三六協定の落とし穴

2024/01/12|1,751文字

 

<残業制限と三六協定>

会社は従業員に、1日実働8時間を超えて働かせてはなりません。また、日曜日から土曜日までの1週間で、実働40時間を超えて働かせてはなりません。〔労働基準法第32条〕

この制限に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。〔労働基準法第119条〕

ですから、基本的にこの制限を超える残業は「違法残業」ということになります。

しかし会社は、労働組合や労働者の過半数を代表する者と書面による協定を交わし、これを労働基準監督署長に届け出た場合には、協定の定めに従って1日8時間を超え、また週40時間を超えて従業員に働かせても罰せられないのです。

このことが、労働基準法第36条に規定されているため、ここで必要とされる協定のことを三六協定と呼んでいます。

ところが、所轄の労働基準監督署長に三六協定書を届け出て、その控えを会社に保管し、社内に周知していても、労働基準法違反となってしまうことがあります。

 

<選出手続の失敗>

「労働者の過半数を代表する者」を選出するにあたっては、次のような条件があります。

うっかり、これらの条件に違反していると、三六協定の締結そのものが無効となり、法定労働時間を超える残業がすべて違法となってしまいます。

・管理監督者を除く一般の労働者から選出すること。

・「労働者の過半数を代表する者」の具体的な役割を説明したうえで選出すること。

・会社から適任者を打診するなどの関与をせず民主的に選出すること。

社員親睦会の代表者が、自動的に「労働者の過半数を代表する者」となるような、選出そのものが行われないのは、当然に無効となってしまいます。

 

<期限切れ>

三六協定の有効期間は、最長でも1年間です。

取引契約書のように、「甲乙いずれからも申出が無い場合には、従前と同一の内容をもって更新されるものとする」という自動更新の規定を置くことはできません。

所轄の労働基準監督署長への届出も、毎年行うことになります。

期限が過ぎてから届出を行っても、さかのぼって効力が認められることはありません。

うっかり、三六協定の更新を忘れると、違法残業が発生してしまいます。

 

<上限を超える残業>

三六協定では、法定労働時間を超える時間数として、1日、1か月、1年それぞれの上限を定めます。

1日単位のチェックは、従業員一人ひとりに説明しておいて、自己管理を求めるのが簡単です。

管理職も、自分の部下の残業時間について、管理を怠らないでしょう。

また、1か月単位の上限については、半月あるいは20日経過したところで、人事部門から各部門長や各従業員に対して「オーバーペースです」という警告が発せられる仕組ができている企業も多いと思われます。

しかし1年単位となると、従業員も部門長も、あまり意識していないため、年度末になってから、思いの外、残業が制限されてしまったり、あるいは、うっかり制限をオーバーしてしまったりということがありえます。

やはり、1年単位での時間外労働の集計も必須です。

 

<三六協定の対象者>

三六協定届には、労働者数の欄があり、カッコ書きで「満18歳以上の者」と書かれています。

これは、三六協定が満18歳未満の従業員には適用されないからです。

適用されないということは、満18歳未満の従業員は、三六協定が締結されても法定時間外労働が許されないことになります。

うっかり残業させてしまうことがないよう、十分に注意する必要があります。

 

<特別条項の回数制限>

臨時的な特別の事情の発生に備えて、三六協定に特別条項を設けることができます。

この場合、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を踏めば、限度時間を超えて労働させることができます。

しかし、これには年6回(6月)という回数制限があります。

年の前半で特別条項を5回使ってしまえば、後半では1回しか使えませんから、年度末の繁忙期に限度時間内の残業しかできずに困ることになります。

特に注意したいのは、年度の途中で人事異動がある場合です。

特別条項の回数制限は、個人ごとのカウントとなりますから、異動前に何度も限度時間を超えていると、異動後には限度時間を超えられない不都合を生じます。

これも、うっかり違反の大きなポイントですから注意しましょう。

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