シフト調整し社会保険に入れないのは不当か

2022/07/31|2,103文字

 

<一般の社会保険加入基準>

会社で働く人は、一定の条件を満たした場合、自動的に社会保険(健康保険と厚生年金保険)に入ります。

会社には、手続をする義務があります。

その一定の条件とは次の3つです。

・会社が社会保険に加入している事業所(適用事業所)であること

・週所定労働時間が、正社員など正規職員の4分の3以上であること

・臨時、日雇い、季節的業務で働く人ではないこと

 

<大企業での加入基準>

平成28(2016)年10月から、社会保険の適用対象者が拡大されました。

週20時間以上働く短時間労働者で、厚生年金保険の加入者(被保険者)数が常時501人以上の法人・個人・地方公共団体に属する適用事業所および国に属する全ての適用事業所で働く人も、厚生年金保険等の適用対象となっています。

 

【平成28(2016)年10月から拡大された適用対象者】

勤務時間・勤務日数が、常時雇用者の4分の3未満で、以下の①~⑤すべてに該当する人

① 週の所定労働時間が20時間以上あること

② 雇用期間が1年以上見込まれること

③ 賃金の月額が8.8万円以上であること

④ 学生でないこと

⑤ 被保険者数が常時501人以上の企業に勤めていること

⑤の企業を特定適用事業所といいます。

 

<中小企業への基準適用>

平成29(2017)年4月からは、加入者(被保険者)数が常時500人以下の企業であっても、労使合意に基づき申出をした企業では、上記の基準が適用されています。

 

【平成29(2017)年4月から拡大された基準適用企業】

次の同意を得たことを証する書類(同意書)を添付して、本店または主たる事業所の事業主から所轄の年金事務所に「任意特定適用事業所該当/不該当申出書」を提出した企業

・従業員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合の同意 

・こうした労働組合がないときはA、Bのいずれかの同意

A.従業員の過半数を代表する者の同意

B.従業員の2分の1以上の同意

このような手続をした企業を任意特定適用事業所といいます。

 

企業が新人を採用する際には、社会保険の加入について十分な説明を行うはずです。

しかし、加入基準が複雑になってきていますので、採用される側としても、「前に働いていた会社と同じ条件で働くのだから、社会保険には入らないのだろう」という先入観をもたずに、きちんと確認する必要があります。

 

<社会保険に入る入らないの損得>

プライベートのケガや病気で働けないとき、健康保険なら傷病手当金によって賃金の67%が保障されます。

この傷病手当金は、国民健康保険にはありません。

年金は、国民年金よりも厚生年金のほうが、将来受け取る老齢年金も、万一の場合に受け取る障害年金も金額が多いのが一般です。

保険料の負担は、社会保険なら会社が半分負担で、国民年金や国民健康保険では全額自己負担です。

それでも、給料から控除される社会保険の保険料は多額だと感じられます。

会社にとっては、従業員が社会保険に入ると会社の保険料負担が発生しますから、入って欲しくないと考えるかもしれません。

結局、将来の生活や万一のことを考えると社会保険に入るのが得で、今の生活費を重視するならば入らないほうが楽といえそうです。

 

<シフト調整が正当な場合>

たとえば、正社員の所定労働時間が1日8時間、1週40時間の場合に、労働契約で所定労働時間が1日7時間、1週28時間、週4日勤務のシフト制で働く従業員は、社会保険には入らないことになります。

労働契約上も、社会保険に入らないことになっているので、会社も従業員も入らない前提です。

この場合に、前提が崩れないように、労働契約の範囲内でシフト調整するのは正しいことです。

 

<シフト調整が不当な場合>

たとえば、正社員の所定労働時間が1日8時間、1週40時間の場合に、労働契約で所定労働時間が1日7時間、1週35時間、週5日勤務のシフト制で働く従業員は、社会保険に入ることになります。

もし、社会保険料の負担を逃れるなどの目的があって、会社が社会保険に入る手続を怠れば、それ自体違法ですし、シフト調整は単なる悪あがきにすぎません。

また、最初から労働条件通知書(雇い入れ通知書、雇用契約書)を従業員に交付しないのは、それ自体違法ですし、社会保険加入基準を満たさないようにシフト調整をするというのはおかしなことです。年金事務所や会計検査院の調査が入っても指摘を逃れるかもしれませんが、労働基準監督署の調査(監督)が入ればアウトです。

 

<解決社労士の視点から>

シフト調整して社会保険に入れないことがあったとして、それが正しいのか、それとも不当なのかは、労働契約の内容次第だということになります。

大企業の特例で、厚生年金保険の加入者(被保険者)数が常時501人以上となっている基準は、令和4(2022)年10月から101人以上となりますし、令和6(2024)年10月からは51人以上となります。

将来的には、会社の規模にかかわらず、現在の大企業の基準で社会保険に加入することになります。

なんとかして、社会保険に入らない、入らせないというのは、諦めなければなりません。

 

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