2022/07/28|1,027文字
<効力の優先順位>
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」〔労働基準法第13条〕
これが労働基準法の規定です。
「達しない」というのがキーワードです。
労働契約で法律よりも低い労働条件を定めて労働者に不利となる場合には、その部分を無効にして法律に従うという意味です。
逆に、労働契約の中に法律よりも有利な部分があれば、その部分については労働契約が有効となります。
結局、法律と労働契約を比べて、違いがある部分については、労働者に有利な方が有効となります。
この場合、労働契約は個別の労働者との契約ですから、有利・不利の判断は個人別に行われます。
しかも、ある時は有利、ある時は不利という場合には、その時々で有利な方が有効となります。
<具体例>
たとえば、試用期間が終わり本採用となってから6か月後に年次有給休暇が付与されるという労働契約は法律よりも不利です。
本人が同意していても、その同意は無効であって、法律の基準により年次有給休暇は試用期間の初日から6か月後に付与されます。
またたとえば、1日7時間勤務の会社で、7時間を超えて勤務したら時間外割増賃金として25%を加えるという労働契約は法律より有利です。
なぜなら労働基準法は、8時間の法定労働時間を超える残業に割増賃金を義務づけているからです。
この場合には、労働契約が優先されます。
<労働契約が無い?>
働いている限り、労働契約が無いということはありません。
口頭であっても、労働契約は有効です。〔民法第623条〕
ですから、正確には「労働契約書」が無い場合ということになります。
契約書ではなくても、労働条件を会社から一方的に通知する「労働条件通知書」でもよいのですが、何も無ければ労働基準法に定める条件が適用されることになります。
ただ、何時から何時まで、どこで、どのような仕事をするのか、休憩時間はどうなのかということは、法律に規定がありません。
これでは働く人があまりにも不安定ですから、会社には労働条件を書面で交付するなどの法的義務があります。
違反に対しては、1人につき1回30万円以下の罰金という罰則もあるのです。
交付されていない場合には、労働者から会社に確認してみる必要があるでしょう。
うっかり忘れているだけかも知れません。
それでも交付されない場合には、早めに転職先を見つけるようお勧めします。