労働条件通知書 ― 交付義務・保管義務・罰則

2024/02/14|1,439文字

 

<労働条件通知書の交付義務>

労働条件のうちの基本的な事項は、労働者に対して書面で通知するのが基本です。

新人なら、1回目は雇い入れ通知書で、2回目からは契約更新の時や、時給変更、出勤日変更の時から労働条件通知書というパターンもあります。

「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」〔労働基準法第15条〕

これが労働基準法の定めです。

「労働契約の締結に際し」という規定ですから、日常用語での正社員のような無期労働契約であれば、法的な義務があるのは入社した時の労働条件通知書だけです。

しかし、パートやアルバイトの多くの場合は、有期労働契約ですから、入社した時だけでなく契約更新の度に労働条件通知書を交付しなければなりません。なぜなら、契約期間が異なる以上、新たに労働契約を交わすことになるからです。

「三十万円以下の罰金に処する」という罰則もあります。〔労働基準法第120条第1号〕

たまたま摘発されて30万円の罰金を科せられたとしても、日常的に面倒な書類を交付するよりは、30万円の罰金で済むならその方が楽という考え方をする経営者もいるでしょう。

 

<労働条件通知書の保管義務>

労働条件通知書は3年間の保管義務があります。

「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない」〔労働基準法第109条〕

そして、こちらにも罰則規定があります。

「三十万円以下の罰金に処する」〔労働基準法1201号〕

結局、労働条件通知書の交付をサボれば、3年間は摘発されやすいわけですし、1人1回につき30万円の罰金というのは大変な金額になることもあります。

 

<現実の問題として>

たとえば、同じお店で5人のアルバイトがいて、この人たちはベテランなので、時給が1,500円だったとします。

そして1人が辞め、代わりに新人が時給1,200円で入ります。

2年後、この新人が辞めて、辞めた時も時給が1,200円だったとします。

さて、この後、辞めたアルバイトが労働基準監督署に駆け込み「私は時給1,500円で雇われたのに、この2年間、時給1,200円で計算された給与しかもらっていません!」と言い張ったならどうでしょう。

お店側が、「いやいや時給1,200円の約束で雇っていました」と主張できる証拠はあるのでしょうか。

いくらベテランアルバイトたちが、「あの新人は時給1,200円でした」と言っても、お店側の味方をして、お店に有利な証言をしているに過ぎないと思われます。

「時給1,200円で計算した給与を異議なく受け取っていた」と主張しても、「それはクビになりたくなくて」と反論されればそれまでです。

 

<労働法上の形式的な義務>

労働基準法だけでなく、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、パート・有期労働法などなど、経営者に課せられた義務は把握するだけでも大変な状況です。

しかし、形式的な義務を果たすことは、経営者を護ることにもつながります。

人道的な義務や、人情で果たすべき義務の前に、この形式的な法定の義務を果たすことは、商売を続けるのに必要なことです。

経営者としての想いとは別に、法律上、守らなければ足元をすくわれることがあります。

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