が改定されることになっています。

 

<私的年金>

私的年金は、公的年金の上乗せの給付を保障するものとされます。国民年金基金、確定拠出年金、確定給付企業年金、民間の保険会社などが販売している個人年金保険があります。

このうち、確定拠出年金は運用益次第で給付額の変動がありますが、国民年金基金、確定給付企業年金は基本的に変動がありません。個人年金保険は、契約内容により、給付額が固定的なものから、大きく変動するものまであります。

私的年金は、高齢期により豊かな生活を送るための制度として重要な役割を果たしています。企業や個人は、多様な制度の中からニーズに合った制度を選択することができます。

 

<加入義務>

公的年金は国民皆年金の制度ですから、基本的には国民の全員が国民年金に加入(被保険者資格を取得)し、一定の要件を満たせば厚生年金保険に加入しますので、公的年金から自主的に脱退(被保険者資格を喪失)するということはできません。

これに対して、個人年金などの私的年金は、一定の要件を満たせば自動的に加入ということはなく、老後のご家族の生活などを想定して、個人的な判断で加入することになります。

 

<年金受給額を増やすには>

働いて厚生年金に加入し続けていれば、70歳までは、加入期間が延びることによって年金額も増えます。また、働いて収入がある期間だけ年金の繰下げをすることも考えられます。

経済的な理由で、国民年金保険料の全部または一部の免除を受けた期間がある方は、その内容に応じて年金額が減額されます。この場合、10年以内に追納すれば、追納した保険料が年金額に反映され受給額が増えることになります。

また、老齢基礎年金が満額でない場合など、60代前半で厚生年金に加入していなければ、国民年金に任意加入して、満額となるまで受給額を増額することができます。

さらに、個人年金を含め、私的年金に加入することも考えられます。

 

<保険料を減らすには>

厚生年金保険の保険料は、給与や賞与の額に応じて法定されていて、減額や免除の仕組みもありません。保険料を減らすことを考えるのであれば、私的年金の方で調整することになります。

これは現在の生活を取るか、将来の生活を取るか、万一の場合の補償をどうするかという、個人的な判断に従うことになります。

 

公的年金だけで、老後におけるご家族の生活費を賄うのは難しいかもしれません。そのために私的年金等で公的年金の不足分を計画的に準備しておけば、老後の生活費も安心ではないでしょうか。

社会保険労務士との契約内容についての疑問

2024/12/20|1,360文字

 

Q:社会保険労務士の業務について統一された料金表はあるのか?

A:自由競争の原理を尊重するために、現在は公式の料金表がありません。

それぞれの社会保険労務士事務所ごとに、自由に報酬が設定されています。

自社がよく利用するサービスの質が高くて割安な事務所と契約することをお勧めします。

 

Q:社会保険労務士の業務の範囲は?

A:基本的には、社会保険労務士法に定められた業務のすべてと、これに付帯する業務が社会保険労務士事務所の業務の範囲となります。

しかし、一部の業務に特化した社労士事務所もあります。

具体的な業務範囲は、顧問契約書などで事前に確認することをお勧めします。

 

Q:社会保険労務士の顧問契約とは?

A:多くの顧問契約は、相談・指導・提案などの委任契約と給与計算・社会保険手続・労働保険手続などの請負契約が一体となっています。

定額の顧問料で、どこまでの業務を依頼できるのか、何を依頼したら追加料金が発生するのかは、契約前にきちんと把握しておく必要があります。

契約内容については、遠慮せず納得がいくまでご確認することをお勧めします。

 

Q:社会保険労務士の委任契約とは?

A:相談・指導・提案など、社会保険労務士の専門知識や実務経験により、ベストを尽くす形で提供するサービス業務です。

これは、社会保険労務士(事務所)の能力が反映されやすい業務です。

社会保険労務士(事務所)の得意分野と自社のニーズとが合致するのが望ましいといえます。

 

Q:社会保険労務士の請負業務とは?

A:給与計算、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の手続のように、文書などで形の残る業務が中心です。

基本的には、どの社会保険労務士が行っても、計算結果や給付金額には差が出ないものです。

しかし、説明のわかりやすさやアフターフォローなどの面で差が出てきます。

また、就業規則の作成・変更、人事考課制度の構築・運用など、それぞれの会社の実情に合わせて行うべきことは、結果に大きな差が出てきます。

こうした業務は、一般に顧問契約の基本料金とは別に報酬が必要になります。

 

Q:顧問契約の期間は?解約はむずかしいのか?

A:顧問契約の期間について、特に制限はありませんので、それぞれの顧問契約で自由に定めることができます。

しかし、必要がなくなったとき、あるいは別の顧問先に依頼したいときに、解約がむずかしいのは考えものです。

当初予定した課題が解決した時や、必要なくなった場合に、依頼主側から自由に解約できる契約内容になっていれば安心です。

それでも、社会保険労務士側に契約や契約書についての基本知識が不足していると、契約内容を変えたがらない傾向が見られます。

話し合いによって、契約を柔軟に変更できる社会保険労務士事務所と、納得のいく内容で契約することをお勧めします。

 

Q:社会保険労務士の指導や指示には従わなければならないのか?

A:社会保険労務士には、会社の業務についての決定権がありません。

法令違反の恐れがある部分については、これを発見次第、社会保険労務士から依頼人に改善案を提示します。

しかし、これに応じて是正するかしないかは、会社側の判断に委ねられます。

この場合でも、社会保険労務士には守秘義務がありますから、法令違反の恐れがある事実について、外部に漏らすことはありません。

ブラック就業規則は実在します。それは文字で書かれたものではないこともあります

2024/12/19|1,363文字

 

<違法な就業規則の実在>

労働基準法などで保障された労働者の権利についての規定が無かったり、法令の基準を下回る内容の就業規則が作成されることは、少なくとも社会保険労務士に依頼したのならありえないでしょう。

しかし、就業規則を作成した時には適法だったものの、法改正が繰り返されて違法だらけの就業規則になってしまうということはあります。

最近では、働き方改革関連の法改正や少子高齢化対策の法改正が盛んですから、1年間放置した就業規則は適法なはずがないのです。

この場合、就業規則と個別の労働契約と法令とを比べて、労働者に一番有利なものが有効になりますから、就業規則が法律に違反していたり、個別の労働契約よりも労働者に不利であったりすれば、その規定は無視されます。

結局、形式的にブラックな就業規則というのは、実害をもたらさないということになりそうです。

 

<形式と実質>

上で言う「就業規則」「労働契約」「法令」というのは、文書化されたものをイメージしています。

こうした意味での「就業規則」は各条文が文字で表わされ、ファイルの形になっています。

文書化されているからこそ、社内に周知することも、労働基準監督署長に届け出ることも、改定手続を行うことも可能なわけです。

これは形式的な「就業規則」の話です。

 

形式的な「就業規則」とは別に、その運用実態が問題となります。

「就業規則」の運用実態こそが、実質的な「就業規則」です。

「就業規則」が絵に描いた餅になっていて、つまり「単なる建前」として扱われていて、実際にはブラックな運用がされているということがあります。

これがブラック就業規則の問題です。

 

<就業規則の軽視>

就業規則が作成されたとき、あるいは変更されたとき、それを全従業員が見られるようにしておいたのに、誰も関心を示さず読まれないということがあります。

社会保険労務士に就業規則の作成・変更を委託したのなら、併せて説明会の開催も任せればこうした事態は生じないのですが、通常は別料金なので省略されることもあります。

就業規則に規定されていることについても、法令違反の勝手な解釈が生まれ、やがては慣行となり、ブラック就業規則と化すことがあるのです。

 <ブラック就業規則の実例>

ブラック就業規則、つまり違法な運用の例には次のようなものがあります。

・セクハラは相手が嫌がっていなければ問題にならない。

・パワハラは指導や業務上の指示に伴うものはある程度許される。

・正社員は年次有給休暇を取得できない。特に役職者は無理。

・アルバイトには労災保険が適用されない。

・大ケガでなければ労災保険の適用外。

・本人に過失があれば労災保険は適用されない。

・仕事のやり直しや自己啓発のための残業は無給となる。

・試用期間中は健康保険や厚生年金に加入しない。

・おかしな辞め方をした従業員には最後の給与を支払わない。

 

<就業規則の適法性>

政府が働き方改革と少子高齢化対策の継続的な推進に力を入れていますから、人を巡る法改正は盛んです。

これに対応できていない就業規則は多いことでしょう。

しかし、これは形式的な「就業規則」の話です。

社会保険労務士に就業規則の適法性チェックを依頼する場合には、ブラック就業規則になっていないか運用実態を含めた労働条件審査として依頼することをお勧めします。

派遣社員を利用する企業つまり派遣先企業の配慮について法定されています

2024/12/18|1,774文字

 

派遣先企業には、派遣元責任者等と連携をとりつつ、次のような措置等を講じることが義務付けられています。

(文中の「法」は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」を指します。)

 

<労働者派遣契約に関する措置(法第39条)>

派遣先は、労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じなければなりません。

派遣社員は、契約違反があっても自分からは言い出しにくい立場にありますから、派遣先には次のような配慮が求められます。

1.労働者派遣契約で定められた就業条件の関係者への周知

2.派遣労働者の就業場所の巡回による就業状況の確認

3.派遣労働者を直接指揮命令する者からの就業状況の報告

4.労働者派遣契約の内容に違反しないよう、直接指揮命令する者への指導の徹底

派遣先は、労働者派遣契約違反の事実を知った場合、早急に是正し、違反した者や派遣先責任者に契約遵守のための措置を講じる等、適切な対応をする必要があります。

 

<適正な派遣就業の確保(法第40条第1項)>

派遣先は、派遣労働者からの苦情の処理を適切かつ迅速に行わなければなりません。

また、派遣労働者の適切な就業環境の維持等に努めなければなりません。

派遣先は、派遣労働者から派遣就業に関し、苦情の申出を受けたときは、その内容を派遣元事業主に通知するとともに、派遣元事業主との密接な連携の下、誠意をもって遅滞なく、苦情の処理を図らなければなりません。

また、派遣労働者から苦情の申し出を受けたことを理由として、派遣労働者に不利益な取扱をしてはなりません。

派遣先は、派遣就業が適正かつ円滑に行われるよう、セクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持、派遣先の労働者が通常利用している診療所等の施設の利用に関する便宜の供与等、必要な措置を講ずるよう努めなければなりません。

 

<教育訓練(法第40条第2項>

派遣元の求めに応じて、派遣労働者に対しても業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施するなどの義務があります。

ただし、派遣先の労働者と同様の訓練実施が難しいときまで義務を課すものではなく、例えば、研修機材の不足等の事情がある場合に、派遣先の労働者は集団研修を行うが、派遣労働者に対してはDVDを視聴させる等でも差し支えありません。

なお、派遣先は、派遣元事業主が派遣労働者に対し段階的かつ体系的な教育訓練を実施するに当たって、求めがあったときは、派遣元事業主と協議等を行い、派遣労働者が教育訓練を受けられるよう可能な限り努力するとともに、必要に応じた教育訓練についての便宜を図るよう努めなければなりません。

その他の教育訓練や自主的な能力開発等についても同様です。

 

<福利厚生施設(法第40条第3項、第4項)>

食堂・休憩室・更衣室については、派遣社員に利用の機会を与える義務があります。

物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設などの施設については、利用に関する便宜供与を講ずるよう配慮する義務があります。

この配慮義務は、派遣先の労働者と同様の取扱をすることが困難な場合にまで求められてはいません。

例えば、定員の関係で派遣先の労働者と同じ時間帯に食堂の利用を行わせることが困難であれば、別の時間帯に設定する等の措置を行うこと等でも差し支えありません。

 

<情報提供(法第40条第5項)>

派遣元事業主の方で、段階的かつ体系的な教育訓練やキャリアコンサルティング、賃金等についての均衡待遇の確保のための措置が適切に講じられるようにするため、派遣元事業主の求めに応じ、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者の情報や、派遣先の指揮命令の下に労働させる派遣労働者の業務の遂行の状況等の情報を派遣元事業主に提供する等必要な協力をするよう努めなければなりません。

派遣先は、派遣元事業主の求めに応じ、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する派遣先の労働者等の賃金水準に関する情報を派遣元事業主に提供するよう配慮しなければなりません。

 

<実務の視点から>

いずれも派遣先の義務ではありますが、派遣労働者の保護のためだけでなく、派遣先が派遣社員を十分活用できるようにするためでもあります。

可能な限りの対応を心がけましょう。

令和7年10月からすべての企業に義務付けられる育児期の柔軟な働き方を実現するための措置等

2024/12/17|1,204文字

 

<育児・介護休業法改正>

育児・介護休業法について、男女とも仕事と育児・介護を両立できるように、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化などの改正が行われました。

 

<育児期の柔軟な働き方を実現するための措置>

今回の改正では、令和7(2025)年4月1日から施行されるものが多い中で、半年遅れの令和7(2025)年10月1日から施行されるものの中に、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置という項目があります。

事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、下の表にある5つの措置の中から、2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。

労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。

事業主が講ずる措置を選択する際、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。

事業規模にかかわらず、すべての企業に課せられる義務ですし、準備にある程度の期間を要すると思われますので、半年遅れでの施行というのもやむを得ないでしょう。

 

【選択して講ずべき措置】

始業時刻等の変更

テレワーク等

保育施設の設置運営等

就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇

短時間勤務制度

 

最後の「短時間勤務制度」を除き、フルタイムでの柔軟な働き方を目指すものです。

 

<始業時刻等の変更>

一日の所定労働時間を変更しないで、次のいずれかの措置をとることをいいます。

・フレックスタイム制

・始業または終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(時差出勤の制度)

フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則の改定や労使協定の締結のほか、正しい運用を行うための説明会の開催などが必要となります。時差出勤の方は、就業規則の変更だけで済みますし、分かりやすいので導入が簡単でしょう。

 

<テレワーク等>

一日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるものに限られます。自宅などの環境によっては、導入と運用に多額の経費を要することもありますから、すでに導入実績のある場合にお勧めできる選択となります。

 

<保育施設の設置運営等>

保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など)が認められます。

人件費がかからない点で、「費用負担」は比較的企業の負担が少ないでしょう。

 

<養育両立支援休暇の付与>

就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇を、この法律では養育両立支援休暇と呼んでいます。

一日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるものに限られます。有給に限られず、無給とすることも可能です。

 

<短時間勤務制度>

一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むものをいいます。原則6時間というのは、労働者の希望により5時間や7時間を選択する制度を就業規則に定めて運用することも可能であることを示しています。

人事考課制度導入の隠れたポイント

2024/12/16|1,585文字

 

<人事考課の必要性>

社内に人事考課の基準がなくて、年齢や経験年数だけで昇給と昇格が決まっている会社からは、将来有望な若者が去っていくものです。

ただクビにならないように気を付けながら、在籍年数を伸ばしていくだけで、それなりの昇給と昇格が期待できるとすれば、危険を冒してまで努力するのはばかばかしくなります。

こうして多数派の社員は、本気で業績に貢献しようという意欲を失っていきます。

 

<人事考課は客観的に>

社長や人事権を握っている一部の人が、主観的に判断して社員を評価するのも危険です。

こういう会社では、会社の業績に貢献するよりも、社長や考課権者と仲良くなるのが出世の近道になってしまいます。

反対に社長や考課権者に嫌われたら最後、未来は暗くなりますから、優秀な社員でも会社から去っていくことになります。

 

<人事考課と給与>

給与というのは、今後1年間にどれだけ活躍するかを予測して決定するものです。

そうでなければ、新卒や中途採用では初任給が決まりません。

ベテラン社員であっても、これまでの実績を参考にして、今後一年間にどれだけ活躍するかを予測して決定するものです。

 

<人事考課と賞与>

賞与というのは、どれだけ能力があるかとは関係なく、どれだけの実績を上げて会社に貢献したかという結果を評価して設定するものです。

ここで注意したいのは、「結果がすべて」の評価にしないことです。

どれだけ社内外と協力したのか、そのプロセスを含めて評価しなければ、目的のためには手段を選ばない社員ばかりになってしまいます。

 

<一般的な注意点>

人事考課制度の導入にあたっては、相対評価にするのか絶対評価にするのかをあらかじめ決定しておかなければなりません。

評価結果の意味合いが違ってくるからです。

学校の成績表でもこの点は明確にされているものです。

 

考課表は人単位で作成されますが、評価する管理職は項目単位で評価しなければなりません。

そうしないと、人事考課で最も警戒すべきハロー効果の悪影響が出てしまうからです。

他にも、中央化傾向、寛大化傾向、酷評化傾向、期末誤差、論理誤差、退避誤差の危険は一般に指摘されています。

 

考課者は、ともするとパワハラに走ります。

誰だって上司が、給与、賞与、昇進に大きくかかわる判断をするとわかっていれば、従順にならざるを得ません。

それなのに上司は自分が偉くなったのだと勘違いして、パワハラを行う危険は大きいのです。

こうなると、意見や改善提案は出にくくなりますから、会社の成長がストップしてしまうという大変な弊害も生じます。

考課者に対しては、くれぐれもパワハラを行わないこと、パワハラを行った管理職の評価は下がり、場合によっては管理職が不適格であると判断されるという警告を発しておかなければなりません。

 

<評価される側もかかわること>

評価項目や評価基準の設定にあたっては、一般担当者の意見も聞かなければなりません。

評価項目の漏れや、評価基準の不合理に気付かせてくれます。また、人事考課制度の構築にあたって、「自分も参加した」ということから納得を得やすくなるのです。

 

また、自分の仕事について、報告を怠ると正しく評価されないということを説明して、報連相を活発化させることも心がけましょう。

 

さらに、評価をして結果を出して終わりではなく、評価結果とその理由は面談できちんと伝えましょう。

これをしないと人事考課の効果は半減してしまいます。

ひとり一人の社員が、「会社からどうして欲しいと考えられているのか」を把握することによって、努力の方向性が明確になり生産性の向上が可能となるのです。

 

<実務の視点から>

人事考課制度をどのように導入しレベルアップさせたら良いのか。会社ごと、職場ごとに、最善の方法は異なります。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社労士にご相談ください。

法令や裁判で「客観的」だと判断される条件

2024/12/15|954文字

 

<法令に出てくる「客観的」という言葉>

労働契約法には、「客観的に」という言葉が3回出てきます(第15条、第16条、第19条本文)。

いずれも懲戒、解雇、雇い止めという重要な条文です。

しかし、ここでいう「客観的に」という言葉がどういう意味なのかは、労働契約法の中に説明がありません。

法令や裁判に出てくる基本的な用語の意味が確定していないと、私たちが具体的な事実に当てはめて考えることがむずかしくなってしまいます。

 

<辞書の説明>

「客観的」という言葉を辞書で調べると、次のように書かれています。

 

大辞林 第三版

個々の主観の恣意を離れて、普遍妥当性をもっているさま。

 

デジタル大辞泉

主観または主体を離れて独立に存在するさま。

特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。

 

辞書ですから、様々な場所で使われている「客観的」に共通する意味を表示しているのでしょう。

法令や裁判を解釈するときには、どうしても自分の立場で解釈してしまいます。

特に労働関係法令であれば、使用者の立場と労働者の立場が対立します。

「客観的に」と言われても困ってしまいます。

 

<たとえば解雇について>

労働契約法は、解雇について次のように定めています。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

とても抽象的な表現です。

ですから、具体的に使用者が労働者を解雇しようとしたときに、それがこの規定に触れて無効になってしまうのか、それとも有効になるのかを判断するのは困難です。

使用者自身の判断で解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎますから、専門家である社会保険労務士などに具体的な事情を話して判断を求めるのが安全です。

 

そして、この労働契約法第16条の「客観的に」というのは、会社側の主観でもなく、従業員の主観でもなく、「裁判所の判断に従って」ということになります。

裁判所の判断が基準ということであれば、法令の条文を読んで辞書を引いても、ほとんどの場合には分からないことになります。

結局、具体的な事例に照らして関連する裁判例を確認して、その意味するところを確定しなければなりません。

こうした専門性の高いことは、信頼できる国家資格者の社会保険労務士にご相談ください。

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