2022年 7月

2022/07/31|2,103文字

 

<一般の社会保険加入基準>

会社で働く人は、一定の条件を満たした場合、自動的に社会保険(健康保険と厚生年金保険)に入ります。

会社には、手続をする義務があります。

その一定の条件とは次の3つです。

・会社が社会保険に加入している事業所(適用事業所)であること

・週所定労働時間が、正社員など正規職員の4分の3以上であること

・臨時、日雇い、季節的業務で働く人ではないこと

 

<大企業での加入基準>

平成28(2016)年10月から、社会保険の適用対象者が拡大されました。

週20時間以上働く短時間労働者で、厚生年金保険の加入者(被保険者)数が常時501人以上の法人・個人・地方公共団体に属する適用事業所および国に属する全ての適用事業所で働く人も、厚生年金保険等の適用対象となっています。

 

【平成28(2016)年10月から拡大された適用対象者】

勤務時間・勤務日数が、常時雇用者の4分の3未満で、以下の①~⑤すべてに該当する人

① 週の所定労働時間が20時間以上あること

② 雇用期間が1年以上見込まれること

③ 賃金の月額が8.8万円以上であること

④ 学生でないこと

⑤ 被保険者数が常時501人以上の企業に勤めていること

⑤の企業を特定適用事業所といいます。

 

<中小企業への基準適用>

平成29(2017)年4月からは、加入者(被保険者)数が常時500人以下の企業であっても、労使合意に基づき申出をした企業では、上記の基準が適用されています。

 

【平成29(2017)年4月から拡大された基準適用企業】

次の同意を得たことを証する書類(同意書)を添付して、本店または主たる事業所の事業主から所轄の年金事務所に「任意特定適用事業所該当/不該当申出書」を提出した企業

・従業員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合の同意 

・こうした労働組合がないときはA、Bのいずれかの同意

A.従業員の過半数を代表する者の同意

B.従業員の2分の1以上の同意

このような手続をした企業を任意特定適用事業所といいます。

 

企業が新人を採用する際には、社会保険の加入について十分な説明を行うはずです。

しかし、加入基準が複雑になってきていますので、採用される側としても、「前に働いていた会社と同じ条件で働くのだから、社会保険には入らないのだろう」という先入観をもたずに、きちんと確認する必要があります。

 

<社会保険に入る入らないの損得>

プライベートのケガや病気で働けないとき、健康保険なら傷病手当金によって賃金の67%が保障されます。

この傷病手当金は、国民健康保険にはありません。

年金は、国民年金よりも厚生年金のほうが、将来受け取る老齢年金も、万一の場合に受け取る障害年金も金額が多いのが一般です。

保険料の負担は、社会保険なら会社が半分負担で、国民年金や国民健康保険では全額自己負担です。

それでも、給料から控除される社会保険の保険料は多額だと感じられます。

会社にとっては、従業員が社会保険に入ると会社の保険料負担が発生しますから、入って欲しくないと考えるかもしれません。

結局、将来の生活や万一のことを考えると社会保険に入るのが得で、今の生活費を重視するならば入らないほうが楽といえそうです。

 

<シフト調整が正当な場合>

たとえば、正社員の所定労働時間が1日8時間、1週40時間の場合に、労働契約で所定労働時間が1日7時間、1週28時間、週4日勤務のシフト制で働く従業員は、社会保険には入らないことになります。

労働契約上も、社会保険に入らないことになっているので、会社も従業員も入らない前提です。

この場合に、前提が崩れないように、労働契約の範囲内でシフト調整するのは正しいことです。

 

<シフト調整が不当な場合>

たとえば、正社員の所定労働時間が1日8時間、1週40時間の場合に、労働契約で所定労働時間が1日7時間、1週35時間、週5日勤務のシフト制で働く従業員は、社会保険に入ることになります。

もし、社会保険料の負担を逃れるなどの目的があって、会社が社会保険に入る手続を怠れば、それ自体違法ですし、シフト調整は単なる悪あがきにすぎません。

また、最初から労働条件通知書(雇い入れ通知書、雇用契約書)を従業員に交付しないのは、それ自体違法ですし、社会保険加入基準を満たさないようにシフト調整をするというのはおかしなことです。年金事務所や会計検査院の調査が入っても指摘を逃れるかもしれませんが、労働基準監督署の調査(監督)が入ればアウトです。

 

<解決社労士の視点から>

シフト調整して社会保険に入れないことがあったとして、それが正しいのか、それとも不当なのかは、労働契約の内容次第だということになります。

大企業の特例で、厚生年金保険の加入者(被保険者)数が常時501人以上となっている基準は、令和4(2022)年10月から101人以上となりますし、令和6(2024)年10月からは51人以上となります。

将来的には、会社の規模にかかわらず、現在の大企業の基準で社会保険に加入することになります。

なんとかして、社会保険に入らない、入らせないというのは、諦めなければなりません。

 

2022/07/30|1,254文字

 

<年次有給休暇を取得させる義務>

年次有給休暇は、労働者の所定労働日数や勤続年数などに応じた法定の日数以上を与えることになっています。

与えるというのは、年次有給休暇を取得する権利を与えるということです。

かつては、実際に労働者の方から「この日に年次有給休暇を取得します」という指定がなければ、使用者の方から積極的に取得させる義務はなかったのです。

 

ところが、平成31(2019)年4月1日から、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

つまり、年次有給休暇が新たに付与される日数が10日以上の労働者に対しては、年次有給休暇のうち5日以上について、基準日から1年以内の期間に労働者ごとにその取得日を指定しなければなりません。

これには例外があって、労働者の方から取得日を指定した日数と、労使協定によって計画的付与がされた日数は、年5日から差し引かれます。

結局、基準日から次の基準日の前日までの1年間で、年次有給休暇の取得について、次の3つの合計が5日以上となる必要があります。

 

・労働者からの取得日の指定があって取得した年次有給休暇の日数

・労使協定により計画的付与が行われた年次有給休暇の日数

・使用者が取得日を指定して取得させた年次有給休暇の日数

 

<就業規則に必要な規定>

年次有給休暇など法定の休暇だけでなく、会社で設けている休暇については就業規則に必ず定めることが必要です。

年次有給休暇については、新たに取得日を指定してでも取得させる義務が発生したわけですから、これも就業規則に定めなければなりません。

その職場の就業規則により、また前後関係から、表現の違いはあるものの内容的には次のようになります。

 

【新たに規定する内容】

年次有給休暇が新たに10日以上与えられた従業員に対しては、従業員があらかじめ請求する時季だけでなく、付与日から1年以内に、その従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。

ただし、従業員があらかじめ請求する時季に年次有給休暇を取得した場合、および労使協定を結んで計画的に休暇取得日を決定した場合には、その取得した日数分を5日から控除する。

 

<働き方改革との関係>

年次有給休暇の取得率は、やっと平均50%を超えるようになってきました。

こうした事態を解消するために、働き方改革の一環で、使用者に年次有給休暇の取得日を指定させてでも、取得率を向上させようということです。

働き方改革というのは、働き手の不安を解消し満足度を高めるための多面的な改革ですから、会社が従業員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で進めることが必要です。

残業が減った分だけ給料が減り、残業手当の付かない役職者に仕事が集中するのは、働き方改革の弊害だと言われますが、進め方を誤った結果にすぎません。

年次有給休暇の取得についても、働き方改革の本質から外れない運用を心がけましょう。

 

2022/07/28|1,027文字

 

<効力の優先順位>

「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」〔労働基準法第13条〕

これが労働基準法の規定です。

「達しない」というのがキーワードです。

労働契約で法律よりも低い労働条件を定めて労働者に不利となる場合には、その部分を無効にして法律に従うという意味です。

逆に、労働契約の中に法律よりも有利な部分があれば、その部分については労働契約が有効となります。

結局、法律と労働契約を比べて、違いがある部分については、労働者に有利な方が有効となります。

この場合、労働契約は個別の労働者との契約ですから、有利・不利の判断は個人別に行われます。

しかも、ある時は有利、ある時は不利という場合には、その時々で有利な方が有効となります。

 

<具体例>

たとえば、試用期間が終わり本採用となってから6か月後に年次有給休暇が付与されるという労働契約は法律よりも不利です。

本人が同意していても、その同意は無効であって、法律の基準により年次有給休暇は試用期間の初日から6か月後に付与されます。

またたとえば、1日7時間勤務の会社で、7時間を超えて勤務したら時間外割増賃金として25%を加えるという労働契約は法律より有利です。

なぜなら労働基準法は、8時間の法定労働時間を超える残業に割増賃金を義務づけているからです。

この場合には、労働契約が優先されます。

 

<労働契約が無い?>

働いている限り、労働契約が無いということはありません。

口頭であっても、労働契約は有効です。〔民法第623条〕

ですから、正確には「労働契約書」が無い場合ということになります。

契約書ではなくても、労働条件を会社から一方的に通知する「労働条件通知書」でもよいのですが、何も無ければ労働基準法に定める条件が適用されることになります。

ただ、何時から何時まで、どこで、どのような仕事をするのか、休憩時間はどうなのかということは、法律に規定がありません。

これでは働く人があまりにも不安定ですから、会社には労働条件を書面で交付するなどの法的義務があります。

違反に対しては、1人につき1回30万円以下の罰金という罰則もあるのです。

交付されていない場合には、労働者から会社に確認してみる必要があるでしょう。

うっかり忘れているだけかも知れません。

それでも交付されない場合には、早めに転職先を見つけるようお勧めします。

 

2022/07/27|545文字

 

基本的には、健康保険証があれば3割の費用負担で医療サービスを受けることができます。

しかし、健康保険の財源は保険料と税金です。

不誠実な人に無駄づかいを許してしまうのは道義に反します。

そこで、次のようなルールが設けられています。

 

<わざとケガをした場合>

故意に受傷した場合や、自分の故意の犯罪行為で病気にかかり受傷したときは、健康保険が使えません。〔健康保険法第116条〕

ただし、自殺による死亡については埋葬料が支給されます。

 

<ケンカ・飲酒>

ケンカや酒を飲みすぎて受傷した場合には、全く健康保険が使えない場合と一部だけ使える場合があります。〔健康保険法第117条〕

 

<少年院・刑事施設に入ったとき>

少年院などに収容されたとき、刑事施設、労役場、これらに準ずる施設に収容されたときは、病気・ケガ・出産について健康保険が使えません。〔健康保険法第118条〕

 

<療養に関する指示に従わないとき>

正当な理由なく療養に関する指示に従わないときは、健康保険が一部使えなくなることがあります。〔健康保険法第119条〕

 

<不正行為をしたとき>

不正行為によって、健康保険を使った者については、6か月以内の期間を決めて、傷病手当金や出産手当金の全部または一部を支給しないことにできます。〔健康保険法第120条〕

 

2022/07/26|716文字

 

<傷病手当金>

傷病手当金は、業務以外の原因による病気やケガでの休業中に、健康保険加入者(被保険者)とその家族(被扶養者)の生活を保障するために設けられた制度です。

健康保険加入者が病気やケガのために仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。

その条件の一つに、「労務不能」があります。

仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、健康保険加入者の仕事の内容を考慮して判断されます。

 

<労務不能の基準>

労務不能の期間は、主に療養担当者つまり治療を担当する医師の判断によります。

対象者の仕事内容から考えて、病気やケガの回復具合から働けるかどうかを判断します。

医師は病気やケガの具合を判断することは得意なのですが、対象者の仕事内容を具体的に知りませんから、労務不能の判断はこの点でむずかしいものがあります。

傷病手当金を受給する人は、担当する医師にご自分の仕事内容をわかりやすく説明する必要があります。

特に病気やケガとの関係で、仕事上の困難な部分をよく説明しておきたいものです。

また、医師は自ら診察していない期間については、証明することができません。

仕事に差し障るような病気やケガであれば、ためらわず早めに医師の診察を受けておくことが大事です。

 

<支給対象期間>

仕事を休んだ日と、労務不能と判断された日とで重なった日が、支給対象期間(申請期間)です。

ただし、最初の3日間は待期期間といって、支給されない期間です。

労務不能とされない日に仕事を休んでも、ご本人の意思で大事をとって休んだにすぎないことになります。

また、労務不能とされた日であっても、働いて通常通りの給料が出ていれば、傷病手当金は支給されません。

 

2022/07/25|2,862文字

 

<個別労働紛争解決制度の施行状況公表>

東京労働局は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく個別労働紛争の解決を図る制度(総合労働相談、助言・指導、あっせん)を施行しています。

また、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」、「パートタイム・有期雇用労働法」、「パートタイム労働法」、「労働施策総合推進法」に基づく個別労働紛争の解決を図る制度(援助(助言・指導)、調停)を施行しています。

令和4(2022)年7月21日、東京労働局が個別労働紛争解決制度に関する令和3(2021)年度の施行状況を取りまとめ公表しました。

これによると、「いじめ・嫌がらせ」関連の相談が9年連続で最も多いことが分かります。

企業のハラスメント対策は、継続的に強化されていく必要が感じられます。

 

<令和3年度の解決事例>

今回の公表では、各種統計データの他、具体的な解決事例も示されており、これは全ての企業に参考となるため、以下に6つのケースをご紹介させていただきます。

 

<労働条件引き下げのケース>

申出人(労働者)は年俸制で勤務していましたが、能力不足を理由に会社から異動の辞令を受けました。

賃金額についても、異動により職務が変更になったためとの理由で10%減額されました。

賃金額は年俸制により定まっていたことから、申出人は減額を認めない旨を会社に通知しましたが、会社が応じないため助言を求めたものです。

労働局は会社に対し、年俸制の賃金額を年度途中で一方的に引き下げることは契約違反であり、労働契約変更には労働契約法第8条により当事者間の合意が必要であることを説明しました。

そして、合意が得られない現状を踏まえ、会社に対し適切な話し合いを申出人と行うよう助言しました。

会社は、労働局の助言を受け、申出人と話し合いを行った結果、減額通知を撤回し、賃金額を元に戻しました。

 

<雇止めのケース>

申請人(労働者)は1年の有期契約で勤務していましたが、令和3年4月の契約期間満了に伴い、会社から雇用契約を終了するとの通知を受けました。

会社の説明によると、取引先から契約を打ち切られたため雇止めするとのことでした。

しかし、会社が新規に人材募集をしていたため、申請人は納得できず、会社に契約更新を申し出ましたが拒否されました。

そこで、申請人は経済的損害の補償・慰謝料を求めて、あっせんを申請しました。

会社は、「取引先から契約を打ち切られたことは事実であり、新たに募集している職種は申請人が担当していた職種と全く異なるものであることから、申請人の契約を更新しなかったものである」と主張しました。

あっせん委員は、雇止めの通知が契約満了直前であったこと、雇止めの理由が会社都合であったこと、紛争の長期化による時間的・経済的損失等を説明した上で会社に再考を促したところ、会社は円満解決のため解決金を支払う意向を示しました。

その結果、会社から申請人に対して賃金2か月相当分の解決金を支払うことで合意が成立しました。

 

<降格と減給のケース>

申立者(マネージャー職の女性)が育児休業を取得したところ、復帰にあたり、一般職に降格され、減給となりました。

申立者は、降格の撤回と給与を育児休業前の水準に戻すことを求め、労働局に援助を申し立てました。

事業主は、「マネージャーのポストには別の労働者が就いているため申立者を育休前のポストに戻すことはできず、ポストに応じた賃金を払っている結果として減給となっているに過ぎない」と主張しました。

労働局から事業主に対し、育児・介護休業法上、育児休業を取得した労働者が復職することを前提とした雇用管理が求められることなど、育児休業取得を理由とする降格等不利益取扱いの禁止について説明し、法と法の趣旨に沿った対応をするよう助言しました。

事業主が降格を撤回し、給与を育休前の水準に戻すことになりました。

 

<同一労働同一賃金に反する不合理な待遇差のケース>

申請人(パートタイム労働者)が、正社員との間で夏季休暇、記念日休暇など様々な待遇について相違があることは、パートタイム労働者であることを理由とする不合理な待遇差であるから、待遇の改善を求めたいとして調停申請を行いました。

事業主は、それぞれの待遇差の理由の合理性について主張したものの、パートタイム労働者の待遇については前向きに改善していくとの姿勢が示されました。

調停委員は、双方の主張を踏まえ、双方が合意できる解決案の調整を行ったところ、一部の休暇について正社員と同様の措置を講じることで合意が成立しました。

 

<妊娠の報告後に会社から退職を強要されたケース>

申立者(女性労働者)が、第1子の育児休業中に第2子を妊娠し、事業主に報告しました。

そして、第2子についても、産前産後休業と育児休業を取得したいと事業主に伝えたところ、度々、メールにより退職勧奨を受け、話し合いに応じてもらえなくなったことから、継続就業を求める援助を申し出ました。

労働局は事業主に対し、「妊娠報告を契機として退職強要を行った場合は、原則として男女雇用機会均等法違反となること」を説明し、申立者の要望どおり対応するよう指導しました。

事業主は、申立者の要望のとおり、申立者を継続就業させ、第2子の産前産後休業・育児休業を取得させることにしました。

 

<パワハラにより退職せざるを得なくなったケース>

申請人(労働者)は、勤務先の先輩から度重なるパワーハラスメントを受けたため、本社の次長へ相談しましたが、次長はパワハラの事実確認をせず、職場環境の改善に努めることはありませんでした。

その後も、会社のパワハラに対する措置が不十分であったため、職場環境は改善されなかったことにより、申請人は退職せざるを得なくなったことから、経済的損失などの解決金の支払いを求めて調停を申請しました。

会社は、「パワハラの相談を受けて、速やかに勤務先の責任者が当事者に調査と注意を行い、申請人に対する先輩の指導は業務上必要な範囲であり、パワハラには該当しないと判断した」と主張しました。

調停委員は、会社には一定のパワハラ防止措置が講じられているが、十分に機能しているとはいえないこと、安易にパワハラに該当しないと判断したことも適切とはいえないことから、紛争の長期化による損失を考慮して解決するよう促したところ、会社側は慰謝料を支払うつもりはないが解決金支払については検討していると申し出ました。

調整の結果、会社はパワハラ防止措置が十分でなかったことを認め、申請人に解決金を支払うことで当事者間での和解が成立しました。

 

<解決社労士の視点から>

6つのケースは、いずれも労働者側の主張が容れられる形で解決しています。

どの事案でも訴訟となれば、ほぼ同内容の判決が出される可能性が高く、和解せずにあえて訴訟に持ち込めば、無駄な時間、労力、人件費、精神力を浪費することが想定されます。

労働局からも、こうしたことについて丁寧な説明があったものと思われます。

 

2022/07/24|977文字

 

<会計検査院による実地検査>

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査します。〔日本国憲法第90条〕

そして、常時または臨時に職員を派遣して、実地の検査をすることができます。〔会計検査院法第25条〕

 

会計検査院が行う実地の検査には、次のような内容も含まれます。

・労基署がきちんと労働保険料(雇用保険・労災保険)を正しく支払う指導をしているか。

・ハローワークが失業者の再就職後の不正受給を見逃していないか。

・雇用関係助成金の不正受給がないか。

・年金事務所が対象企業や対象従業員をきちんと社会保険に加入させ、保険料を徴収しているか。

とはいえ、これらのことは、実際に対象となる企業に出向いて調べてみないことにはわかりません。

そこで、会計検査院は労基署、ハローワーク、年金事務所の方々と共に、企業に出向いて実地の検査をするということになります。

 

<会計検査院の調査の特徴>

一言でいうと、とにかく厳しいです。

実際、労基署、ハローワーク、年金事務所が単独で調査に入った場合には、会社の現状を察してくださることもありますから、人情に訴えることも不可能ではありません。

しかし、会計検査院は「法律通り正しく行われているか」を調査しますので、会社の成長段階や体力に対する配慮はしてくれません。

視点が違います。

企業を指導するという考えではなくて、「企業を指導する労基署、ハローワーク、年金事務所」の指導ぶりを厳しくチェックするわけです。

労基署、ハローワーク、年金事務所の皆さんは、会計検査院を「鬼より怖い」といいます。

 

<一例として>

たとえばある企業で、パート社員が社会保険加入を嫌うので資格取得手続をしなかったとします。

これが年金事務所に発覚すると「すぐに手続してください」という指導が行われるでしょう。

ところが会計検査院だと、「保険料を2年前からの分すべて、会社負担分も本人負担分も、まとめて納付してください」ということになります。

こうしないと、国の収入が法律通りにならないわけですから。

こうなると、対象となるパート社員から2年分の保険料を強制的に徴収する方法はないのですから、会社は本人負担分も支払うことになり、大きな損失をこうむることになるわけです。

場合によっては、そのパート社員が突然に来なくなることもあるのです。

やはり、正しい手続、正しい納付が基本です。

 

2022/07/23|706文字

 

<労基署の是正勧告>

労基署の調査(監督)が入ると、法令違反の部分について改善を求める「是正勧告書」という文書が交付されます。

労基署から電話連絡が入り、労基署まで印鑑を持って取りに行く形です。

立入調査(臨検監督)の直後に、その場で交付されることもあります。

これに対して会社は、改善の内容を「是正報告書」という文書にまとめて労基署に提出します。

こうした対応を誠実に行っても、再度の調査が入るということはあるのでしょうか。

 

<労働基準監督署による調査(監督)の種類>

一般には4つに分類されています。

定期監督 = 各年度の監督計画により、労基署が管轄する企業の中から調査対象を選択し、法令全般について一般的に調査

災害時監督 = 業務災害が発生したあとに、原因究明や再発防止の指導を行うために調査

申告監督 = 労働者からの申告があった場合に、その申告内容について確認するために調査

再監督 = 是正勧告により指摘した法令違反が是正されたかを確認するための調査

※是正勧告を受けて期限までに是正報告書を提出しなかった場合にも行われます。

 

<再調査(再監督)>

上記のように、企業側がきちんと対応しても、再度の調査(再監督)が行われる場合があります。

最初の調査の時や、その後の企業側の態度が悪いと、再度の調査を予告されることもあります。

「態度が悪い」と言っても、反抗的な態度を示す場合だけでなく、指導の内容に対する理解が見れらないような場合も含まれます。

いたずらに労基署を敵視するのではなく、自ら改善するのだという態度で臨みたいものです。

できれば、なるべく早い段階から、労基署対応に詳しい社会保険労務士に依頼することをお勧めします。

 

2022/07/22|1,489文字

 

<欠勤控除>

遅刻・早退・欠勤によって労働時間が減少した分だけ、きっちりその割合で給与を減らすことをいいます。

時間給であれば、労働時間分の賃金を計算しますから欠勤控除は問題となりません。

主に月給制の場合に問題となります。

また、「完全月給制」のように欠勤控除をしない場合には問題となりません。

 

<欠勤控除のルール>

欠勤控除について、労働基準法その他の法令に規定はありません。

しかし一般に、労働者の労務の提供がない場合には、使用者は賃金を支払う義務がなく、労働者も賃金を請求できないという「ノーワーク・ノーペイの原則」が認められています。

ですから、欠勤控除をすることは違法ではないのですが、計算方法について就業規則や賃金規程に明記しておく必要はあります。

就業規則がない会社では、労働条件通知書や雇用契約書に明記しなければなりません。

 

<基本給の欠勤控除>

基本給については、欠勤した日数・時間に比例して減額するのが一般です。

ただし、この減算方式によると、定められた計算式によっては、マイナスになってしまうことがあります。

基本給がマイナスというのは明らかに不合理ですから、欠勤が多い場合には、出勤した日数・時間に比例して基本給を加算する方法をとるのが一般です。

 

<手当の欠勤控除>

手当の欠勤控除についても、就業規則などに規定しておき、これに従って計算することになります。

客観的に見て不合理でなければ、各企業でルールを定めておけば良いのです。

ただし、たとえば年次有給休暇を取得すると不利益になるルールは、公序良俗に反するという理由で無効になる場合もあります。〔労働基準法第136条、民法第90条〕

その手当の性質や支給の趣旨に応じて、欠勤控除の計算方法を定めるのが良いでしょう。

 

<住宅手当の場合>

住宅手当を住宅費用の支出に対して支援する趣旨で支給している会社であれば、勤務日数・時間にかかわらず住宅費用は一定であると考えられますから、基本的には欠勤控除しないのが理論的です。

しかし、通勤の便を考えて、そこに居を構えていることに対する費用の一部を負担する趣旨で支給している会社であれば、出勤回数に応じて支給するのが理論的です。

どちらの趣旨も含んでいる会社であれば、間を取って、欠勤日数に応じて減額するというのも合理的です。

要は住宅手当をどのような趣旨で支給しているのか、その会社での住宅手当の性質が基準になるということです。

住宅手当の趣旨・性質が不明確なまま、正社員だけに支給している場合、同一労働同一賃金の問題が発生してしまいます。

 

<役職手当の場合>

その立場にあることや重い責任の負担に対して、役職手当を支給する趣旨であれば、勤務日数・時間にかかわらず負担は一定であるとも考えられますから、欠勤控除をしないのも合理的です。

しかし、勤務を通じて役職に応じた役割を果たすことの対価として、役職手当を支給しているのであれば、勤務時間に応じて支給するのが理論的です。

どちらの趣旨も含んでいる会社であれば、間を取って、欠勤日数に応じて減額するというのも合理的です。

 

<手当の見直し>

手当支給の趣旨を突き詰めていったら、現在の社会情勢からは合理性が疑われ、手当を廃止して基本給に合算することになったというのは珍しくありません。

この場合、単純に手当を廃止するのは、不利益変更禁止の原則に反しますから、少なくとも調整給を設けるなどの措置が必要となります。

実際に、住宅手当や家族手当は廃止する企業も増えています。

この機会に、手当支給の趣旨を再確認するとともに、手当の新設・廃止も検討することをお勧めします。

 

2022/07/21|1,247文字

 

<就業規則の改定>

従業員の一人ひとりに就業規則の冊子が配付されている会社で、いつの間にか内容が改定され、改定後の就業規則は配付されないということがあります。

その会社の責任者が一念発起して就業規則の冊子を作って配ったものの、その後は経費の関係で、あるいは人手不足の影響で、改定版までは作らなかったというパターンです。

この場合に、改定後の就業規則は有効なのでしょうか。

 

<就業規則の変更手続>

就業規則を変更する場合の手順は次のようになります。

・変更内容の社内決裁

・変更後の就業規則の作成

・変更した就業規則の周知(しゅうち)

・労働者代表などによる意見書の作成

・就業規則変更届の作成

・所轄労働基準監督署長への届出

そして、就業規則の変更内容が有効になるのは、 所轄労働基準監督署長への届出の時点ではなく、社内に周知した時点です。

 

<周知の重要性>

ここで、周知(しゅうち)というのは、広く知れ渡っていること、または、広く知らせることをいいます。

「周知の事実」といえば、みんなが知っている事実という意味です。

「就業規則の周知」という場合には、社内の従業員に広く知らせるという意味です。

ところが、ここでの「周知」には、具体的内容について従業員全員に教えておくというほどの強い意味はありません。

周知の方法としては、従業員に配付する、常時各作業場の見やすい場所に掲示・備え付ける、パソコンやスマホなどでいつでも見られるようにしておくなどの方法があります。

会社は、労働基準法の要旨も就業規則も周知しなければなりません。

たとえば、就業規則に「年次有給休暇は法定通り」と定めたならば、別に労働基準法の年次有給休暇の定めの内容を周知することになります。

訴訟になれば、周知しない就業規則の効力は否定されます。

たとえ、所轄の労働基準監督署長に届出をしていなくても、周知した就業規則の効力は認められます。

もっとも、届出も義務づけられていますので、怠ることはできません。

 

<周知を怠ると>

会社が改定後の就業規則を周知したのに、たまたま気づかない従業員がいたという場合には、改定後の就業規則は、その従業員に対しても有効です。

しかし、会社が改定後の就業規則を周知しなかったので、これを知らない従業員がいたという場合には、改定後の就業規則は、その従業員に対しては無効です。

たとえ、労働基準監督署への届出が済んでいても、その従業員に対しては無効なのです。

働き方改革の一環で、平成31(2019)年4月1日から一定の労働者に対して、年5日以上の年次有給休暇を取得させる義務が労働基準法に規定されました。

このこととの関連で、就業規則を改定し年次有給休暇の取得日を会社が指定する仕組を定めた会社も多数あります。

普段から年次有給休暇の取得率が低い会社では、こうした改定は必須でしょう。

また、年次有給休暇を一斉に付与する労使協定を交わした会社も多いでしょう。

こうした労使協定も、就業規則と同様に周知しなければならないことを忘れないようにしましょう。

 

2022/07/20|1,331文字

 

<健康保険法の規定>

保険料の負担と納付義務について、健康保険法に次の規定があります。

 

第百六十一条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。

2 事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

3 任意継続被保険者は、自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

4 被保険者が同時に二以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令で定めるところによる。

 

これによると、事業主と健康保険加入者(被保険者)が保険料を半分ずつ負担することになっています。

しかし、納付義務を負っているのは事業主です。

健康保険加入者が突然退職すると、事業主が健康保険加入者の負担分を給与から控除できないケースもあります。

この場合、事業主は保険料を一度は全額負担してでも保険料を納付し、退職した健康保険加入者に本人の負担分を請求することになります。

 

<厚生年金保険法の規定>

保険料の負担と納付義務について、厚生年金保険法にも次の規定があります。

 

第八十二条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。

2 事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

3 被保険者が同時に二以上の事業所又は船舶に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令の定めるところによる。

4 第二号厚生年金被保険者についての第一項の規定の適用については、同項中「事業主は」とあるのは、「事業主(国家公務員共済組合法第九十九条第六項に規定する職員団体その他政令で定める者を含む。)は、政令で定めるところにより」とする。

5 第三号厚生年金被保険者についての第一項の規定の適用については、同項中「事業主は」とあるのは、「事業主(市町村立学校職員給与負担法(昭和二十三年法律第百三十五号)第一条又は第二条の規定により給与を負担する都道府県その他政令で定める者を含む。)は、政令で定めるところにより」とする。

 

健康保険法とよく似た規定です。

 

<事業主が保険料の半分を負担する理由>

事業主が保険料を半分負担する理由は、公式に明示されてはいませんが、次のようなものが考えられています。

 

・健康保険や被用者年金について、法令が制定される前から、事業主によって独自の福利厚生が行われることがあった。つまり、事業主負担の実態がある程度は存在していた。

・社会保険によって、労働者のモチベーションが高まり生産性が向上する。また、健康保険による医療給付は労働者の職場復帰を早める。このように、社会保険は事業主にも利益をもたらす。

・私的な傷病や私的な原因による障害についても、労働による疲労やプライベートな時間の減少が遠因となることもあり、事業主も一部の責任を負担することが公平に適う。

・事業主の保険料負担は、事業主に対して、労働者の生活援助を法的に強制するものであり、社会連帯原理が社会保険に現れたものである。

 

ただ、なぜ事業主の負担割合が5割とされたのかは理由が曖昧です。

 

2022/07/19|792文字

 

<失業保険から雇用保険へ>

昭和22(1947)年5月3日に日本国憲法が施行され、第27条で勤労権が保障されました。

これによって、国家が国民に雇用の場を提供する責務を負ったことになります。

これを受けて、同年の12月1日に失業保険法が制定されました。

この法律は、失業保険の対象者が失業した場合に、失業保険金を支給して、その生活の安定を図ることを目的としていました。

さらに、勤労権保障の充実のため昭和50(1975)年4月1日失業保険法が廃止され、代わって雇用保険法が施行されました。

 

<雇用保険の目的>

雇用保険法の第1条に、この法律の目的が掲げられています。

「雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。」

 

<雇用保険で行われる給付と事業>

雇用保険法の目的に沿って、現在では次のような給付と事業が行われています。

 

求職者給付 基本手当、技能習得手当など
就職促進給付 就業手当、再就職手当など
教育訓練給付 教育訓練給付金
雇用継続給付 高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付
雇用安定事業 助成金の支給
能力開発事業 職業訓練など

 

この中の基本手当が、昔の失業保険金(失業手当)に相当します。

いまだに「基本手当」と言うよりは、「失業手当」と言った方が通じやすい状態です。

このうち給付の保険料は、労働者と使用者が折半します。

そして、事業の保険料は使用者が負担します。

また、保険料の他に費用の一部を国庫が負担します。

 

2022/07/18|435文字

 

<賃金の立替払とは>

事業主が破産手続開始の決定を受けたとき、労働者の請求に基づいて、政府が未払賃金の立替払をすることがあります。

このことは、「賃金の支払いの確保等に関する法律」の第7条に規定されています。

聞きなれない法律ですが、オイルショック直後に、不況による企業倒産や賃金未払の増加が著しかったために、その対策として制定されました。

 

<必要な条件>

次の2つの条件があります。

・1年以上労災保険の適用事業であったこと

・最初の破産手続開始の決定を受けた日などの半年前から1年半後までの2年間に、その事業を退職した者について未払賃金があったこと

つまり、退職してから半年以内に破産手続が開始すれば可能性があります。

 

<立替払の対象額>

未払賃金総額の80%が対象となりますが、退職日の年齢に応じて未払賃金総額には上限があります。

 

退職日の年齢

未払い賃金総額の上限

 30歳未満

110万円

 30歳以上45歳未満

220万円

 45歳以上

370万円

 

この制度の窓口は、労働基準監督署です。

 

2022/07/17|1,019文字

 

<労災保険の保険証>

労災保険が適用される労働者は、適用事業に使用される労働者です。

雇用形態に関係なく、賃金を支払われている人はすべてが対象者です。

契約社員、嘱託社員、アルバイト、パート、日雇い労働者も対象となります。

不法就労を含む外国人労働者も対象者です。

派遣社員は、派遣元で対象者になります。

雇用保険や健康保険では個人に保険証(被保険者証)が交付されますが、労災保険では交付されません。

保険料は全額事業主が負担します。

この結果、保険証は持っていないし、給与から保険料は控除されていないけれども、労災保険には入っているという状態になります。

 

<適用事業>

労災保険法が「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定しています。〔第3条第1項〕

個人事業主であっても労働者を雇えば、労災保険の適用対象となります。

ただし、公務員、農林水産業従事者の一部は対象外です。

 

<適用されることの意味>

赤ちゃんが生まれれば、その子について出生届が提出されなくても、一人の人間としての人権を保有することになります。

出生届を提出しなければ、生まれなかったことになったり、その子は人権が無いなどということにはなりません。

これと同じように、事業主が所轄の労働基準監督署長に「労働保険関係成立届」を提出しなくても労災保険は適用されます。

たとえ事業主が、保険料の納付を逃れ、労働基準監督署や労働局の監督を逃れる意図で届出をしなくても、そこで働く人々には労災保険が適用されるのです。

 

<届出しないリスク>

事業主が届出を怠っていて、これが発覚したときには大きな不都合が発生します。

何も労災事故が発生しないうちに発覚したのであれば、遡って手続をして、遡って保険料を納めるだけで済みます。

しかし、たとえば従業員が自転車に乗って出勤する途中で転倒し、意識を失ったまま病院に運ばれれば、通常は労災保険が適用されるでしょう。

なぜなら、家族や友人が駆けつけて、通勤途上の事故だと話すからです。

この場合には、事業主が治療費を負担させられ、賃金の補償もさせられます。

労災事故には健康保険が適用されませんから、3割負担ではありません。

事業主は100%負担で高額になりますから、場合によっては、事業の運営ができなくなります。

さらに、マイナンバー制度は今後も利用範囲が拡大されていきます。

法人番号と個人番号から、届出をしていない事業主が一斉に摘発される日も近いことでしょう。

 

2022/07/16|1,254文字

 

<社内規程の必要性>

個人のスマホからのネット投稿が原因で、会社の信用が低下したり、閉店したりというニュースが続いたこともありました。

今でも、こうした事件が後を絶ちません。

仲間同士での内輪受けを狙って気軽に送信したものが、仲間の1人からネットに公開されてしまい、全世界に広まるというパターンです。

会社が仕事のために従業員に使わせているパソコンやスマホは、本来的に業務外の使用が認められない会社の所有物です。

私物の使用を規制するのは困難でも、会社の物品なら合理的な範囲での規制が許されます。

会社を守るためにも、また安易な私用で従業員が非難されないためにも、就業規則に使用規程を加えることが必要でしょう。

 

<企業秘密の漏えい防止>

インターネットの私的利用によって、ウイルスに感染する可能性が高まります。

ウイルスに感染した端末から企業秘密が漏れることもあります。

就業規則には、私的利用の禁止を明確に定めましょう。

これと連動して、懲戒規定にもこれに対応する定めが必要となることもあります。

また内容的には重複するのですが、パソコンやスマホの貸与をする場合には、私的利用をしない旨の誓約書を提出してもらうのが有効です。

 

<モニタリング規定>

労働時間中は、労働者は使用者の指揮命令下に置かれています。

これを使用者の側から見れば、労働者の業務を監視するという関係にあります。

ですから、本来、会社は端末内のデータを確認する権限をもっているわけです。

とはいえ、会社が端末内のデータを確認するとまでは思っていない労働者が、端末内にプライベートなデータを残すかもしれません。

この場合に、会社には権限があるということで、プライバシーをあばいてしまったら、会社の方が非難されるかもしれません。

そうならないように、就業規則には、会社が端末内のデータを閲覧できる旨を規定し、きちんと周知しておきましょう。

 

<従業員教育>

就業規則に定めただけでは安心できません。

全従業員に周知しなければ、就業規則は周知されない人に対しては効力が認められません。

また、教育も重要です。

いや、教育の方が重要です。

仲間同士での内輪受けを狙って気軽に送信したものが、仲間の1人からネットに公開され全世界に広まってしまい、会社の信用が低下したり店舗が閉店に追い込まれたりの被害が発生しうるのです。

その結果、気軽に送信した人やその親が、多額の損害賠償を請求されることもあります。

こうした具体的な説明が必要です。

規程の作成と従業員教育をセットで任せるなら、国家資格を保有する専門家の社会保険労務士がお勧めです。

 

<解決社労士の視点から>

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、在宅勤務が急速に拡大しました。

これに対応して、テレワーク規程も整備されてきました。

しかし、テレワークにはパソコンやスマホの利用が不可欠です。

テレワーク規程だけを整備しても、パソコン・スマホ使用規程を置かなければ、会社も従業員も守ることができません。

ぜひとも、パソコン・スマホ規程の整備をお勧めします。

 

2022/07/15|689文字

 

<労働基準法での使用者の定義>

「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」〔労働基準法第10条〕

ここに書いてある「事業主」とは、個人事業なら事業主ですし、会社なら会社そのものです。

「事業の経営担当者」とは、代表者、取締役、理事などです。

「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」の中に、人事部長や労務課長などが含まれることも明らかです。

 

<社外にもいる使用者>

「使用者」というと、会社の中にいる人の一部というイメージなのですが、「労働基準法に基づく申請などについて事務代理の委任を受けた社労士が、仕事をサボってその申請などを行わなかった場合には、その社労士は労働基準法第10条の使用者にあたり、労基法違反の責任を問われる」という内容の通達もあります。〔昭和62年3月26日基発169号〕

 

<結論として>

労働基準法の他の条文や通達を全部合わせて考えると、「使用者」とは労働基準法で定められた義務を果たす「責任の主体」だということがわかります。

社労士は会社のメンバーではないのですが、労働基準法で義務づけられていることを、会社の代わりに行う場合には、その業務については「使用者」になるわけです。

また、人事部の中の担当者やお店で人事関係の事務を扱う人は「労働者」なのですが、労働基準法で義務づけられたことを行う場合には、その業務については「使用者」でもあるわけです。

労働基準法の定義している「使用者」の範囲は、意外と広いのだということを覚えておきましょう。

 

2022/07/14|1,590文字

 

<労働契約法ができた理由>

労働契約法は、労働契約に関する基本的な事項を定める法律です。

平成19(2007)年12月5日公布、平成20(2008)年3月1日施行です。

この法律は、個別労働紛争での予測可能性を高めるためにできました。

個別労働紛争というのは、労働組合が絡まない「会社と労働者個人との間の労働紛争」です。

労働基準法をはじめとする数多くの労働法は、その内容が抽象的なこともあり、労働紛争が裁判になったらどんな判決が出るのか、条文を読んでもよくわからないケースが増えてしまいました。

そこで、数多くの裁判例にあらわれた理論を条文の形にまとめたのが労働契約法です。

個別労働紛争が発生したり発生しそうになったときに、読みにくい判決文を参照しなくても、労働契約法を読めば裁判になったときの結論が想定しやすくなったのです。

 

<労働法の一般的な特色>

労働法というのは、1つの法令の名称ではなく、労働関係や労働者の保護についての法令の総称です。

もともと民法の契約自由の原則が適用されていた労使関係について、労働者の生存権という法理念による修正をする法体系です。

使用者と労働者との関係を形式的に見れば、契約の当事者であり平等な立場ですから、労働契約も他の契約と同じように当事者の自由な話し合いに任せればよいということになります。これが契約自由の原則の考え方です。

ところが、現実の資本主義経済では労働者の立場が非常に弱く、憲法第25条の保障する生存権がおびやかされてしまいます。

そこで、法律が労働者を保護するようになりました。この労働者保護が労働法の基本理念になっています。

 

<労働契約法第1条>

「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」〔労働契約法第1条〕

これが労働契約法の目的ですが、「労働者と使用者の自主的な交渉」に任せていては「労働者の保護」が図れないことも多いでしょう。

 

<労働契約法の5原則>

労使対等の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第1項〕

均衡考慮の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第2項〕

仕事と生活の調和への配慮の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第3項〕

信義誠実の原則 = 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。〔第3条第4項〕

権利濫用の禁止の原則 = 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。〔第3条第5項〕

 

<労働契約法の役割>

労働基準法には「使用者は、」で始まる条文が多く、使用者だけに罰則が適用されるのですが、労働契約法には「労働者及び使用者」ということばが多く、罰則規定はありません。

労働契約法は、民法の特別法としての性格を持つため、労働基準監督官による監督・指導は行われず、行政指導の対象ともなりません。

たとえば使用者に安全配慮義務〔労働契約法第5条〕の違反があって、労働者が労働基準監督署に相談しても、指導してもらうことはできないのです。

この法律は、あっせん、労働審判、訴訟での基準を示しているにすぎません。

結局、労働契約法が労働者を保護する役割は、範囲が限定されているといえます。

 

2022/07/13|1,405文字

 

<賃金格差の公表義務化>

大企業に男女の賃金の差異の情報公表が義務化されます。

令和4(2022)年7月8日、厚生労働省が女性活躍推進法の省令・告示を改正し同日施行しました。

今回の改正により、女性の活躍に関する情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加され、常用労働者301人以上の大企業に対し、情報公表が義務化されます。

 

<実施時期>

女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の開示義務化は「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(令和4年6月7日閣議決定)で、今夏の制度改正実施・施行が決まっていました。

常用労働者301人以上の事業主には、令和4(2022)年7月8日以降に終了する事業年度の次の事業年度の開始日からおおむね3か月以内に、直近の男女の賃金の差異の実績を情報公表することが義務付けられます。

事業年度が4月から翌年3月までの場合、令和4(2022)年4月から令和5(2023)年3月までの実績を、おおむね同年6月末までに公表しなければなりません。

 

<公表内容>

「男女の賃金の差異」は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示します。

「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の区分での公表が必要です。

「正規雇用労働者」から社外への出向者は除かれます。

賃金から通勤手当等は除かれます。

 

<「説明欄」の有効活用>

求職者等に対して、比較可能な企業情報を提供するという目的から、「男女の賃金の差異」は、すべての事業主が共通の計算方法で数値を公表する必要があります。

その上で、「男女の賃金の差異」の数値だけでは伝えきれない自社の実情を説明するため、事業主の任意で、より詳細な情報や補足的な情報を公表することもできます。

自社の女性活躍に関する状況を、求職者等に正しく理解してもらうためにも、『説明欄』を有効活用し、追加的な情報の公表をしましょう。

例としては、次のような情報の公表が考えられます。

・女性活躍推進の観点から、女性の新卒採用を強化した結果、前年と比べて相対的に賃金水準の低い女性労働者が増え、男女賃金格差が前事業年度よりも拡大した。

・より詳細な雇用管理区分(正規雇用労働者を正社員、勤務地限定正社員、短時間正社員に区分する等)があり、属性(勤続年数、役職等)が同じ男女労働者の間での賃金の差異は大きくない。

・「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の区分での賃金についてその時間単価の格差は小さい。

・時系列で男女の賃金の差異を公表し、複数年度にわたる変化を示すことで、賃金格差解消に向かっている傾向を明らかにする。

 

<解決社労士の視点から>

常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主は、16項目から任意の1項目以上の情報公表が必要とされています。

ここで、「男女の賃金の差異」を選択しなければ、賃金格差の公表義務を負わないことになります。

しかし他の制度同様に、一定の期間を経て、101人以上300人以下の事業主にも必須項目とされるようになり、あるいは51人以上の事業主にも公表義務が課されるなどの省令・告示改正も予想されます。

また、公表義務の有無にかかわらず、男女賃金格差の縮小がリクルートの面だけでなく、女性労働者のモチベーションを向上させ、企業の評判を高めることに役立つことは明らかでしょう。

 

2022/07/12|636文字

 

<労働法の世界での行政通達の役割>

行政通達は、行政機関が行政上の取扱いの統一性を確保することを目的として定める指針です。

その内容は、法令の解釈、運用・取扱基準や行政執行の方針などです。

労働法の世界では、労働者を保護するための法令が多数制定されています。

しかし、現実の世界で生じる具体的な問題や紛争のすべてをカバーすることはできません。

法令が予定していないことも起こるのです。

また、法令というのは、抽象的な表現を多く含んでいます。

そのため、いくつもの解釈が成り立ちうることがあります。

これでは、法令の適用によって労働者と使用者の両方が納得する結論を出すことができません。

そこで、行政通達を発することによって、行政機関が法令の解釈・運用・取扱の基準とすることができるようにしているのです。

 

<行政通達の効力>

行政通達は、あくまでも行政機関内部の指針です。

国民の権利・義務を直接に規律するものではありません。

しかし、たとえば労働基準監督署が企業の監督に入り指導する場合には、行政通達の基準に従って指導します。

ですから、事実上の強制力をもっていると考えられます。

たとえば、行政通達そのものの効力を争って、企業が裁判を起こしても門前払いとなります。

しかし、行政通達に従った指導によって、企業が不当な損害をこうむった場合には、国家賠償を求める形で争うことはできます。

これを裏から言えば、企業が確信をもって裁判で争う気がないのなら、行政通達に基づく指導に従わざるをえないということです。

 

2022/07/11|1,568文字

 

<試用期間の低賃金>

正社員として月給25万円で採用、ただし3か月間は試用期間で月給22万円とするなど、試用期間だけ労働条件が異なるパターンは多いですね。

ここで、試用期間は時給1,200円の契約社員とするのならよいのですが、月給の時間単価が最低賃金を下回るというのは法令違反です。

「月給 ÷ 所定労働時間」を計算して確認しておきましょう。

所定労働時間が決まっていないなどで、法令を無視した条件を設定しないように注意したいものです。

 

<試用期間終了で雇用契約終了>

4月から6月まで試用期間の新人が、どうも会社の正社員としての要件を満たしていないので、辞めていただこうという場合、6月に入ってから「本採用はありません。試用期間の終了をもって退職していただきます」という話をすると、解雇予告手当の支払が必要となります。

解雇予告手当の支払を避けるには、5月中に見極めて通告することが必要です。

ただし、14日以内に見極めて解雇を通告する場合には、解雇予告手当の支払が不要です。

しかし、14日以内に見極めのつく人を採用するのは例外でしょう。

これは採用の失敗ともいえます。

なお、14日以内なら無条件で解雇できるわけではなく、解雇の厳密な条件を満たしていなければ、不当解雇となって、会社が損害賠償責任を負うことは言うまでもありません。

 

<試用期間の延長>

ブラック企業が、不当に人件費を削減するために、試用期間の延長を繰り返して安い給料の支給を続けることがあります。

そうではなくて、「人物的にはいいけれど、ミスが多いのと、報告を忘れるのが気になる」などの理由で、もう少し様子を見たいということがあります。

この場合に、ご本人と面談して、試用期間の終了をもって辞めるか、試用期間を1か月延長するか相談し、試用期間の延長を選んだとします。

それでも、やはり正社員にするには能力不足を感じるので辞めていただいたとします。

すると、「一方的に」試用期間を延長されたことに対する慰謝料の請求などで訴えられる恐れがあります。

訴訟になれば、客観的な証拠がものをいいますから、いつどんなミスをしたか、いつどんな報告を忘れたか、いつ試用期間延長の話をして、どのように同意したのかなどなど事実の記録を詳細に残しておかないと、会社が敗訴する可能性が高まります。

 

<社会保険の加入>

試用期間の初日から、厚生年金や健康保険に入るのが法律の定めです。

これを避けるためには、試用期間ではなくて2か月限定の有期労働契約とすることです。

そして、この2か月間の勤務成績が優秀であれば、正社員に抜擢することがあるというのなら、正社員になったときから社会保険加入でかまいません。

しかし、2か月の有期契約で採用されることを希望する人は稀でしょう。

もっとも、この手が使えるのは令和4(2022)年9月までの話です。

10月以降は、2か月を超えて勤務する可能性がない場合を除き、試用期間であっても初日から社会保険に入らなければなりません。

 

<試用期間クリアの基準>

試用期間終了後に本採用するかどうかの基準が、「正社員としてふさわしい」などの抽象的な基準だと、それ自体が争いの種になります。

基準を満たしているかどうかの判断が、客観的にできないからです。

採用にあたっては、「遅刻・欠勤しないこと。社員・お取引先・お客様には明るく元気にあいさつすること。電話応対が同僚と同レベルでできること。報告・連絡・相談を怠らないこと」など、試用期間クリアの基準を、書面にまとめて説明し渡しておくことをお勧めします。

なかには、この基準をクリアする自信のないことを理由に、採用を辞退する人もいるでしょう。

それはそれで、無駄な採用をしなくて済んだことになります。

また、無理に試用期間を延長して、トラブルになることも防げると思います。

 

2022/07/10|2,232文字

 

<これからの労働時間制度に関する検討会>

令和4(2022)年7月1日、厚生労働省の第15回これからの労働時間制度に関する検討会が開催されました。

この中で、これまでの議論が整理され、労働時間制度の現状と課題等が示されました。

 

<経済社会の変化>

この検討会では、経済社会の変化について、次のようにとらえられています。

 

・少子高齢化や産業構造の変化が進む中で、近年ではデジタル化の更なる加速や、新型コロナウイルス感染症の影響による生活・行動様式の変容が、労働者の意識や働き方、企業が求める人材像にも影響している。

・コロナ禍でのテレワークの経験等により、労働者の意識も変化した。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を求めるニーズが強まっていく。

・デジタル化の進展に対応できるような、創造的思考等の能力を有する人材が一層求められていく。企業は、企業の求める能力を持った多様な人材が活躍できるような魅力ある人事労務制度を整備していく必要に迫られる。

 

政府は、1つ目と3つ目のデジタル人材の必要性について盛んにアピールしていますが、企業はこれについて認識を深めているとはいえません。

政府の主張どおりであれば、どこかの時点でデジタル人材の獲得競争が顕在化するでしょう。

2つ目の「柔軟な働き方を求めるニーズ」の中には、柔軟な働き方を可能とする労働環境の整備も含まれていると考えられます。

コロナ禍での付け焼き刃的なテレワークの導入により、生産性の低下や個人の負担の増大も強く意識されたからです。

 

<基本的な考え方>

これからの労働時間制度について、次の3点が基本的な考え方として示されています。

 

・どのような労働時間制度を採用するにしても、労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていくことが必要である。

・労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるよう、可能な限りわかりやすい制度にしていくことが求められる。

・どのような労働時間制度を採用するか、労使当事者が現場のニーズを踏まえ十分に協議したうえで、その企業や職場、職務内容にふさわしいものを選択、運用できるようにするべきである。

 

目新しいものはなく、従来の考え方を踏襲した内容となっています。

 

<時間外・休日労働の上限規制等>

施行状況や動向等を把握し、効果を見極めたうえで施行後5年経過時の検討をすべきである。

 

働き方改革関連法により設けられた時間外・休日労働の上限規制等については、施行後5年経過時に検討することとされていますが、実態としての施行状況や動向から、法改正の効果を見極めたうえでの判断が必要としています。

 

<フレックスタイム制>

コアタイムのないフレックスタイム制を導入する企業もみられるなど、今後も制度の普及が期待される。

 

フレックスタイム制については、清算期間の上限を3か月とする法改正も行われましたが、制度の使いにくさから、ほとんど導入が進んでいません。

こちらも再検討が必要でしょう。

 

<事業場外みなし労働時間制>

情報通信技術の進展等も踏まえ、本制度の対象とすべき状況等について改めて検討が必要である。

 

単にスマートフォンを携帯させているだけでは、労働時間の算定ができる状態とはいえないとされています。

しかし、労働時間の算定が困難な状態とは、どのようなことをいうのか、具体的に明らかにされていないため、自信をもって運用することができません。

やはり、公式の基準が示されるべきでしょう。

 

<管理監督者>

該当要件につき、各企業でより適切に判断できるようにする観点等からの検討が必要である。

 

管理監督者の範囲を不当に広く解釈している企業も多く、労働基準監督署の立入調査(臨検監督)でも、しばしば指摘されているところです。

しかし、厚生労働省から示されている抽象的な基準や具体例だけでは、判断に苦しむのも確かですので、客観的で具体的な基準の提示が望まれます。

 

<年5日の有給取得>

さらなる取得率向上のためより一層の取組みが求められる。

 

年次有給休暇の取得義務ということが強調され、労働者の望まない取得も見られます。

また、計画的付与制度が導入されている企業で、労使協定が周知されておらず、制度の趣旨が理解されていないこともあります。

現行制度の理解促進に取り組むことも必要でしょう。

 

<時間単位年休>

年5日を超えて取得したいという労働者のニーズに応えるような各企業独自の取組みを促すことが必要である。

 

時間単位年休は、年5日分までという制限があります。

年次有給休暇の付与日数が、法定の日数を超えている部分や、法定外の特別休暇については、時間単位にするなど企業独自の仕組みを導入できますから、これを促進しようということです。

 

<勤務間インターバル制度>

当面は引き続き企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である。

 

勤務間インターバル制度を導入している場合、深夜残業の翌日の出勤時刻は遅くなりますから、この日もまた深夜労働となる恐れがあります。

時間単位年休などを活用できる企業はともかく、実情を踏まえずに促進はできません。

 

<裁量労働制>

裁量労働制については、見直すべきポイントが数多く挙げられています。

また、見直しにあたっては、労働者が理解・納得したうえでの制度の適用および裁量の確保、労働者の健康および処遇の確保、労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保を軸として検討されるべきだとしています。

 

2022/07/09|1,352文字

 

<憲法に規定されていること>

日本国憲法は、昭和22(1947)年5月3日 に施行されました。

その目的は、私たちが人間らしく生きていけるようにすることです。

この目的に沿って規定されている内容は、主に次の2点です。

・日本国民の一人ひとりが人間らしく生きていく権利(基本的人権)の保障

・権力が日本国民の基本的人権を侵害しないようにする権力細分化のしくみ

 

<権力細分化のしくみ>

国家権力が、王様のような一人の人間に集中すると、私たちが人間らしく生きていくのに必要な基本的人権は、その人の感情によって簡単に侵害されてしまいます。

そうしたことがないように、憲法は権力を細かく分割するしくみを定めました。

・国家権力を、立法権・行政権・司法権に分けました。三権分立です。

・立法権のある国会を衆議院と参議院に分けました。

・行政権を内閣と多くの行政機関に分けました。

・司法権を最高裁判所・高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所に分けました。

・地方分権のため、都道府県とその下に市町村を設けました。

・この他、政党や派閥の存在を認めています。

このように国家権力が細分化されたことによって、誰か一人の偉い人が、自分だけの考えで好きなことを自由にできなくなりました。

もし、そうしたことをすれば、国民や住民の批判にさらされることになります。

今後も、選挙制度が正しく機能している限り安心です。この意味で、私たちが投票に行くことはとても大切です。

 

<基本的人権の保障>

日本国民の一人ひとりが人間らしく生きていくための最低限の権利として生存権が規定されています。

「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の保障です。〔憲法第25条〕

生活保護などの諸施策は、この規定が根拠となっています。

さらに、国が生存権の保障をできるように財源を確保するしくみも定めています。

・「文化的な生活」ができるための義務教育〔憲法第26条〕

・教育を受けた人が働く権利と義務〔憲法第27条〕

・立場の弱い働き手が団結する権利〔憲法第28条〕

・働いて得た財産を自分のものとする権利〔憲法第29条〕

・収入や財産によって税金を納める義務〔憲法第30条〕

・そしてこの税金を使って守られる生存権〔憲法第25条〕

このように、憲法第25条から第30条までは循環する関係にあります。

 

<労働基準法の役割>

日本国憲法第27条第2項が「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しているのを受けて、労働基準法が制定されました。

労働基準法は、労働条件の最低基準を定めて、使用者に強制的に守らせることによって、労働者を保護しています。

労働基準法ができる前は、民法の「契約自由の原則」によって、労働者に不利な労働契約も許されていました。

それが、労働基準法の制定によって、労働者が人間らしく生きていく権利を確保するため、労働基準法違反の労働契約は許されなくなったのです。

労働基準法は、労働者を保護するため、使用者に対する罰則をたくさん規定しています。一方、労働者に対する罰則はありません。

労働者の権利は、労働基準法をはじめ多くの労働法によって保護されているのです。

ただし、権利の濫用は許されませんので、念のため。〔憲法第12条、労働契約法第3条第5項〕

 

2022/07/08|1,283文字

 

<懲戒処分の種類>

民間企業での懲戒処分の種類は、会社によって名称が違うものの、一般的には次のようなものです。

  • 懲戒解雇
  • 諭旨解雇 ― 自主的に退職を申し出てもらうよう促します
  • 降格
  • 出勤停止
  • 減給
  • 譴責(けんせき)― 始末書を提出させるなどして反省してもらいます

 

<懲戒処分の制限>

就業規則や労働条件通知書に具体的な規定があることが大前提です。

就業規則がなくて、新人に労働条件通知書も交付していない会社であれば、何も懲戒処分ができません。〔労働基準法第89条〕

こうしたルールが事前に表示されていないのに懲戒処分が行われたなら、使用者と労働者の関係ではなく、王様と奴隷の関係になってしまいますから当然のことです。

減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、総額が1賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという制限があります。〔労働基準法第91条〕

賞与から減額する場合も同じです。

たとえば月給の総支給額が平均30万円なら、平均賃金の1日分は約1万円ですから、1つの減給処分でできる減給は約5千円です。

もし、いくつもの懲戒理由が重なって、いくつもの減給処分が重なっても、約3万円までとなります。これを超える減給は、労働基準法違反となります。

 

<懲戒処分の比較>

懲戒解雇と諭旨解雇とでは、就業規則で退職金の支払額に差を設けていることが多いので、退職金の支払がゼロとなりうる懲戒解雇が最も重い処分ということになります。

降格という処分は微妙です。

あえて懲戒処分にしなくても、人事考課で評価を下げるとか昇進を停止するとか左遷するなどによって同様の効果が得られるので、あえて懲戒処分とする必要性は疑わしいものです。

ただし、人事考課を含めきちんとした人事制度がない会社では懲戒処分も必要でしょう。

減給については、労働基準法の制限が厳しいですから、出勤停止のほうが重い処分になります。

たとえば、1週間の出勤停止であれば、就業規則に定めた計算方法に従って、給与からそれだけの欠勤控除ができます。

譴責の効果は、対象者によって大きく異なります。

普段から、事務職で文書作成を業務としている社員にとって、始末書の作成はあまり負担になりません。

減給1,000円のほうが辛いでしょう。

しかし、普段全く文書を作成しない社員にとって始末書の作成は大きな負担となります。

減給1万円のほうが楽かもしれません。

もっとも、譴責処分に必ず始末書の作成が伴うわけではなく、就業規則の規定によります。

 

<どの懲戒処分を選ぶか>

基本的には就業規則の定めに従うことになります。

しかし「懲戒解雇とする。ただし、本人が深く反省しているなど情状酌量の余地があるときは、諭旨解雇または降格にとどめることがある」などと幅を持たせる規定も多く見られます。

こうした場合には「どうして一段下の懲戒処分ではダメなのか」ということを、よく考えて決めることになります。

対象者によっては、減給より譴責のほうが辛いということもあるのですから、よく考えて一段軽い処分を選択するのも効果的でしょう。

 

2022/07/07|1,697文字

 

<職場における学び・学び直し促進ガイドライン>

令和4(2022)年6月29日、厚生労働省が「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定し公表しました。

前年12月の労働政策審議会建議『関係者の協働による「学びの好循環」の実現に向けて(人材開発分科会報告)について』を踏まえ、労働政策審議会人材開発分科会では議論が重ねられてきました。

企業・労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化し、労働者の職業人生の長期化も同時に進行する中で、労働者の学び・学び直しの必要性が益々高まっています。

変化の時代においては、労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」が重要であり、学び・学び直しにおける「労使の協働」が必要となります。

厚生労働省は、このような背景を踏まえて、ガイドラインを策定したと説明しています。

今回策定された「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」では、職場における人材開発(「人への投資」)の抜本的な強化を図るため、基本的な考え方や、労使が取り組むべき事項、公的な支援策等が体系的に示されています。

 

<基本的な考え方>

ガイドラインの基本的な考え方として、次の内容が示されています。

急速かつ広範な経済・社会環境の変化は、企業内における上司・先輩の経験や、能力・スキルの範囲を超えたものであり、企業・労働者双方の持続的成長を図るためには、企業主導型の教育訓練の強化を図るとともに、労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを促進することが、一層重要となります。

労働者の学び・学び直しを促進するためには、労使が「協働」して取り組むことが必要となります。

特に、次の1~4が重要です。

1 個々の労働者が自律的・主体的に取り組むことができるよう、経営者が学び・学び直しの基本認識を労働者に共有

2 管理職等の現場のリーダーによる、個々の労働者との学び・学び直しの方向性・目標の「擦り合わせ」や労働者のキャリア形成のサポート。併せて、企業による現場のリーダーへの支援・配慮

3 キャリアコンサルタントによる学び直しの継続に向けた労働者に対する助言・精神的なサポートや、現場のリーダー支援

4 「労働者相互」の学び合い

学び・学び直しにあたっては、雇用形態等にかかわらず、学び・学び直しの基本認識の共有や、職務に必要な能力・スキル等の明確化を踏まえた学び・学び直しの方向性・目標の擦り合わせ、学びの機会の提供、学び・学び直しを促進するための支援、学びの実践・評価という、「学びのプロセス」を踏まえることが望ましいといえます。

学び・学び直しが実践されることで、学びの気運や企業風土が醸成・形成され、キャリアの向上を実現し、より高いレベルの新たな学び・学び直しを呼び込むという「学びが学びを呼ぶ」状態、いわば、「学びの好循環」が実現されることが期待されます。

 

<労使が取り組むべき事項>

また、労使が取り組むべき事項として、次の1~6が挙げられています。

1 学び・学び直しに関する基本認識の共有

2 能力・スキル等の明確化、学び・学び直しの方向性・目標の共有

3 労働者の自律的・主体的な学び・学び直しの機会の確保

4 労働者の自律的・主体的な学び・学び直しを促進するための支援

5 持続的なキャリア形成につながる学びの実践、評価

6 現場のリーダーの役割、企業によるリーダーへの支援

 

<解決社労士の視点から>

新型コロナウイルス感染症拡大前までの短期間に、人手不足が急速に進みました。 

その過程で、人材を育成するのに必要な人手の確保も、育成される側のまとまった時間の確保も困難となりました。

また、未経験者を育て戦力化することよりも、即戦力の採用を強化する傾向が見られました。

働き方改革により期待された国全体の生産性向上も、IT人材・DX人材の確保も進んでいません。

こうした状況を打破するため、労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを国が主導する事態となっています。

「利は仕入にあり」とはいうものの、これが困難な今、企業は「利は教育にあり」と心得て、人材育成や自己啓発の支援に取り組むべきでしょう。

 

2022/007/06|1,014文字

 

<法律の規定>

健康保険法には次の規定があります。

 

【保険料の負担】

第百六十一条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。

 

厚生年金保険法にも次の規定があります。

 

【保険料の負担】

第八十二条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。

 

こうして社会保険料、つまり健康保険料と厚生年金保険料は、労働者と雇い主とで半分ずつ負担することになります。

ただし、建設業で土建組合に加入している企業の場合には、健康保険ではなく土建国保に加入することとなり、その企業の判断により、労使折半であったり全額が労働者の負担であったりします。

それでも、厚生年金保険料は労使折半です。

 

<労働者の全額負担>

法律の規定にもかかわらず、「社会保険への加入を望むなら、保険料は全額自己負担」という違法なことをしている企業があります。

こうした企業では、経営者が自己の取り分を増やそうとして、このような違法を貫いているのでしょうか。

たしかに、労働者が社会保険に加入すれば、会社の負担も増えることになります。

しかし、会社はこの負担も計算に入れたうえで、月給や時給を設定するのではないでしょうか。

15年前には、社会保険に入りたがらないフリーター(有期フルタイム労働者)が多くいて、採用面接をしていても社会保険加入の説明をすると辞退してしまうことがありました。

とにかく手取り収入を増やしたいということだったのです。

今では、老後の生活に対する不安もあってか、社会保険に加入できないことがリスクだと考えられるようになっています。

「社会保険に入りたかったら、保険料は全額自己負担」という違法な取り決めも、昔は労働者のニーズに適合した部分があります。

しかし、今やブラック企業として敬遠されています。

求人広告には高めの時給を示しておきながら、社会保険料は全額自己負担というやり口は、いかにもブラック企業です。

会社が社会保険料の半分を負担していては、会社の経営が成り立たないのであれば、その会社は遵法経営ができないということであり、その会社が存在していることの社会的意義が問われてしまいます。

社会保険料を全額自己負担にしている経営者の方や、そうした会社で勤務している方々には、労使折半にできる工夫をしていただきたいです。

どうしても、改善できないのであれば、その事業を継続することの意義を再確認していただきたいです。

 

2022/07/05|1,761文字

 

<懲戒処分の目的>

懲戒処分を行う目的は、主に次の3つです。

 

1.懲戒対象者への制裁

懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

2.企業秩序の回復

会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

3.再発防止と労働者の安心

社員一般に対してやって良いこと悪いことの具体的な基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

1.の目的からすると、懲戒処分の対象事実や処分の内容を公表する必要はありません。

しかし、公表しなければ2.と3.の目的が果たされませんから、ある程度公表することは必要です。

 

東京地裁の判決で、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえないと解される」としています(東京地裁平成19年4月27日判決 X社事件)。

 

<名誉毀損の問題>

懲戒処分の対象となった事実や懲戒処分の内容を公表した場合に、それが真実であれば会社が責められる理由は無いだろうというのは素人の考えです。

名誉毀損について、刑法は次のように規定しています。

 

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、生きている人のことについては、真実であろうとなかろうと名誉を毀損することは犯罪になるということです。

こうして犯罪が成立しうるということは、損害賠償請求の対象ともなりうるということです。

 

東京地裁の判決で、懲戒解雇の事実や理由を公表することが適法とされるためには、公表行為が「その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限られる」としました(東京地裁昭和52年12月19日判決 泉屋東京店事件)。

そもそも、懲戒処分が労働契約法第15条により無効とされた場合は、公表が名誉毀損等の不法行為に当たることが多いといえます。

 

<必要最小限の社内公表>

前掲の泉屋東京店事件判決の基準によると、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限り許されることになります。

まず、懲戒処分対象者の氏名そのものや、所属・性別・年代など個人を特定できる情報は、これを公表することによる名誉権侵害は著しいので、基本的には許されません。ただ、懲戒処分を行う目的を果たすために、個人の特定が必要不可欠であるような例外的な場合にのみ許されます。

つぎに、懲戒処分の内容を公表することも、懲戒処分の目的である企業秩序の回復、再発防止、労働者の安心を図るために一定の範囲内で必要性が認められます。しかし、懲戒処分の理由を具体的に記載することにより、個人の特定が可能となってしまう場合には、やはり名誉毀損となる恐れが強まります。

さらに、被害者がいる場合には、被害者の名誉に対する配慮も必要となります。セクシャルハラスメントの事案で、ある程度詳細な事実を公表することで、処分対象者と被害者両方が特定されてしまい、被害者の名誉権が侵害されることにもなります。

 

<会社が責められないために>

就業規則には、懲戒処分の社内公表に関する規定を設けておくことが必要です。規定さえあれば、許されるわけではないですが、こうした規定があることは、裁判でも公表が相当であるという判断に傾く一要素となりえます。

また、公表の内容としては、「就業規則第◯条第◯項の『○○○○』に該当したため、第◯条第◯項の手続きに従い、第〇条第〇項の処分が行われました」というものに留めるのが得策です。

さらに、公表の方法としては、社内のイントラネットなどで「社外秘」として、1週間程度に期間を限定して行うという配慮も必要です。

 

2022/07/04|899文字

 

<送検状況の概要>

令和4(2022)年6月30日、東京労働局が令和3年度の送検状況を取りまとめ公表しました。

令和3(2021)年4月から令和4(2022)年3月までの1年間に、東京労働局と管下の労働基準監督署(支署)では、81件(前年度比11件増)の司法事件を東京地方検察庁に送検しました。

送検した司法事件の違反事項をみると、労働安全衛生法が定める危険防止措置に関する違反が36件となっているなど、労働安全衛生法違反の事案が増加(前年度比9件増)しています。

また、労働基準法・最低賃金法では、賃金・退職金不払に関する違反や労働時間に関する違反等がみられました。

業種別でみると、建設業(17件)が最も多く、ついで清掃・と畜業(15件)となっています。

 

<違反事項の内容>

労働基準法・最低賃金法違反により送検したのは36件で、主な送検事項は、賃金・退職金不払に関する違反が14件、労働時間・休日に関する違反が5件、割増賃金不払に関する違反が3件でした。

労働安全衛生法違反により送検したのは45件で、主な送検事項は、高所からの墜落・転落や機械等への接触等についての危険防止措置に関する違反が36件(前年比17件増)のほか、労災隠しが2件でした。

 

<今後の対応について>

東京労働局と管下の労働基準監督署では、法違反を原因として重大な労働災害を発生させたものや、同種の法違反を繰り返し、遵法状況に悪影響を及ぼすもの等、重大・悪質な事案に対しては、引き続き、送検も含め厳正に対処していくとしています。

 

<解決社労士の視点から>

企業に遵法経営が求められるのは当然ですが、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの罰則に触れる行為は、犯罪として送検され、刑事裁判を経て刑の執行に至ることもあります。

「悪質な事案」と判断される基準としては、必ずしも金額の多寡ではなく、違法行為の反復・継続、あるいは報告の拒否、虚偽の報告といったことが重視されています。

なお、「労災かくし」というのは、一般に労働者死傷病報告を提出しないことをもって判断されます。

一連の労災保険関係の手続の中でも、特に漏れがないように注意しましょう。

 

2022/07/03|2,170文字

 

<出向の意味>

「出向」とは、他の企業の指揮監督下で労務を提供する形態の雇用契約です。

元々在籍している企業を「出向元(しゅっこうもと)」、実際に勤務している企業を「出向先(しゅっこうさき)」と言います。

出向元から見て、他の企業に出向することを「出出向(でしゅっこう)」と言います。

反対に、他の企業から受け入れている出向を「入出向(いりしゅっこう)」と言います。

また、籍を元の企業に置いたまま他の企業に出向する「在籍出向」と、元の企業の籍を失って他の企業に出向する「転籍出向」とがあります。

「在籍出向」では、出向元・出向先の両方との間で雇用契約が成立しています。2つの契約には矛盾が生じうるので、これを調整するため、一般には出向元と出向先の間で出向契約という契約が交わされます。

「転籍出向」では、出向元との雇用契約が解消され、出向先との雇用契約のみになります。元の企業に戻る可能性は、その企業のルールや慣行によります。

厄介なことに、これらすべてが一口に「出向」と呼ばれます。

しかも「出向」と言った場合に、どの「出向」を指しているかは企業によって異なります。

 

ここでは、最も一般的な在籍出向に限定して述べます。

 

<出向命令の根拠>

出向元が従業員に出向を命ずる根拠は、就業規則や労働条件通知書に記載されているのが一般です。

モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、次のように規定しています。

 

【人事異動】

第8条  会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。

3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

 

こうした規定が無ければ、出向命令はできないのですが、会社と従業員とが新たに合意して出向契約を交わすことは可能です。

 

<出向拒否の根拠>

労働契約法は、懲戒や解雇と同様に、権利の濫用にあたる場合には無効であることを規定しています。

 

【出向】

第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

 

ここで、「その他の事情」には、出向後の労働条件の説明、不利益変更の有無、出向命令を受けた従業員の個人的な事情などが含まれます。

先ほどのモデル就業規則第8条第3項と併せて読むと、次のような事情があれば、出向拒否をする正当な理由があるということになります。

 

【出向拒否の正当な理由】

1.業務上の必要が無い

2.他の不当な動機・目的をもって出向命令が行われた

3.出向後の労働条件の説明が無い

4.出向により賃金の減額など労働条件が不利益に変更される

5.個人や家庭の事情により出向に対応できない

 

<1.業務上の必要>

企業は、関連会社との人材交流、出向者の技術取得、現場経験、あるいは出向先での技術指導を行わせるなどの必要から、出向を命じます。

慣例として、ローテーションで出向命令が出されているようなケースでは、これに該当することが多いでしょう。

しかし、業務上の必要の判断は、一般には企業側に裁量権があります。

 

<2.他の不当な動機・目的>

社長の個人的な恨み、組合活動への報復、年次有給休暇の取得が多いなどの理由で出向命令が出された場合には、出向命令に正当な目的がありませんから、権利の濫用となり無効となります。

 

<3.4.出向後の労働条件>

出向後の労働条件について、対象者に個別あるいは説明会で具体的に説明する必要があります。

就業規則に詳細を定めてしまえば、対象者への説明はかなりの部分が省けます。

労働条件の不利益変更については、一般の場合と同様に、個別の同意を得るか就業規則の定めが必要となります。

ただし、著しい不利益変更であれば、本人の同意があっても、権利の濫用や公序良俗違反(民法第90条)とされ無効になることもあります。

 

<5.個人や家庭の事情>

たとえば、育児介護休業法には次の規定があります。

 

【労働者の配置に関する配慮】

第二十六条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

 

企業は、子の養育や家族の介護に大きな支障が出ないように配慮をすることが必要です。

そして、可能な措置を尽くしても、なお大きな支障が出るのであれば、出向を拒否されても仕方が無いことになります

この他、出向者本人の生活に大きな支障が出る場合、たとえば勤務そのものが困難であるとか、持病の治療が継続できなくなるなどの正当な理由があれば、出向を拒否することに正当な理由が認められます。

 

企業が出向命令を出すには根拠規定が必要なこと、出向者に対する説明と出向者からの聞き取りも必要なことを忘れないようにしましょう。

出向拒否があっても、就業規則の規定だけを見て懲戒や解雇を検討してはならないのです。

 

2022/07/02|1,924文字

 

<公務員の場合>

公務員が得る報酬の財源は税金ですから、重い職務専念義務が課されています。

ですから、ほとんどの場合はダブルワーク禁止です。

親から相続したマンションを経営して収入を得ているのがダブルワークにあたるという理由で、辞めさせられるという実例もありました。

 

<民間企業の場合>

民間企業では、会社が給与を支払っています。

その給与の財源は税金ではありません。

ですから、社員が自社の職務に専念しなかったり、ダブルワークをしたりということに対して、厳しい態度を取る必然性はありません。

 

<ダブルワークの理由>

ダブルワークを希望する人の中には、今の収入では足りないので、より多くの収入を得るために別の仕事をしなければならないと言う人がいます。

こうした人たちは、会社が給料を上げてくれれば、ダブルワークの必要などないと考えています。

しかし中には、別の仕事もしてみたい、家業を手伝いたい、別の分野で自分の能力を高めたい、将来の独立に向けて準備したいなど考えている人もいます。

働き方改革の流れで、政府は副業・兼業を推奨していますから、ダブルワークを希望する人は今後も増えるでしょうし、企業も対応を迫られています。

 

<ダブルワーク禁止の理由>

会社としては、社員が別の会社で働くと、体力・精神力を消耗して疲れてしまい、自分の会社で充分な働きができないのではないかという不安があります。

実際に、そうしたケースがあるのも事実です。

また、社員がライバル会社で働いたら、会社の機密が漏れるかもしれません。

ただ、これは会社の重要な情報を握る立場にある人限定で考えればよいことです。

社員一般にあてはまる話ではありません。

むしろ、女性社員が性風俗店でアルバイトしたら、会社の評判が落ちるのではないか、さらには男性社員でも違法カジノでアルバイトしたら、摘発されたとき自分の会社の名前もマスコミに報道されるのではないか。

こうした不都合が発生することを恐れて、会社としてはダブルワークを禁止したいのです。

平成31(2019)年3月に改定された時点で、モデル就業規則の規定は次のようになりました。

これを参考に、社内規定を調えてはいかがでしょうか。

 

【副業・兼業】

第68条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

 

<ダブルワーク禁止の有効性>

就業規則で「ダブルワーク禁止」としたり、社員に「ダブルワークしません」という念書を提出してもらったりした場合、これらは有効なのでしょうか。

基本的には、憲法が職業選択の自由を保障していますから、原則として効力がないということになります。

では、就業規則や労働条件通知書にダブルワークをした場合の懲戒処分や解雇の規定を置いたら、その効力はどうなのでしょうか。

この場合には、ダブルワークのすべてについて有効になるというわけではありません。

実際に有効とされるためには、次の2つの条件をクリアする必要があります。

 

・具体的なダブルワークの中身が会社に大きな不都合をもたらし、懲戒処分や解雇をすることについて、客観的な合理性が認められること

・懲戒処分や解雇をすることについて、社会一般の常識から考えても仕方のないケースだといえること

 

これらの条件は、労働契約法第15条・第16条によるものです。

 

<留学生の場合>

ちなみに留学生の場合には、勉強のために入国しているのですから、アルバイトなどの活動は、本来の入国目的とは異なるということで制限されています。

留学生は資格外活動許可を受けた場合に限り、アルバイトを行うことができます。

一般的に、アルバイト先が風俗営業または風俗関係営業が含まれている営業所でないことを条件に、1週28時間以内を限度として勤務先や時間帯を特定することなく、包括的な資格外活動許可が与えられます。

また、在籍する大学などの長期休業期間は、1日8時間以内に延長されます。

そして、資格外活動の許可を受けずに、あるいは条件を超えてアルバイトに従事した場合は不法就労となります。

ですから、夏休みなど長期休暇を除けば、留学生がダブルワークをするというのは難しいでしょう。

留学生が国外退去処分になったり、会社が営業停止処分になっては困りますから。

 

2022/07/01|868文字

 

<受給期間の特例の新設>

失業手当(正しくは雇用保険の基本手当)の受給期間は、原則として、離職日の翌日から1年以内となっています。

令和4(2022)年7月1日から、事業を開始等した人が事業を行っている期間等は、最大3年間受給期間に参入しない特例が新設されています。

これによって、仮に事業を休廃業した場合でも、その後の再就職活動にあたって、基本手当を受給することが可能になりました。

 

<特例申請の要件>

特例を申請するためには、事業が次の5つの要件すべてを満たす必要があります。

 

・事業の実施期間が30日以上であること

・「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過した日が受給期間の末日以前であること

・その事業について、就業手当や再就職手当を受給していないこと

・その事業によっては自立することができないような事業ではないこと

・離職日の翌日以後に開始した事業であること

 

雇用保険に加入(資格取得)する人を雇い入れ、雇用保険適用事業の事業主となれば、自立することができる事業と認められます。

また、登記事項証明書、開業届の写し、事業許可証等の客観的な資料で、事業の開始、事業内容、事業所の実在が確認できる場合にも、自立することができる事業と認められます。

「離職日の翌日以後に開始した事業」には、離職日以前に事業を開始し、離職日の翌日以後にその事業に専念する場合を含みます。

 

<申請方法>

次の提出書類を、住居地を管轄するハローワークなど、受給資格決定を行ったハローワークに直接持参または郵送します。

 

・受給期間延長等申請書

・離職票-2または受給資格者証

・事業を開始等した事実と開始日を確認できる書類

 

<申請期間>

「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」の翌日から2か月以内に申請します。

ただし、就職手当または再就職手当を支給申請し、不支給となった場合には、この期間を超えても、これらの手当の支給申請日を特例の申請日として受給期間の特例を申請できます。

 

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