2024/11/07|1,578文字
<自主点検表>
自主ですから「自社はどうなのか」ということで、自己点検に用いるのが本来の趣旨です。
しかし現実には、所轄の労働基準監督署から送られてきて、自己点検を迫られるのです。
「この点検表は、御社の労務管理が労働基準法等に照らして問題ないかを自ら点検し、問題があれば自主的に改善するきっかけとしていただくためのものです。それぞれの設問の回答のうち、御社に当てはまるものを選んでください」という、やんわりとした説明が加えられています。
しかし、「自主点検した結果は、別紙「労働条件に関する自主点検結果報告書」に転記の上、同封の返信用封筒を用いて◯月◯日までに、御返送いただきますようお願いします」ということになっていますから、決して自主的なものではありません。
<労働基準監督署の監督>
自主点検結果に違法な項目があれば、所轄の労働基準監督署から立入調査(臨検監督)が入ります。
「問題があれば自主的に改善するきっかけとしていただく」ということですから、自主点検結果報告書を提出してから一定の期間を経過していれば、改善済みになっている筈という建前です。
改善が滞っていれば、当然に行政指導が入ります。
指導が入れば、これに対して改善内容の報告をする義務があります。
かといって、自主点検結果報告書の提出を怠っても立入調査の対象となりますし、虚偽の報告に対しては罰則の適用もありえます。
<所定労働時間>
一般の事業では週40時間、労働者数10人未満の商業・接客娯楽業等の事業場では週44時間が所定労働時間の上限ですから、これを上回れば違法ということになります。
実態としては、所定労働時間を決めていないので答えようがないという中小企業もあります。
労働者の都合を踏まえ、話し合いで出勤日や労働時間を決定しているので、むしろ望ましい状況なのですが、法律の規定に照らすといけないことになってしまいます。
変形労働時間制など、労働基準法が準備している制度の利用が求められます。
<休日>
労働基準法では、週1日または4週4日が法定休日となっています。
このうち、4週4日には運用のルールがあるのですが、これを遵守していないこともあります。
また、飲食店などでは、月8日という休日の定め方をしている場合もあります。
これらは労働基準法違反なのですが、当事者にはピンと来ない部分です。
労働基準監督署の指導が入っても、対応に苦慮することになります。
しかし、労働基準監督署からは適法になるまで是正を求められます。
<三六協定>
三六協定を所轄の労働基準監督署長に届出していない企業、協定が期限切れのまま放置している企業も多数あります。
この場合、1分の残業が違法であり犯罪ということになります。
残業した労働者ではなく、残業させた使用者に罰則が適用されます。
これもついうっかりの手続ミスですが、「忘れていました」は言い訳になりません。
自主点検表でチェックした結果、忘れていることが判明したので、あわてて三六協定の届出をしましたということであれば、ギリギリセーフといったところです。
<最低賃金>
試用期間、固定残業代などで、うっかり最低賃金を下回ってしまうことがあります。
たとえ短期間でも、最低賃金を下回ることは、最低賃金法違反の犯罪ですから注意が必要です。
<就業規則>
働き方改革や少子高齢化対策で、法改正があまりにも頻繁です。
就業規則の内容を適法に維持するのは、困難を極めている状態です。
しかし、内容が適法で、しかも実態が就業規則通りであることが求められます。
<実務の視点から>
自主点検表の最後には、「セミナー及び個別訪問の参加希望」の欄が設けられています。
労働法への完璧な対応に自信が無ければ、これに申し込むことによって、改善の猶予が与えられます。
可能な限り、これを希望するのが得策だと考えられます。