完全月給制の正しい運用 ― 正しく運用すれば良いというものではなく制度そのものの妥当性も問題です

2024/02/26|1,299文字

 

<完全月給制の定義>

「完全月給制」という言葉は、欠勤控除をしない月給制、つまり、「遅刻、早退、終日の欠勤があっても、減額せず一定の月給を支払う給与支払制度」の意味に使われるのが一般的です。

しかしこれは、法律用語ではないため法令による定義はなく、会社ごとに就業規則などでその内容が定められています。

その内容が、会社ごとに定められているだけに、違法な運用が行われるリスクがあります。

 

<サービス残業の可能性>

欠勤控除が無いのは、労働者にとって有利ですから、この点については違法性がありません。

しかし、月給の定額支給ということが強調される余り、時間外労働などに対する賃金が支払われないとなると、違法なサービス残業が発生するリスクがあります。

このことから、完全月給制の対象者は、時間外労働、休日労働、深夜労働の無い労働者である場合が多いと考えられます。

法定時間外労働などに対する割増賃金が発生しない労働者としては、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」が挙げられます。〔労働基準法第41条第2号〕

その範囲は限定的に解釈されていますから、就業規則などで任意に定義することはできません。労働基準法を会社のマイルールで修正できるのは、各労働者に有利な場合だけなのです。

 

<年次有給休暇>

年次有給休暇を取得すれば、その日のその時間帯の労働義務が免除され、欠勤控除は行われないことになります。

しかし、完全月給制であれば、年次有給休暇を取得しなくても欠勤控除はありません。

平成31(2019)年4月からは、企業に年次有給休暇の時季指定義務が課されました。

完全月給制の労働者についても、この義務は免除されていませんので、かなり形式的になってしまいますが対応せざるを得ません。

 

<傷病手当金など>

健康保険の加入者(被保険者)は、私傷病で3日を超えて欠勤し、通常の賃金の支払を受けなければ、傷病手当金を受給できます。

しかし、完全月給制の労働者は、通常通りの賃金を受けますから受給できません。

これによって、その労働者が経済的に困ることはないのですが、労使折半で支払っている保険料の一部が無駄になっていると考えられます。

労災による休業について、休業(補償)給付が支給されないのも、同様のことがいえます。

 

<休職制度>

休職制度が適用される場面では、年次有給休暇、傷病手当金、休業(補償)給付が意味を持ってくるでしょう。

一般に、欠勤期間が一定の基準に達することを条件として、休職制度が適用されます。

年次有給休暇を取得した日については、欠勤とはなりませんので、休職制度の適用が先送りされます。

また、休職制度が適用されている休職期間は、賃金の支払が無いのが一般ですから、傷病手当金や休業(補償)給付を受給できるようになります。

 

<実務の視点から>

労働者に有利な完全月給制ではありますが、合法的に運用されていたとしても、その合理性には疑問があります。

また、従業員の全員が完全月給制というのでなければ、同一労働同一賃金への対応も困難です。

会社の実情に応じて、見直しを検討されることをお勧めします。

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