使用者責任の逆求償についての最高裁判決

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2020/04/20|1,689文字

 

<使用者責任の求償>

従業員が、勤務中に第三者に損害を与えることがあります。

たとえば、従業員が勤務中に会社の車を運転していて交通事故を起こし、第三者に怪我をさせたような場合です。

この場合に、事故を起こし怪我をさせた従業員は、第三者に対して損害賠償責任を負います。不法行為責任です。〔民法第709条〕

それだけでなく、会社も、相当の注意をしていたなど一定の条件を満たした場合を除き、使用者責任を負うことになります。〔民法第715条第1項〕

会社が使用者責任に基づき、損害賠償を行った場合には、従業員に対してその責任の程度に応じて賠償額の一部を負担させることができます。

求償権の行使です。〔民法第715条第3項〕

これらのことについて、民法は次のように規定しています。

 

【使用者等の責任】

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

会社の従業員に対する求償権は、相当程度制限されるのが一般的です。

なぜなら、求償権の行使は、従業員の責任の程度に応じたものでなければならないからです。

 

<使用者責任の逆求償>

会社よりも先に、従業員が第三者に損害賠償を行った場合に、従業員が自分の責任の程度を超えて賠償金を支払った場合には、会社の本来の負担分を請求できるのではないかが問題となります。

いわゆる「逆求償」の問題です。

これまで、これに関する最高裁の判例は無かったのですが、最高裁第二小法廷令和2年2月28日判決がこれを認めました。

 

<最高裁の判決>

最高裁は、次のように判断しました。

 

民法第715条第1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである。このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきところ、上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである。

 

<判決の意味するところ>

民法の不法行為制度は、社会の中で必然的に発生する損害について、その損失を当事者間で公平に分担するための制度です。

民法には、会社から従業員に対する求償のみが規定されていて、従業員から会社への求償(逆求償)は規定されていません。

しかし、不法行為制度の趣旨からすると、逆求償が認められて当然だという判断が示されました。

つまり、会社と従業員のどちらが先に賠償金を支払っても、自分の責任を超える額については、他方に求償できるという、常識的な判断を示したことになります。

 

解決社労士