労働基準監督署から是正勧告を受けると報道されてしまうのは仕方のないことなのです

2025/02/23|1,369文字

 

<是正勧告書と指導票>

労働基準監督署が立入調査(臨検監督)に入り問題点が見つかると、その事業場に「是正勧告書」や「指導票」という書類を交付します。

「是正勧告書」は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの罰則に触れていると思われる事実が見つかったときに、その是正と報告を求める文書です。

「指導票」は、罰則には触れないと思われるものの、厚生労働省のガイドラインに沿っていないなど問題となる事実が見つかると、その改善と報告を求める文書です。

立入調査終了後に、その場で作成・交付されることが多いのですが、複雑な事案に関するものは、後日、交付されることもあります。

 

<是正勧告の事実が報道される不思議>

労働基準監督署は、是正勧告書をもって事業場に違法状態の是正と報告を求めます。

是正勧告書で指摘を受けた事実は、違法なものですから、基本的には直ちに是正しなければなりません。

是正勧告書を交付されたなら、違法な部分を是正し、是正の内容を端的にまとめた「是正報告書」を作成し、立入調査を担当した労働基準監督官に提出します。

是正勧告書に記載された提出期限までに、是正報告書を提出すれば、それで一件落着ということになるのですが、提出期限を迎える前に、是正勧告があったという事実が報道されてしまうことがあります。

 

<刑法犯と労働法違反との事情の違い>

たとえば、住居に侵入して金品を盗み、住居侵入罪と窃盗罪で逮捕されれば、この時点で容疑が固まり、報道されることがあります。

この場合には、逮捕によって新たな犯行を防ぐことができますし、被害者にとっても不利益なことはないでしょう。

しかし、労働法違反の場合には、使用者が逮捕され身柄を拘束されても、それ自体が労働者の救済に直接繋がりません。それどころか、事業場の活動が停滞したり、完全に止まってしまったりで、労働者の業務や生活に不利益が及ぶ可能性すらあるのです。

こうした事情を考えると、労働基準監督官が労働法違反の事実を確認しても、すぐに逮捕・送検するのではなく、是正を求めることを優先するのにも合理性があります。

そうだとしても、労働法違反の容疑は是正勧告書交付の時点で固まっていますから、犯罪行為があったものとして、報道されることがあるのです。

住居に侵入して金品を盗んだ犯人が、被害者に盗んだ金品を返却し、お詫びして慰謝料などを支払ったとしても、犯罪事実は消えません。労働法違反を指摘された使用者が、期限内に是正報告書を提出したとしても、労働法違反の犯罪は消えないのです。

このような事情を考えれば、是正勧告を受けただけで報道されてしまうのは、自然なことであり仕方がないでしょう。

 

<罰則が適用される労働法違反>

労働法違反が重大・悪質であれば、是正勧告がないまま、労働基準監督官によって、いきなり逮捕・送検されることもあります。

法的な制限を大幅に超える長時間労働など、労働者の命に関わる違反の場合には、こうしたケースが見られます。

ここまで悪質ではなくても、是正勧告に対応しない場合、虚偽の是正報告書を提出した場合には、労働基準監督官による逮捕・送検が行われています。

是正勧告にとどまらず、送検されたとなれば、より一層強い理由でマスコミに報道されやすくなりますし、都道府県労働局のホームページに公表されることとなります。

年次有給休暇はシフト制でも付与され取得できます。年次有給休暇は労働基準法により国から与えられている権利です

2025/02/22|1,290文字

 

<店長のお話>

コンビニなどで、シフト制で週2~4日程度働いているアルバイトやパートについて、店長が次のような話をすることがあります。

・年次有給休暇の付与日数は、所定労働日数が基準となっているが、所定労働日数は決めていないので、付与日数も確定できない。

・本人の休みの希望を踏まえてシフトを組んでいるので、みんな休みたい日に休めている。シフトが確定してしまってから、休みの希望を出されるのは困る。だから、年次有給休暇を取得させられない。

 

<所定労働日数の考え方>

厚生労働省は、シフト制で契約する場合にも、1週間の標準所定労働日数や最低労働日数、最高労働日数を決めて、労働条件通知書に記載することが望ましいと言っています。これはワーク・ライフバランスを考えてのことですから、年次有給休暇の付与日数の手がかりにはなりません。

さて、労働条件通知書に所定労働日数を記載できないとしても、シフト制で働く皆さんは、確定したシフト表に従って勤務しています。このシフト表は、1週間単位、半月単位、1か月単位などで、その期間に入る前に確定しています。

この事前に確定したシフト上の労働日数が、所定労働日数ということになります。年次有給休暇付与日数表には、「週所定労働日数」の欄の他に、「1年間の所定労働日数」の欄があります。確定したシフト上の労働日数を1年分(最初の1回は6か月分)集計して、勤続期間に応じた付与日数が確定します。

ここでの注意は、事前に確定したシフト表を、確実に保管しておく必要があるということです。

 

【年次有給休暇付与日数表】※労働基準法による最低の日数

週所定

労働日数

1年間の

所定労働日数

勤    続    期    間
6か月 1年

6か月

2年

6か月

3年

6か月

4年

6か月

5年

6か月

6年

6か月

以上

4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 

<年次有給休暇取得日の決定方法>

シフトを組むにあたっては、各従業員の勤務希望日や休日の希望を出してもらうことになります。

この時点で、シフトに穴が空いてしまう時間帯については、何人かに出勤できないか打診して、シフトを埋めるようにしているはずです。

このとき反対に、勤務の希望が重なって、人手が余ってしまう時間帯も発生していることでしょう。

この部分について、店長などシフト調整を行っている責任者から、勤務の希望が重なっている従業員に、年次有給休暇の取得を打診してはいかがでしょうか。

シフトに入りたがっていた従業員にしてみれば、シフトから外されるのは収入減となることもあり、不満を抱くことになるでしょう。これを年次有給休暇の取得でカバーすれば、不満も生じないことになりますし、そもそも年次有給休暇を取得させてもらえないという不満、場合によっては、違法状態も解消されることになります。

これは、あくまでもシフトが確定する前の段階での調整ですから、年次有給休暇の取得によってシフトに穴が空くこともありません。

雇用保険から脱退する手続

2025/02/21|952文字

 

<離職票の交付を希望しないとき>

※離職は退職に限られず、週所定労働時間が20時間未満となった場合等を含みます。

・提出書類・・・・・・「雇用保険被保険者資格喪失届」

※被保険者というのは保険の対象者のことです。脱退は、被保険者の資格を失うことなので、資格喪失といいます。

・提出期限・・・・・・被保険者でなくなった日の翌日から10 日以内

※被保険者が転職した場合に、資格喪失が遅れると、転職先での手続がそれだけ遅れてしまいます。期限にかかわらず、なるべく早く手続しましょう。

・提出先・・・・・・・・事業所の所在地を管轄するハローワーク

・持参するもの・・労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、雇用契約書など

 

<離職票の交付を希望するとき>

※59歳以上の離職者は本人が希望しなくても必ず離職票の交付が必要です。

・提出書類・・・・・・「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」

※「雇用保険被保険者離職証明書」は31組ですが、1枚ずつ名前(書類のタイトル)が違います。

・提出期日・・・・・・被保険者でなくなった日の翌日から10 日以内

※被保険者でなくなった人が給付を受けるのは、本人がハローワークで手続をするのが早ければ、それだけ早くなります。手続には、離職票が必要ですから1日も早く手続して、離職票を渡しましょう。

・提出先・・・・・・・・事業所の所在地を管轄するハローワーク

・持参するもの・・労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、賃金台帳、辞令及び他の社会保険の届出(控)、離職理由の確認できる書類(就業規則、役員会議事録など)。

 

<退職以外のとき>

「資格喪失届」は、次のような場合でも提出が必要です。

・被保険者資格の要件を満たさなくなったとき(週所定労働時間が20時間未満となった場合等)

・被保険者が法人の役員に就任したとき(ハローワークから兼務役員として労働者性が認められた場合を除く)

・被保険者として取り扱われた兼務役員が、従業員としての身分を失ったとき。

・他の事業所へ出向し、出向先から受ける賃金が、出向元の賃金を上回ったとき。

・被保険者が死亡したとき。

 

失業保険が雇用保険となり、失業手当が基本手当となってから、50年以上経過しているのに、今だに古い言葉が使われている理由は謎です。

評価能力が足りない考課者から評価されるのは不幸です。経営者は考課者の適性を見極め、訓練する義務を負います

2025/02/20|685文字

 

<中央化傾向(中心化傾向)>

中央化傾向というのは、極端な評価を避けようとして、評価を真中に集めてしまう傾向があることを意味します。

たとえば、5段階評価で3ばかりつけてしまうのは中央化傾向の典型例です。

平均値で評価しておけば、評価対象者からクレームをつけられないだろうという臆病な考え方をしたり、普段の仕事ぶりをきちんと把握していないために判断できなかったりすると、このような傾向が見られます。

 

<役職者としての能力不足>

部下の意見や提案を聞きながら業務を進めるのは、部下を育てるためにも、モチベーションを維持するためにも、役職者にとって必要なことです。

しかし、部下の考えを吸い上げないまま、あれこれ想像して、部下の批判を恐れているようでは、役職者として能力不足です。

また、部下の具体的な働きぶりを把握していなければ、指導することは困難ですから、やはり役職者に必要な能力を欠いているということになります。

 

<中央化傾向を示す役職者への対応>

人事考課制度を適正に運用するためには、考課者に対する定期的な教育研修の実施が大事です。

そして、中央化傾向を示す役職者には、重点的な教育研修が必要でしょう。

それでもなお、きちんとした人事評価ができないのであれば、適性を欠くものとして考課者から外すことも考えなければなりません。

そもそも、こうした人物が役職者になってしまうこと自体、適正な人事考課制度の運用ができていなかったり、人事政策が失敗していたりの可能性があります。

たとえば、「縁故採用」までは良いとしても、役職者への「縁故登用」をしてしまうと、こうした役職者が増えてしまいます。

役員と労働保険(雇用保険・労災保険)

2025/02/19|1,092文字

 

<役員が労働保険の対象外とされる理由>

雇用保険は、労働者の雇用を守るのが主な目的です。

労災保険は、労働者を労災事故から保護するのが主な目的です。

会社と役員との関係は、委任契約であって雇用契約ではないため、役員は労働者ではないということで、雇用保険も労災保険も適用されないというのが原則です。

 

<労働者か否かの判断基準>

「役員」という肩書が付いたり、商業登記簿に取締役として表示されたりは、形式上、役員であることの基準になります。

しかし、法律関係では形式ではなく実質で判断されることが多く、労働保険の適用についても役員が実質的に労働者であるか否かが基準となります。

 

<雇用保険の労働者>

雇用保険の適用対象となる「労働者」とは、雇用保険の適用事業に雇用される労働者で、1週間の所定労働時間が20時間未満であるなどの適用除外に該当しない者をいいます。

この「適用除外」の中に役員は含まれていません。

役員であっても、実質的に会社に雇われ、賃金を受けていれば、その限度で雇用保険の対象者となるわけです。

 

<労災保険の労働者>

労災保険の適用対象となる「労働者」とは、職業の種類にかかわらず事業に使用される者で、労働の対価として賃金が支払われる者をいいます。

正社員、契約社員、パート、アルバイト、日雇、臨時などすべての労働者が、労災保険の対象となります。

役員であっても、労働の対価として賃金が支払われている部分があれば、その限度で労災保険の対象者となりうるわけです。

 

<兼務役員>

役員でありながら労働者でもあるという、労働保険の対象となる役員の典型です。

取締役工場長、常務取締役本店営業本部長など、取締役かつ労働者という立場の人は、役員報酬と賃金の両方を受け取っています。

雇用保険では、ハローワークに兼務役員である旨を届出ておく必要があります。

雇用保険料は、賃金だけをベースに計算され徴収されることになりますし、失業手当(求職者給付の基本手当)も賃金だけをベースに計算され支給されます。

労災保険も、賃金をベースとした保険料・休業(補償)給付となります。

 

<執行役員>

名称に「役員」の文字が入っているものの、実際には従業員(労働者)であることも多いです。

雇用契約に基づいて企業に雇われ、取締役会などの決定に基づいて業務を執行し、役員報酬ではなく給与として賃金が支払われているなどの事情があれば、労働者と判断され、雇用保険と労災保険が適用されることになります。

常務執行役員、専務執行役員という名称でも、実質的には労働者ということもあります。

あくまでも、実質的な権限や役割を踏まえて判断することが必要です。

高校生のアルバイトには多くの制約があります

2025/02/18|1,221文字

 

<高校生の採用>

以前からコンビニ、スーパー、飲食店などでは、高校生をアルバイトとして採用している店舗が多かったのですが、人手不足の折、他業種でも高校生の採用が増えているようです。

一方で、物価高が家計を圧迫し、アルバイトとして働くことを希望している高校生も増えています。

高校生等の未成年者を使用する場合にも、労働基準法等を守らなければなりません。さらに労働基準法では、年少者の健康及び福祉の確保等の観点から、様々な制限が設けられ保護が図られています。

未成年者自身が、こうした制限についての知識を持っていないことが多いため、職場の他のメンバーが趣旨を理解し、制限の内容を知っておくなどして、法令違反が生じないように注意する必要があります。

 

<採用にあたっての制限>

労働契約は、未成年者が結ばなければならず、親や後見人が代わって結ぶことはできません。〔労働基準法第58条〕

賃金は、直接本人に支払わなければなりません。ただし、本人同意の上で、指定する銀行等の本人名義の口座に振込みをすることができます。〔労働基準法第24条〕

賃金の額は、都道府県ごとに定められた最低賃金の額を下回ってはなりません。〔最低賃金法第4条〕

事業場には、未成年者の年齢を証明する公的な書面を備え付けなければなりません。〔労働基準法第57条〕

 

<労働時間の制限>

原則として、1週間の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間を超えてはなりません。三六協定によっても、これを延長することはできません。〔労働基準法第35条〕

また原則として、午後10時から翌日午前5時までの深夜時間帯に働かせることはできません。〔労働基準法第61条〕

 

<危険有害業務の制限・坑内労働の禁止>

下の一覧表にある危険有害業務は制限されています。〔労働基準法第62条〕

また、坑内での労働は禁止されています。〔労働基準法第63条〕

 

【危険有害業務一覧表】

●重量物の取扱いの業務

●運転中の機械等の掃除、検査、修理等の業務

●ボイラー、クレーン、2トン以上の大型トラック等の運転又は取扱いの業務

●深さが5メートル以上の地穴又は土砂崩壊のおそれのある場所における業務

●高さが5メートル以上で墜落のおそれのある場所における業務

●足場の組立等の業務

●大型丸のこ盤又は大型帯のこ盤に木材を送給する業務

●感電の危険性が高い業務

●有害物又は危険物を取り扱う業務

●著しくじんあい等を飛散する場所、又は有害物のガス、蒸気若しくは粉じん等を飛散する場所又は有害放射線にさらされる場所における業務

●著しく高温若しくは低温な場所又は異常気圧の場所における業務

●酒席に侍する業務

●特殊の遊興的接客業(バー、キャバレー、クラブ等)における業務

 

<その他>

雇入れの際には、仕事に必要な安全衛生教育を行わなければなりません。〔労働安全衛生法第59条〕

未成年者であっても、また短期間の臨時アルバイトであっても、労災保険が適用されます。〔労働者災害補償保険法〕

昇給時期や賞与支給前だけ頑張る社員への対応

2025/02/17|778文字

 

<期末誤差>

就業規則で昇給時期や賞与支給時期が決まっているのが一般です。

給与の決定には1年間の、賞与の決定には半年程度の人事考課期間が設定されていることでしょう。

考課者にとっては、評価期間の最初の方よりも、評価期間の最後の方が印象が強いため、評価決定に近い時期の働きぶりを重視しすぎてしまう傾向が見られることもあります。

これを期末誤差といいます。

評価される社員の中には、このことを期待して、評価の実施時期が近づくと張り切る人もいます。

中には、出勤するなり「今日も1日頑張るぞ!」と気合を入れ、勤務終了時に「今日も1日頑張ったなぁ!」と言うような口先だけの人もいます。

そして、この時期だけ残業する人がいるのではないでしょうか。

 

<考課者としての対策>

期末誤差を防ぐには、考課者が対象者の働きぶりをコンスタントに記録して評価の実施に備えておくこと、評価対象者と定期的に話をして常に働きぶりを見ていることを伝えておくことが必要です。

 

<会社としての対策>

考課者が対象者の働きぶりをコンスタントに記録して評価の実施に備えるというのは、実際にはむずかしいものです。

どうしても、後回しにしがちです。

考課者に対しては、毎月、評価対象者の評価を会社に提出させるなど、明確な義務を負わせるのが確実です。

また、人事考課については、定期的な考課者研修が必須ですが、評価される側の一般社員に対しても、人事考課制度についての説明会が必要だと思われます。

評価が適正に行われるようにするためにも、会社は全社員に人事考課制度を理解させなければなりません。

 

業界間格差や人手不足の影響で、社員の出入りが激しくなり、ますます人事考課制度が重要になっています。

人事考課制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

繰り下げても老齢厚生年金が増えない場合

2025/02/16|935文字

 

<在職老齢年金制度>

70歳未満の方が会社で働いていて、厚生年金保険に加入している場合、あるいは70歳以上の方であっても、厚生年金保険の加入基準以上の所定労働日数・所定労働時間の場合には、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。これが「在職老齢年金」の制度です。

 

在職老齢年金制度による調整後の受給月額

=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2

※「50万円」の数値は年度ごとに決定され、令和6年度は50万円、令和7年度は51万円

 

たとえば、給与や役員報酬が1か月あたり100万円で、賞与等がなく総報酬月額相当額が100万円だとします。この場合、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額が20万円だとしても、在職老齢年金制度による調整後の年金受給月額は、全額停止となってしまいます。

 

基本月額20万円-(基本月額20万円+総報酬月額相当額100万円-50万円)÷2=マイナス15万円

 

この計算式で、年金受給月額がマイナスになる場合は、老齢厚生年金(加給年金額を含む)は全額支給停止となるのです。この「支給停止」となった部分の年金は、いつかまとめて支給されるということではなく「不支給」となります。

 

<繰下げ受給を想定した場合>

仕事を続けていて、収入が十分にある間は年金を受給せず、引退してから繰り下げて受給すれば、年金額も増額されて得だろうということは、多くの方が思いつきます。

ところが、繰り下げている期間中に、在職老齢年金の仕組みによって、支給停止される額については、増額の対象とならないのです。全額支給停止であれば、その期間は全く増額の対象とならないことになります。

 

<老齢厚生年金と老齢基礎年金>

在職老齢年金の仕組みによって、全額支給停止となる場合には、すぐに年金の請求手続をしても、老齢厚生年金を受給できません。また繰り下げて、数年後から受給し始めても、老齢厚生年金は増額されません。

しかし、この仕組みは老齢厚生年金に関するものです。老齢基礎年金には、在職老齢年金の適用がありません。

厚生年金保険に加入していても、老齢基礎年金は全額受給できます。また、繰り下げれば増額されます。

海外に法人を設立して社会保険料を節約するという話があります

2025/02/15|1,510文字

 

<社会保険料の節約になるのか?>

海外に法人を設立し、自社で勤務している従業員の給与・賞与の半額は自社から直接支払い、残りの半額は海外の法人から支払えば、従業員も会社も社会保険料を節約できるのではないかという話があります。

しかし、これはできないことが多いですし、不正なことをしてしまうと、健康保険の傷病手当金や出産手当金が減額されたり、将来の老齢年金などの給付が減額されたりで、会社が賠償責任を負うことにもなりかねません。

 

<海外勤務者の社会保険の継続>

日本国内の厚生年金保険適用事業所での雇用関係が継続したまま、海外で勤務する場合、出向元から給与の一部(全部)が支払われているときは、原則、健康保険・厚生年金保険の加入は継続します。

この場合、海外法人からの賃金を,社会保険料の計算基礎となる報酬等に算入するかしないかは、その賃金が実質的に見て、海外法人の負担なのか国内法人の負担なのかによって、その結論が分かれます。

 

<海外法人からの賃金を社会保険料の計算基礎となる報酬等に算入しないケース>

国内の適用事業所の給与規程や出向規程等に、海外勤務者についての定めがなく、海外の事業所での労働の対償として直接給与等が支給されている場合は、国内事業所から支給されているものではないため、「報酬等」には含めません。

国内事業所に勤務する被保険者が、国内事業所との雇用関係を維持したまま、海外の事業所に転勤となり、国内事業所と海外事業所の双方から給与等を受けていて、海外事業所から支給される給与等は海外事業所の給与規程に基づいている場合、国内事業所から受ける給与のみが「報酬等」となります。

ただし、形式的に海外事業所から支払われている給与等が、実質的に国内事業所から支払われていることが確認できる場合は、海外事業所から支給される給与等も「報酬等」に含めることとなります。

 

<海外法人からの賃金を社会保険料の計算基礎となる報酬等に算入するケース

国内の適用事業所の給与規程や出向規程等に、海外勤務者についての定めがあり、海外の事業所での労働の対償として国内事業所から給与等が支給されている場合は、実質的に見て国内事業所から支給されているものであるため、「報酬等」に含めて計算します。

国内事業所に勤務する被保険者が、国内事業所との雇用関係を維持したまま、海外の事業所に転勤となり、国内事業所と海外事業所の双方から給与等を受けていて、海外事業所から支給される給与等が国内事業所の給与規程に基づいている場合、国内事業所から受ける給与と、海外事業所から受ける給与の合算額が「報酬等」となります。

これは、形式的に海外事業所から支払われている給与等が、実質的に国内事業所から支払われていることが確認できるためです。

 

<その他の注意点>

国内適用事業所から支払われる給与に、渡航費用の精算額が含まれている場合、その渡航費用が実費弁償を行ったものであることが確認できれば、「報酬等」には含めません。この点、通勤手当が「報酬等」に含まれるのとは扱いが異なります。

外貨で給与等を支払った場合は、実際に支払われた外貨の金額を、支払日の外国為替換算率で日本円に換算した金額を報酬額とします。

 

<実務の視点から>

原則として法令は、その形式や外形を基準に適用されるのではなく、実質や実態を基準に適用されます。

実態を伴わず、形ばかり海外事業所から給与・賞与の一部が支給されることにしても、その給与・賞与を実質的に国内事業所が負担するのであれば、社会保険料を減額することはできません。

社会保険料を節約する意図で、海外に法人を設立しても、無駄な経費が発生するだけとなってしまいます。

公平な人事評価を妨げるハロー効果

2025/02/14|1,028文字

 

<ハロー効果>

ハロー効果とは、ある際立った特徴を持っている場合に、それが全体の評価に影響してしまうことです。

英語のハロー(halo)は、日本語では後光(ごこう)といいます。

仏やキリストなどの体から発するとされる光です。

仏像の背中に放射状の光として表現されています。

この光がまぶしくて、真の姿が見えなくなってしまうのでしょう。

 

<プラス評価の場合>

たとえば、次のように思い込んでしまう例があげられます。

・〇〇大学を卒業している → 学力だけでなく人格も優れている

・将棋の有段者である → 頭が良くて勝負勘がある

・国体の出場経験がある → 目標を達成する意欲が高い

これらの例では、矢印の左側が根拠となる事実であり、右側が結論なのですが、そもそも仕事に関わる事実ではないものが根拠となっています。

 

<マイナス評価の場合>

たとえば、次のように思い込んでしまう例があげられます。

・太っている → 健康状態が悪い、自己管理能力が低い

・高校を中退している → 忍耐力が乏しい、社会性が欠如している

こちらも仕事に関わる事実ではないものが根拠となっています。

 

<評価項目間の影響>

特定の評価項目の評価が際立っているために、他の評価項目の評価にまで影響してしまうことがあります。

・積極性が高い → 応用力が高い

・責任性が高い → 規律性が高い

 

<実際のハロー効果と対処法>

実際の人事考課では、ある人について「優れている」というレッテルを貼り、あらゆる評価項目について評価が甘くなってしまうことがあります。

「あばたもえくぼ」です。

「あばた」というのは、天然痘が治った後に皮膚に残るくぼみのことです。

大好きな人の顔にある「あばた」が「えくぼ」に見えてしまうのです。

 

反対に、「劣っている」というレッテルを貼り、あらゆる評価項目について評価が厳しくなってしまうことがあります。

「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」です。

袈裟というのは、仏教の僧侶が身に着ける衣装のことです。

坊主を憎んでしまうと、その坊主が着ている衣装まで憎く思われるということです。

 

人事考課では、人物を評価するのではなく、評価項目ごとに客観的な評価をする必要があります。

先入観を捨てる必要があるのです。

人事考課制度を適正に運用するためには、考課者に対する定期的な教育研修の実施が大事です。

制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

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