2023/11/25|1,302文字
<賞与か給与か>
成績不良という場合、その立場に見合った成果が上げられなかったのであれば、一般には、人事考課を通じて賞与の金額に反映されます。
しかし、何期にもわたって成果が上がらない、教育しても成長しない、そもそも向上心が無いという場合、他の社員との公平から、給与の減額を検討せざるを得ないこともあります。
<個別の合意による場合>
対象となった社員本人から個別の合意があれば、原則として給与の減額は可能です。
【労働契約法第3条第1項:労働契約の原則】
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。 |
「対等の立場における合意」ということですから、多数の社員で取り囲んで合意を迫ったり、本人が明確に拒んでいるにも関わらず繰り返し合意を求めたり、誤解を招くような説明をして合意を得たとしても、錯誤・詐欺・強迫による意思表示であったとして、意思表示が取り消されることもありえます。〔民法第94条、第95条〕
ですから、本人に対して十分な説明を尽くし、納得してもらったうえで合意を得ることが必要です。
「合意しなければ解雇になる」というような説明は、錯誤・詐欺・強迫のいずれにも該当しうるので、避けなければなりません。
また、就業規則に、給与の減額を否定する規定があったり、給与の減額を想定する規定が全く無かったりすれば、労働者に不利な労働契約に優先して就業規則が適用されることとなり、給与減額の労働契約変更が無効とされることもありえます。
<就業規則の変更による場合>
制度と就業規則を変更して、就業規則の適用という形で、一定の基準に基づき該当する社員の給与を引き下げることも可能です。〔労働基準法第89条第2号〕
ただし、就業規則に定められた労働条件は、合理的なものであることが必要ですし、就業規則は周知されていなければなりません。〔労働契約法第7条〕
給与については、概要のみを就業規則に定めておき、詳細は内規・運用細則などに定めて非公開とすることも行われていますが、これでは周知されていることにはなりません。
そして、合理的といえるためには、どのような条件でいくらの減額となるのかが明確であり、その要件・効果が合理的であって、給与減額の手順も合理的である必要があります。
何パーセント以内の減額であれば合理的であるというような、客観的な基準はなく、具体的な事情を踏まえて判断することになります。
また、一度に減額するのではなく、激変を緩和するため数年間は調整給を支給し、段階的に調整給を減額するなども、合理性を確保するために有効な手段です。
本人としても、調整給のある間に昇給して、元の給与水準に戻れるよう目標が明確になります。
<実務的な視点から>
成績不良を理由に給与を減額する場合、人件費削減を意図しているのではないか、退職に追い込むための嫌がらせではないかなど疑われたのでは、訴訟トラブルに発展しかねません。
給与の減額については、就業規則に具体的な定めを置くとともに、対象となる社員から個別の同意を得ることによって、トラブル発生のリスクを最小限に抑えておきたいものです。